少女マンガと僕
僕はいい歳をしたおっさんなのだが、未だにマンガをよく読む。
おっさんが読むマンガとなると、まず頭に浮かぶのは「漫画ゴ○ク」系だろうか。
下着メーカーのサラリーマンが実はヤ○ザだったり、関西弁の金貸しが騒いでいたり、何か知らんけどラーメンがやたら出てきたりするやつだ。
しかしながら、僕はこの系統の作品には興味はない。よい歳をしていてなんだが、普通に中高生が読むようなものを好んで読む。
まあこんなサイトに顔を出すくらいなのだから、ヲタっぽいのは間違いのない事実だ。
別にそれが恥ずかしいとは思わないし、面白いものはいくらおっさんになろうが面白い。
そうは言っても、余程仲良くなった人にしか言えないようなこともある。
匿名で投稿しているから書けるが、実は少女マンガも大好きだ。流石に恋愛要素が前面に押し出されたものは苦手だけれども。
少女マンガをよく読むようになったのは、高校生からだ。姉妹がいなかったので全く読んだことがなかったのだが、初めて読んだ作品があまりにも面白くて、そこからどっぷりとはまってしまったのだ。
とりあたま少年は高校生の頃は理系クラスに在籍していた。それほど理系の特性がある訳ではなく、いざとなったら文転すればよいというような不純な動機だった。
数学はぼちぼち出来たのだが、物理と化学はからっきしだった。特に物理。二年生の半ばで諦めの境地に達してしまい、読書の時間になってしまった。
その日の物理の授業中も自主的に読書に勤しんでいた。読書といってもマンガだが。
もう開き直っていたので、雑誌サイズのでかい「ア○ラ」の単行本を読み更けっていた。
その授業後の休み時間に隣の女子が話し掛けてきた。別に仲が良い訳ではなく、ほぼ話したこともなかったのだが。
「とりあたま君はマンガが好きなの?」
嫌いなら授業中に読まんだろと思いながら、「まあ普通に読むよ」と答えた。
そこからの食い付き方は凄かった。そこそこの進学校の理系クラス。女子など10名もいない。それに今よりもずっと、ヲタっぽい人種には風当たりが強かった時代だ。話が合う相手に恵まれなかったのだろう。
どんなものを読むのかと尋ねられ、自分はこんなものを読むと捲し立てられた。怒涛のマシンガントークに圧倒されたことは覚えている。
そして「今度凄く面白いのを貸してあげる」とのお言葉。このようにして、とりあたま少年は引き返せない道へ足を踏み出してしまったのだった……
その数日後、彼女がニコニコしながら手渡してきたのは数冊の少女マンガだった。
「少女マンガかよ」と思いながらも受け取って、流石に授業中ではなく、帰宅してから読み始めた。
「なんじゃこりゃ。めちゃくちゃ面白いやん!」
作品名は明記しないが「前世で月」というキーワードで、「ああ、あれね」と分かる方も多数いらっしゃるだろう。
当時は未完で続きが気になってたまらなかった。在学中に完結するのなら、彼女に借りればよい。しかし、そうはならなかったのだ。
こうやって人目を気にしながら、少女マンガを購入する怪しい男が一人誕生したのだった。
今はア○ゾンもあるし、スマホにデータを落とせばよいが、そんな便利なものは当時には存在しない。マンガは本屋の店頭で買うしかないのであった。
幸いなことに、近所の本屋の店員と仲良くなり気恥ずかしさは軽減されたのだが。
その作品は無事に完結して、当然のように全巻購入していた。
話の流れからいって、これだけでは済まないことは察しがつくだろう。
だって面白いのだ。多少人目が気になることくらいなんだとばかりに、他の作品も購入しまくったのだった。
一人のおっさんが、よい歳をして少女マンガも読むよという、しょうもない話でしかない。
しかし、勧めてくれた彼女には感謝している。
「食わず嫌いはよくない」
「まず実際に体験することが大事」
ということを思い知らせてくれたからだ。
無理やりよいところに落とそうとしたが、やはりしょうもない話には変わりない。
これで彼女と付き合って、今の嫁さんだとかいうこともない。
ただのおっさんの昔話でしかないのだった。




