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#3


 夕方、木々がざわついていた。

 山火事かもしれない。岩男は耳を澄ました。木々は話さず語らず、揺れるばかりだったが、岩男は木々の持つイメージを汲み取った。

 妖怪というものには、皆何某かの特殊能力が備わっている。それは、人間の常識を外れた特徴こそが、妖怪という存在そのものだからだ。岩男には、岩を生かした特長が幾つか備わっていた。それは往々にして、物の役にも立たない酷い癖のようなものだったが、中にはこうした、超能力と言えるような能力も備わっていた。

 どうやら、山火事は起きていないようだ。

 木々、土々、虫々、鳥々、全ての記憶が彼に解釈として取り込まれる。

 先ほどの集団は、やはり、岩男が思っていたエリート妖怪だったようだ。

 一つの可能性が頭をかすめた。


「うーむ。もしかしたら……」


 エリート妖怪集団は、つまり、一時この山を拠点として、悪徳な妖怪共の討伐を行おうとしているのかもしれない。まだ下見の可能性もあるが、このような田舎まで足を運んだとなれば、そうのんびりはしていないだろう。

問題はその相手だ。

 この町には、最近精力を伸ばしつつある、北欧渡来の妖怪たちがいる。恐らく、そいつらが目当てだろう。北欧渡来の妖怪たちとは、海の向こうで厄介払いされたり、居場所を失ったりした妖怪連中だという話だ。日本の妖怪よりも人間的で、知的で、体格の良い妖怪が多い。彼らの特徴として、冷酷とも言えるクールさがあった。それが北欧由来のものなのか、爪弾き者の性なのかは分からない。

 何人かの日本妖怪が被害に遭ったらしいことは知っていた。多くは縄張りに関するいざこざだった。しかし、その被害もまだ地元レベルの話であり、その用件のためだけにエリート妖怪たちが遥々やってくるなんてことは考え難いことだった。


 もしかしたら、思っているよりも事態は進行しているのかもしれない。

 岩男は思った。

 彼は、考えることも得意分野の一つだった。しかし、動くことは不得意分野の一つだった。彼は思想を巡らしながら、ああ、ここ数十年間継続していた平穏が乱されることが無ければいいが、と、自分の両膝に手を置いて溜息をついた。


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