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#19


「お金貸してください」


 と、勇気を出して切り出してみたものの、相手は完全に怯えていた。

早まった……。

 果歩は思った。


 勿論。私はヒッキーと喋ることに慣れ切っていたけれど、この人からしたら、独り言の物凄い、不審で不登校な見知らぬメンヘラ女学生以外の何者でもない。しかも金を貸せですって! バカバカ、私のバカッ! 新手のカツアゲにも程があるわ!


 しかし今更無かったことにも出来ず、果歩は、男のことを見つめたまま硬直していた。顔の筋肉が強張った。



 カツアゲだ!

 と、南は思った。こんな普通そうな女の子から、こんなに恐ろしい顔でメンチ切られるなんてことは初めての経験だった。

 果歩は、僅かにしゃくれ出た顎を引っ込めることもできないまま、「すみません」と謝った。南は当惑していた。

 果歩は言った。


「あの、まあ、突然でこんなお願いをするのはおかしいと思いますが……。本当に返しますので、お金を貸してほしいんですよね。何ていうか私、家出中で、親も当てにできないので食事とか厳しくて。ほら、小銭しかないんですよ。小銭しかないのに、バスに乗ってるんですよ。世知辛いですよね」

「はあ……」

「私が、つまり……。飢えたりしたら、やばいですよね。ほら、昨日も、廃屋に泊まったんですよ。その前は廃ビルで襲われかけたし、もしかしたら、あなたが救ってくれなかったら私、どうなるか分からないですよ。もしものことがあったら、お兄さんも寝つき悪いですよね……」

「ええと。そうですね。でも、普通にバイトとか探してみたらどうですか?」

「いやいやいや! 給料もらえるの一か月先じゃないですか……。あ、それに実は私、妖怪に取り憑かれてまして、気を抜くと引きこもってしまうんですよ」

「妖怪? 引きこもる?」

「はい。まあ、妖怪というか霊というか。行ってることヤバいですよね……。でも、本当なんですよ。マジで。自分でも信じられないくらい本当なんですよ……」

「じゃあ……。ええと……。さっきはその、妖怪と喋ってたの?」

「そう! そうなんです! ハッキリと見えてしまう体質らしくて。え? ちょっと黙ってて」

「はい?」

「あ、いえ。こっちの話で。このクズ妖怪がちょっと……ごめんなさい。しかも私、恩人がおりまして。その恩人も妖怪というか……妖怪なんですけど、その人が困っているので助けたく思っていまして、まあ、なんて言うか……」


 果歩は、この話を続ければ続けるほど狂人としての地位を確立できそうだぞと感じていた。どう取り繕ったら良い物か、全く分からなかった。

 しかし、また他の人間を見つけて金を貸してくれだなんて言うのは真っ平だ。この機会を逃す手は無い。


「ねえ、君もしかして……」


 相手の男が攻勢に回ったので、果歩は一気に警戒を強めた。顔はしかめっ面に戻っていた。


「え……なんですか」

「いや、もしも本当に幽霊が見えるなら、仕事を手伝って欲しいんだけど……。そうしたら幾らかは貸すことが出来るし。助けに慣れると思うよ。報酬が出るからね、仕事の」

「仕事って?」

「僕いま、除霊の仕事を受けてるんだ」


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