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48.王都襲撃編 かくして少女騎士は出撃す+おまけ

 いよいよ「王都襲撃イベント」が開催される。

 この日のためにギルド「王国教習所」のアジトはカスタマイズされている。屋上には一台の大型バリスタ。正方形の石ブロックで建築された砦風の建物には両開きの鉄の扉があり、扉を抜けるとすぐに回復クリスタルが設置してある。

 回復クリスタルの周囲五歩はモンスターの入れない空間となっており、石畳の床にうっすらと結界らしき光りがひかれている。

 外周も壁で囲い。正面には大きな鉄扉。ここをくぐると広い中庭が広がる。中庭全体はバリスタの射程距離におさまるよう計算して設計されているという完璧なつくりだ。


 ギルド「王国教習所」のメンバー全員はアジトのクリスタル前で今か今かと襲撃開始の合図を待っていた。

 ボスを討伐する中庭担当と、ボスを誘引する役目はリーダーであるゴルキチとグルード。モンスターの様子を見て指示を出しつつ、道を開く遊撃役はしゅてるん。危険に陥ったメンバーを救うのはイチゴ。中庭へ大型バリスタを発射するのはメイリン。

 それぞれの役割を再確認したところで、運営からメッセージが届く。


<お待たせいたしました。これより王都襲撃イベントを開催いたします。皆さんの奮戦を期待いたします>


「よし、行くぞ!」


 リーダーらしく掛け声をかけるゴルキチに続き、メイリン以外の全員が外に飛び出していく。ちょうどそこへ、ギルド「王国教習所」アジトの隣にアジトがある「ウォーリアーズ」のメンバーも出てくる。


「ゴルキチ、今日はお互い頑張ろう!」


「チーズポテトさん、こちらこそ。お互い頑張りましょう!」


 チーズポテトとゴルキチはお互いの健闘を祈り敬礼のポーズを取る。


 まずはリザードマン狩りだ。飛び出したプレイヤー達は一斉にリザードマンを狩っていく......十分も経たないうちに難易度9「金古龍」が出現。これはチーズポテトが引っ張っていく。

 すぐに難易度10「覇王龍」が出現したのでこれはゴルキチが引っ張り、中庭でグルードが待ち構える。

 順調に出たボスをそれぞれの中庭に引っ張っていくギルドの面々。


 狩れば狩るほど出現するボスは、いつ終わるのだろうかと少し不安になるゴルキチであったが、それぞれが役割をこなし全く危なげがない。

 今回は難易度10「覇王龍」と難易度10「氷龍」が同時に出現する。合図でチーズポテトらが「覇王龍」を引っ張るのが分かったので、ゴルキチは「氷龍」の担当だ。


 氷龍を引っ張ろうとクロスボウを構えたゴルキチであったが、突如フィールドにとんでもないボスが出現する。


 ティラノサウルスに似た容姿をもつそれはレイドボス「暴帝」だった。


 やばいなんてもんじゃないぞ。レイドボスは難易度10ボスを凌ぐ超級のボスになる。通常は十分間しか戦えず、その代わり暴帝の体力は回復しない。

 つまり、超級の強さを持つ代わりに何度か挑み討伐することができるボスなのである。

 それが、フィールドに出てきた。強さは確かに一つの問題だがささいな問題に過ぎない。ボスと雑魚が入り組むこの戦場と暴帝の相性は最悪極まる。

 暴帝の攻撃は、実際に当たらずとも暴帝一匹分ほどの見えない吸い込みエリアが存在する。


 暴帝の最大の問題は無差別なターゲット変更にある。次々にモンスターであろうが吸い込み、捕食し目に入るターゲットは入った順に即変更される。


 最悪だ。


 ゴルキチは独白する。フィールドに出現している氷龍を始めとしたボスを含め全て暴帝に乱され、ボス隔離なぞできなくなるだろう。


 厄介なことに暴帝はターゲットを固定しない。

 いや、待てよ。ゴルキチの中の竜二はあることを思い出す。

 暴帝を引っ張ることは可能だ。しかし......戸惑いは瞬時に諦めに変わり、これしかないかと達観へと移行する。




 フィールドに二本の足で立つ大型の恐竜が暴れまわる。

 それは難易度10「暴帝」、ティラノサウルスをモチーフにしたレイドボスだった。


 まさに最狂。周囲にいる人だろうがモンスターだろうが構わず襲いかかる。

 まさに最凶。尻尾を振るうたびに、爪を振るうたびに、全てを牙の並ぶダラダラとヨダレが垂れる口に吸い込む。


 触れていないのに吸い込まれる人とモンスター達。

 暴帝の名に恥じない暴虐性を遺憾なく発揮するティラノサウルスに、場は乱れに乱れ阿鼻叫喚の地獄絵図に一瞬で変貌してしまう。


 チーズポテトは暴帝を引っ張ろうと飛び込んで行くものの暴帝は目に入る動く者へ次々とターゲットを変えて行くため、思うように動いてくれない。

 そこに氷龍や覇王龍まで混じってくるものだから、もはや整然とした戦闘行為は不可能となってしまった。

 これを見たグルードは、アジトからフィールドへ飛び出しチーズポテトのサポートへ入る。彼らの連携は抜群で、グルードが盾で塞ぎつつ、その隙間からチーズポテトがハルバードで攻撃を当てて行く。しかし、暴帝が近寄ると引かざるを得なくなる。

 ターゲットが乱れすぎて彼らを持ってしても動きが全く読めないのだ。


 その時だった。


「騎士たちよ!戦士たちよ!戦いに赴く全ての勇気ある者たちよ!暴帝など何するものぞ!」


 「王国教習所」アジトの頂上に現れた少女騎士が叫ぶ。表情に悲壮感は一切感じられず、怜悧な顔は澄んだままだ。少女騎士の姿はこの場になんとも似つかわしくない。パンサー柄のビキニを着用しているのが大きな理由だろう。


「リベール!」

「リベール!」

「リベール!」


 群衆は歓声をあげる。まるで英雄譚の一幕のように、凛とした佇まいを崩さず少女騎士は言葉を続ける。


「暴帝は私が引き受けよう!」


 彼女が着ている騎士に似つかわしくないパンサー柄のビキニには、一つ秘められた能力がある。それは暴帝を誘引する力だ。

 ビキニ少女――リベールは、パンサー装備でもって、暴帝を釘付けにしようという心つもりであった。


「王国教習所の諸君。アジトの中庭を借受ける。そこで私は暴帝を打ち倒そう!」


「リベール殿、ならば私とグルードが道を切り開きますぞ。決して暴帝以外はあなたに近寄らせますまい」


 近衛騎士チーズポテトがリベールに宣誓する。


「チーズポテト殿、グルードさん、かたじけない!いざ!」


 リベールはアジト内部へ踵を返し、出口へと向かう。


 言葉のとおりグルードが覇王龍を。チーズポテトが氷龍を。ギルド王国教習所のしゅてるんが、リザードマンを打ち下して行く。


 外壁の外に出たリベールから直線上に暴帝が地を溶かす唾液を垂らしながら咆哮を上げていた。

 目が合う暴帝とリベール!

 暴帝は駆け、一息でリベールに肉薄するも、リベールは体を後ろに引き暴帝を寄せ付けない。

 さらにリベールを追う暴帝はアジトの外壁にある扉をくぐり抜け追いつかんとさらに駆ける。


 アジトの扉が閉まる音が響く!

 機を見てしゅてるんが扉を閉めたのだ。

 リベールと暴帝は中庭でお互いを睨みつける。

 一見すると一騎打ちの様相を呈する中庭ではあるがそうではない。

 大型バリスタで狙いをつけるメイリンと外壁でクロスボウを構えるゴルキチの二人が同じく暴帝に狙いをつける。


――矢が暴帝へ飛ぶ!


 これがリベールと暴帝の開戦の合図となる。



◇◇◇◇◇


――おまけのお話「ニーハイソックス誕生秘話」

 長髪の男は今日もキーボードに向かう。

 一心不乱に。


「ククク......」


 男から不気味な笑みがこぼれる。いつものことだが、彼は知らない。彼のデスクの両端には衝立が置かれていることを。


 ここは、あるソフトウェア会社のオフィスである。男は深夜にも関わらず血走った目であいも変わらずキーボードを叩いている。


<ぺったん、ハアハア>


 送信。


 彼は時折ぺったんとキーボードで叩きながら、プログラムを組み上げる。


「ククク......」


 男が再度笑い声を上げたとき、声をかける若い社員がいた。


「和田さん、今度のイベントどうしますか?」


「ククク......すでに準備は万端だ。問題ない。田中くん、ドラゴンバスターに足らないものは何かわかるかね?」


 引きつった顔を浮かべながら、田中と呼ばれた若い社員は思案にふける。

 考え中の彼を無視して和田は半ば独白するように、語り始めるのだった。


「ドラゴンバスターでは様々な服装を作成できる。が、しかし狩りの際には使われない」


「そうですね。防御力ないですものね」


「ああ、あれだけバリエーションがあるのに、使われない。せっかくの狩りに勿体無いとは思わないかね?」


「なるほど。防具にバリエーションを追加するんですか?」


 見当違いな言葉を呟いた田中に、和田は声を荒らげて、


「違う! 違うんだ! 田中君。逆だよ。服に防御力をつけるんだ。そこで俺はあるシステムを開発した」


 和田が作成したシステムとは、よく一人で作り上げたと驚嘆する内容だった。

 「魔の森」システムと言われるそれは、これまでのボスシステムと全く違う仕組みが導入されていた。

 「木を切ることでボスが出現するシステム」簡単に言えばこれだけなのだが、実際に作るとなると一週間やそこらで作りきれるものではない。

 ずっと会社に篭っていると思っていたが、何が彼をそこまで駆り立てるのだろう。田中は和田の狂気を見た気がして背筋がひやりとする。


「このシステムを使う。報酬にニーハイソックスを出そう」


 「なるほど」と田中は思う。ニーハイソックスは色のバリエーションも多く、服装の組み合わせもやりやすいため、人気のアイテムだ。


「こいつを出すボスも作成済みだ。周知してくれ」


「分かりました」


 田中は課長へ相談を行いに、席へ戻っていった。


「ククク......簡単には取らせない。俺のニーハイソックスはな」


 この高難易度のボスを狩り続けれるのは極一部だ。しかも出現率を極端に落としておいた。ニーハイソックスを愛するなら挑戦するがいい。

 ガバっと長い髪をかきあげ、和田はキーボードを叩き始める。


<リベールたん、ニーハイ、はあはあ>


 和田の狂気はあるプレイヤーに感染したのか、一心不乱にニーハイソックスを集めるプレイヤーが後に出たという。


※本編の和田さんからの妄想です。あくまで妄想です。

熱い展開がおまけで台無しだー。

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