23.特別編 悪夢 TS(男→女)注意!
二話構成です。TS(男→女)超注意!特別編は読まなくても次に影響ありませんので、苦手な方は飛ばしてください。
唐突だが、竜二は朝起きると見知らぬ部屋で目覚めていた。
どこだ?ここは?
眠い目を擦りつつも、視界に入るのは見たことのない風景で、竜二の部屋とは明らかに異なる。
確か昨日は、しゅてるんさんへの協力最終日で......
終わった瞬間、南欧風洋館に戻りログアウトしたはず。あのニーハイ装備はもちろん脱ぎ捨ててからだ。
竜二は思案するも、まとまった考えが思い浮かばないが、何気なく指先に触れるものがある。
手にとってみると、手の先から肘くらいまでのサイズがあるうさぎのぬいぐるみだった。
これは何処がで?
ふと、天井を見上げると紫のベールがかかった天蓋。どうも自分はベッドで寝ていて、うさぎのぬいぐるみが隣にいる。
はて、何処がでこの光景を見た記憶がある。
竜二は再度思考の海に潜りそうにり、頭をガシガシと掻き毟った時に違和感を覚える。
髪が長い。髪が長いのだ!
不審に思い、自分の体を見ると服が違う。ピンクのパジャマを着ている。しかもうさぎのプリント入りだ。
想像したくない、これがどういう状況か分かりたくない。竜二は項垂れるが、ふと今年流行ったあるアニメが頭に思い浮かぶ。
男女入れ替わりもののアニメだったが、男が女と入れ替わった時に混乱していたが、男が落ち着けたある方法があった。
この体が何か想像したくはないが、まずはそれをやってみよう。
よし、と竜二はベッドから起き上がり、ぺたんと座ると、胸を触ってみる。
ないな。おっぱいはない。
あのアニメの名シーンは再現出来なくて残念だ。そんな考えが浮かんできたのだから、竜二はかなり落ち着いてきたのだろう。
さて、非常に残念なことにおっぱいはないが、下半身にも物がない。
もう想像はついている。認めたくないだけだ。
竜二は、立ち上がったときの下半身にいつもある揺れがないことで、もう気がついているのだが、まだ認めたくないと抵抗していたものの、ベッドの横に敷かれたイルカの図柄が入ったラグを見て、もう観念するしかないか、とうなだれる。
イルカラグの上で四つん這いになり、頭を再度下げた竜二であるが、ラグの脇に置かれた鏡が目に入ってしまう。
背中まである長い茶髪に、切れ長の瞳、スレンダーな体型の少女が、鏡の中で沈んだポーズを取っている。
そう、竜二はリベールになっていた!
酷い悪夢だ。一度くらいは朝起きたら別人になっていたらとか想像したことはあるにはある。しかし、よりによってリベールとか!しっかりしてくれ俺の夢!竜二は自分で自分に突っ込みを入れるものの状況は全く変わらない。
異様なアラーム音がベッドのほうから不意に鳴り響き、竜二は驚いてベッドを見ると、うさぎのぬいぐるみがブルブル震えながら、アラーム音を出している。
うさぎに触るとうさぎの口から紙が出てきた。
<今日はお休みだってーお店!ゆっくり休んでね! イチゴ>
イチゴが何かは分からないが、このうさぎはメールボックスだったか。夢の癖に細かい。
竜二は呆れながらもメッセージを読んでいた。メッセージは日本語だ。
このままここにいて夢が覚めれば良いのだが、万が一夢じゃない可能性も捨てきれないため竜二は外に出ることに決める。
パジャマで外に出るわけには行かないよな......竜二は戸惑いながらゲーム内ではついに開けなかったピンクのタンスを開こうと意を決する。
いざ目の前までくると、手がブルブル震えタンスの取手をなかなか掴めなかったものの、ようやく扉を開く......
意外や意外。中は割りとシックでオーソドックスの衣類が半分ほど。残りは鎧の下に着るようなアンダーウェアや軽鎧などの上から羽織るマント類だった。
うさたんパジャマを着ていたからどうなることかと思ったけど、これなら大丈夫そうだ。と竜二は服を物色し始める。
とはいえ、なるべくすぐに着れるものがいいと、取り出したのは黒いワンピースだった。ワンピースの裾にはレースが付いている。ズボンじゃないことが不満ではあったが、これならシンプルに着ることが出来る。
幸いかどうかは不明だが、この体はブラジャーを着けなくても大丈夫そうではある。
黒のレースが付いたワンピースに藁を編み込んだようなブーツ。嫌な思い出があるニーハイソックスは目線から外しつつ、そのまま素足も嫌だったため紺色のハイソックスも身につけた。お金も棚に財布ごと置いてあったので少しだけ肩から下げるポーチのような、小さな袋を紐で縛る荷物入れを取り出してくる。
この袋には細い紐が付いており、肩から下げることができた。
では行くか!竜二は部屋の扉を開ける。
部屋の扉を開けるとそこは、細い廊下になっており、下へ降りる階段が目に入る。階段を降りるとちょっとしたカフェになっており、金髪の女性が給仕していた。
「おはよう。リベールさん」
女性は元気よくリベールこと竜二に声を掛ける。
「おはようございます。今日は休日ですので出かけます」
「そう。今日は天気もいいからお散歩日和よ。夕飯はここで食べる?」
「はい。お願いします」
竜二がさきほど見たうさぎ通信の情報によると、今日は休みらしいので、女性には休みと伝えたものの、何の仕事をしているのか不明だ。一階の様子を見る限り、周辺に危険はあまりなさそうだけど一応見て回ろう。
「行ってきます」
一歩外に出ると、竜二は行ったことの無い古風な外国の風景に圧倒される。おそらくだが、リベールが住む街はジルコニアに近い。この風景はゲーム内で見たことがある。
ゲーム内のジルコニアは1600年頃のリスボンをイメージした街になっており、外へ続く大きな門を抜けると大通りがあり、大通りの左右にはレンガ造りの建物が並び、その多くがお店になっている。大通りを進むと大きな広場に突き当たり、広場の中央には大きな噴水がある。
港も広く、桟橋が幾本も並び、多くの船が停泊しているといった感じの街であった。
ここがジルコニアに近いとするならば、リベールの住むアパートは広場を挟んで商店街が並ぶ大通りの反対側にあり、公園が遠目に見えるくらいの位置にありそうだ。
まず場所を把握するために竜二は、広場へと向かうことにする。途中何人かとすれ違うが、服装については現代に近いかもしれない。ジーンズらしきものを履いている男や、リベールと同じくワンピースに身を包む少女などなど、すれ違う人は古い欧州風の服装ではなく、竜二の感覚に近い服装だったのだ。
広場は圧巻だった。いくつもの風船を持ったピエロ風の人、汽笛を打ち鳴らす人、たくさんの屋台が立ち並び美味しそうな匂いがここまで漂ってくる。ゲーム内のバザーとは違うが、活気があることには変わりはない。
「うわあ」
頬を紅潮させ、思わず竜二は感嘆の声をあげる。これはすごい。屋台を見てまわろう。
起きた時の不機嫌さなぞどこ吹く風の竜二は、ご機嫌に屋台を散策していく。途中ピエロの人から風船を貰ったりしながら、リンゴ飴のようなものを購入しベンチに腰掛ける。
さっそくリンゴ飴に口を付けてみると、祭りで食べたことある味に似ていたが、リンゴがものすごく酸っぱかった。ただ、リンゴについてる飴が甘いのでちょうどいいかもしれないというのが竜二の感想だ。
結局この日は、広場の散策だけで日が暮れてきたので、竜二はアパートに戻ることにしたのだった。
竜二は、今日寝れば元に戻れると心に言い聞かせ、床につくのだった。
一部文章を修正しました。11/5 20:30