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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒い腕の化物 承

作者: 岸山

前作の「黒い腕の化け物 起」の続きです。

100年前、この世界は科学が発展していた世界であった。

車があった。飛行機があった。携帯があった。医療は進んでいた。表向きは平和であった。


しかしそれも、滅んだ。


滅んだきっかけを作ることとなった亀裂はこうだ。

100年前、ある実験の失敗によって最も科学が栄えた国が滅んだ。それは世界的に大きな損失ではあった。だが、それだけで終わる程に貧弱な訳ではない。確かに経済的には大きな打撃ではあったし、発展はし辛くなっただろう、それだけだったなら。


最も大きな原因は、追撃をした天変地異とそれに乗じたクーデターが乱立したのが原因だ。

もしこれが、天変地異だけならば、人々が一致団結して天災に太刀打ちしたのならば、こういった事はなかっただろう。

だが、天災によって揺らいだ国家は不満を持つ者には格好の隙だったのだ。


そして、戦争が起こった。


クーデターに成功しようが失敗しようが内乱と言っても過言ではない争いによって国は国力を落とした。

すでに無秩序となった世界を自分の手中に収める為に、そんな欲望が入り乱れ、混沌としていく。

戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのが1番難しいと言われる。


 泥沼の戦争を終わらせたのは意外なモノだった。

 それは滅ぼされた科学が最も栄えた国が作り上げ、管理されていた生物兵器だった。


 現代兵器との戦いを想定して、最も科学が栄えた国が作り上げだ生物兵器は現代兵器での破壊は困難を極めた。一体に1中隊程度の犠牲がなければ破壊ができない。

 しかも、この生物兵器は100数体が集まることで、一つの大きなコアのような物を作り、そこから無限に生物兵器を作り上げていく。

 抵抗の手段を持たない人間は一気に70年間の衰退を余儀無くされた。まるで哺乳類が恐竜から身を隠す様に。

 ならば70年後に何があったのか?

 ある時、人間に不思議な力が備わる。それはある種の奇跡とでも言うべきか、それとも極限に追い詰められた人間の自己進化と言うべきか。



 『魔法』の現出である。



 魔法と言われているが、演唱や魔法陣などは必要無く、どちらかと言うと異能といったほうが正しいかもしれない。

 例えるならば突然手の平から炎を出したりなどや水を出したりなどだ。


 魔法の現出によって再び、人類は息を吹き返す。

 化石資源や、電気などエネルギー資源、水などの生きていくの必要な物が魔法での代返が可能な上、今まで銃などの現代兵器での応戦しかできなかった人間は魔法による戦闘が可能となった。

生物兵器は現代兵器と対等に戦う様に設計されただけあって銃などでのダメージは全くと言っていい程になかった。が、魔法という第三の攻撃方法に生物兵器は対応ができず、効果的なダメージが入る事ができた。


 だが、人間のみならず、動物の本能か、自分たちと違うモノを排除したがる。その為、魔法を使える者を自分達がの隠れ家から追い出した。

 だが、魔法という効果的なダメージ与えられる者がいない以上、追い出した者達は生物兵器に見つけられ殺された。

 魔法とは遺伝するようで、魔法使いを許容した隠れ家では実質魔法使いのハーレムのようになった。

様々な事柄から、徐々に魔法を持たない人間はいなくなっていき、ついには魔法を持たない人類は30年で滅んだ。


 そして追い出された魔法使いは同じ様に追い出された者たちや、ハーレム(又は逆ハーレム)を築けた魔法使いの子供達と集まり、徐々に勢力を伸ばしていく。


 そして15年後にはついに魔法使い達の国を作り上げだ。


 10年後には世界的に見れば小さいが、人間の住める箇所が作られた。最も生物兵器達が全力を出して潰しにかかればすぐさま滅ぶが


 魔法使いの国は生物兵器達との戦いが主となるため、以前のような民主主義ではなく、中央集権、いわゆる絶対王政になっている。

お金の価値が崩壊していたが、生物兵器にはコアと呼ばれる物があり、それを替金所で替金することで、お金は価値を取り戻し、経済は動き始めた。

そして国を取り戻したことにより、生物兵器を狩るための魔法騎士団や、様々な依頼ができるギルドなどが作られた。

 そうやって細々とではあるが徐々に安定してきている。



 さて、それではこの様に世界が変わってしまったが、その原因の原因となった者は生きている。その生活を見てみよう




 世界の崩壊の崩壊の原因を作った黒い腕の化物はある森の大きな岩の上に座っていた。この化物は100年と言うと時を経ても国を崩壊させた時と何一つ変わらず、その姿を保っていた。


 その化物の周りには複数の四足歩行型の生物兵器が取り囲んでいる。

 化物は欠伸をしながらぼーっと空を見上げている。


 生物兵器は口から火炎放射を放つ。

 化物は避ける素振りすら見せずに、その炎に包まれる。


 普通の魔法使いなら魔法で防御しなければすぐに焼かれるだろう。だが、この化物には意味はない。


 黒い円錐が化け物の周りを囲み、その身を護る。

 それと同時に生物兵器達の影から黒い槍のような物が飛び出し、突き刺さり、貫通する。

 その槍は的確にコアを貫通し、確実に生物兵器達を絶命させる。


 周りにが静かになると化物は欠伸をして岩に横になり、眠る。


 この世界で一番危険な森の中で呑気に昼寝することができるのはこの化物だけだ。







 化物は目を覚ます。腹が減ったなと

 もう日は傾き夕暮れとなり、夜がやってくる。


 化物は今日の獲物を探して真っ暗となってくる森を危なげなく進む。


 そして、一体だけ孤立している生物兵器を見つける。

 恐らく、巣の警戒の為に出されているのだろう。


 化物はそれに目をつけると左腕を龍の頭と大きな顎に変えると、生物兵器の顔めがけて発射した。その顎は蛇のように蛇行し、雷の如き速さで生物兵器の頭を噛み砕き、一瞬、動きを止める。


 その一瞬の隙をついて顎を手に変え、コアを抜き取る。


 生物兵器はコア以外にダメージを負っても時間が経つと回復してしまうため、コアを破壊、もしくは奪取が生物兵器への必殺であり、それができなければ永遠と戦い続けなければならない。


 そして、化物がなぜ、生物兵器の頭を砕いたか。それは前時代の生物にもあったであろう、異常を知らせる遠吠えを封じたかったからだ。

 別に襲われたのを知らされ、戦闘になったとしても負けことはないが、それで相手を殺し切るまで食料にありつけないからだ。


 化物は殺した生物兵器を直接、自分の口で喰っていく。


 そして、骨だけとなった生物兵器をそこら辺に捨てて、大きな木の枝の上で横になる。


 こうやって化物の1日が終わる。


 化物はこういった1日は全く変わらない物だと思っていた。毎日の様にぼーっと空を見上げて、腹が減ったら生物兵器を喰って寝る。こういった毎日は全く変わらない物だと思っていた。


 それは次の日で終わりを迎える。



 それはよく晴れた時だった。

 腹が減って目覚めて食料を探して徘徊していると、突然高い悲鳴が森に響いた。

 何と無く気になった化物はその叫び声の上がった場所に向かって行ってみる。向かってみると、森は生物兵器と争った形跡があった。

 15体ほどの生物兵器が破壊されており、一歩道が作り上がっている。

 その奥を進んでいくと、そこには一人の女が崖を背に生物兵器な扇状に三体に囲まれていた。

 正直、化物にとっては女なんてどうでもいいが、自身の食料である生物兵器に目をつける。


 化物は50mほど上にジャンプすると空気を蹴り、中心にいる生物兵器に狙いを定めて、砲弾の様に突っ込む。


 中心の一体はそのまま潰れ、クレーターの様に地面が凹む。

 化物は生物兵器を潰す瞬間、黒い腕で背中を貫通させて、コアを抜き取る。


 生物兵器は直ぐに反応して距離を取るが、化物にとってその程度の距離では目の前にいた物が一歩下がった距離と変わらない。


 右にいた生物兵器は唐突に自身の影から現れた黒い腕により、腹からコアを抜かれ絶命した。

 左にいた生物兵器は二体の始末によって掛かった時間により、攻撃準備が整わせることができた。口を開き、火炎弾を放つ。が、その瞬間、生物兵器は絶命する前に、自身の火炎弾が真っ二つに切られる現象を目にする。そのまま真っ直ぐに進んだ斬撃にコアごと真っ二つに切られる。


 これだけでは生物兵器は絶命することはないが、化物によって真っ二つに切られたコアを抜かれ死んだ。


 化物は結果的に自分が助けた、後ろにいた女を尻目に殺した生物兵器を喰らい始める。

 喰らいはじめてしばらく経つと、後ろの女が何か言いはじめた。が、化物はここ百年人間に会うことがまったくなかった為、百年前の言語なら分かるが百年後で生物兵器によって変わった世界の言語はさっぱり分からない。その為、無視して食事を続けた。


 ぺしぺしと背中を叩かれたり、腕をグイグイ引っ張られたりしたが、無視る。

 食事が終わると、女が涙目でグイグイ引っ張ている。


 化物ははぁーと何十年ぶりかのため息をつくと、立ち上がる。何を伝えたいのか分からない化物は女をじっと見つめる。


 女はキョトンとするが、直ぐに察した様でグイグイ引っ張る。

 そのまま引っ張られるままに化物は歩いていくと、人の耳には聞こえないが化物の耳には何かが戦っている音が聞こえてくる。

 何と無く、事情を察した化物だった。

 恐らく、狩りか何かでこの森に入った奴らだが、生物兵器の物量に押され、撤退も出来ないままここにいたのだろう。

 化物は女を右脇に抱えると一気にその音が響く、所まで跳ぶ。

 女がアバババとか言っているが知ったことではない。


 爆発や鉄の打ち合う音がどんどん大きくなる。

 そしてそのまま戦っている場所に化物はトップスピードのまま、突っ込み、景気づけなのか3体ほどの生物兵器を潰す


 女をそのまま地面に下ろすと、周りを囲っている生物兵器達を見る。今日は生物兵器の食事祭りだなと思いながら


 女の方をチラリと見ると15人ほどの騎士の様な格好をしている奴らと話している。負傷しているが恐らく全員無事なのだろう女がホッと息をついている。

 代わりに化物がこの後始末をしなければならないのだが。

 しかし、化物にとってこの程度の生物兵器、脅威にもならない


 久々に力を使う。


 化物はその場から一瞬消える。次に現れると20体ほどの生物兵器のコアが抜かれていた。

 化物が視認や気配で感じている体数は60〜80程度。人間にとっては絶命は必至であり、もはや玉砕覚悟で突っ込むしかない。だが化物にとってはウォーミングアップにしかならない。化物はこの数の100倍、1000倍を相手に勝ってきている。


 人知を超えるスピードと一撃必殺の攻撃により、瞬く間に皆殺しにしていく。


 ああ、楽しい。


 化物に灯った感情である。

 百年もの時を過ごし、何もない森に楽しみなんぞ存在しない。

 この多数の生物兵器との殺し合い以外は

 これまでもこれからもそうだが、基本的に化物は自分からこの多数戦闘をしない様にして来た。せいぜい偶然が重なり、やむなしとなった時ぐらいか。

 何故か?それは自分が人間じゃなくなるのではないかという恐怖からだ。確かに自分は化物ではあるが、この生物兵器と一緒になりたくないという思いでもある。


 だが、しかし、この様な一対多数戦闘では笑いながら殺していく。癖になりそうな高揚、この様な毒酒味わい尽くさなければ損だ。


ハハハハ


 笑い声が森にこだまする。

 楽しみを見つけた無邪気な子供の様に


 しかし、その楽しい時間は直ぐに終わる。


 そこには生物兵器の死骸ごそこらかしこに広がる地獄と化していた。


 やりすぎたか


 久々な反省をして、後ろにいた女と騎士達を見るとやはり化物を見るような目で睨んでくる。実際に化物な訳だが


 化物は振り返ると森に帰ろうとする。が後ろに何か引っ張る様な抵抗と同時に騎士達の騒がしい声が聞こえる。


 振り返ると、化物の腰に抱きついた女がいた。

 女は化物の腕をつかむとグイグイと引っ張る。

 まだ、同じ様な奴らがいるのだろうか?

 化物は耳を澄まし、気配を探るがそれらしきものはない。

 しかし、女はグイグイと引っ張る。


 面倒であるが、行けば女も納得するだろうと化物はそう結論付け、ついていく。



 「さて、君が私の娘と騎士達を救ってくれた者かな?」


 化物はいつの間にか人間の国に入国しており、この国で最も大きい建物とそこの最高権力者に招待され、周りを囲まれ、応接室で面会を受けている。

 化物はそう理解しているが、目の前の30代ぐらいの者が何を言っているかは理解できていない。そしてそもそもこんな所に連れて来られたのかも分からない。

 お礼であればその場で伝えてもいい。いや、そもそも言葉が理解出来ないのだから頭でも下げて、立ち去れば済む話だ。


 「お父様、この人は言葉が分からない様なので」


 「おっと、そうだったな」


 目の前の男はメイドに紙を持たせて、俺の机に持ってくる。

 そこには文字の羅列が並んでおり、化物は流し目で見ているとその中に化物が分かる言葉があった。

因みになんて書いてあるかというと「分かる言語に指を指して」だ。


 化物はその言語に指を指す。

 それを見たメイドは男に報告する。

 男は頷くと、メイドに何か言い、メイドは足早に部屋から出て行く。


 しばらくするとメイドは一人の男を連れて帰って来た。


 その男は化物のそばに寄ると頭を下げた。


 『初めまして、私この言語の通訳である、フタバという者でございます』


 化物は少し驚くが、言葉を返す。


 『そうか、あんたも大変だな』


 『いえいえ、私しこの程度しか脳がないので………』


 「お喋りはそのくらいでいいか?フタバ翻訳官」


 男はフタバに何か言うとフタバは頭を下げた。

 男は咳払いをすると再び話す。


 『改めて、初めまして。私はここの王、クラーク・オルティス』


 今度はフタバの通訳により、聞き取る事が出来た。


 『先ずは礼を。我が娘と我が国の騎士達を救ってくれてありがとう』


 目の前の男、クラークは頭を下げた。

 周りにいる奴らは少しざわつく。

 化物はああ、この周りの奴らはこの国の政治家や貴族の様な奴らかと理解した。


 『別に、そいつ等の運が良かっただけだろう』


 化物は他意なく、ただ淡々と言った。


 『それもそうだが、礼は受け取ってくれ』


 クラークはそういうと少し笑う。


 『それで?要件はこれだけか?』


 『いや、正直ここからが本題だ』


 クラークは真面目な顔をして化物を見る


 『君は何者だ?80もの生物兵器を瞬く間に殲滅できるなんて見たことも聞いた事もない』


 『何者なんだろうな』


 化物は王の質問に自分もわからないと答えた。周りの奴らが何か騒いでいるが化物には耳障りな騒音にしかならない。


 『そうか、わからないか。

 それはそうだ。自分が何者であるかなんて心得ている奴なんて少ない。

すまんな、質問が悪かった。では君の名前は?』


 『名前?忘れた』


 化物はさらっと言うが、まわりは絶句している。この様に言うのは本当に忘れているのか、ふざけているかのどちらかだ。

 そして、周りの奴らは後者と受け取って一層うるさくなる。


 化物は黙らせようかと思うが、その前にクラークがバチバチと電気を走らせる。

 その音が聞こえると周りの奴らは直ぐに黙った。


 『ふざけている様に聞こえるだろうが本当に忘れたんだ』


 『理由はあるか?』


 『まぁ、実験の副作用だと予想しているが、詳しい事はわからない』


 『実験?』


 『最も科学が進んだ国だったか、そこの実験体だな』


 化物はそういうと周りのからクスクスという失笑や嘲笑が聞こえる


 『最も科学が進んだ国はもう100年程前に滅んだんだぞ?』


 そんなこと知らないわけないだろう?というよな口ぶりでクラークは言う

化物は頷く


 『自分が滅ぼした国だからな。そうか、100年も経っているのか』


 長生きしてるなと化物は続けるが、王にとってはどうでもいい。重要なのは前半の部分だ


 『……滅ぼした?』


 『まぁ信じられないのは分かるし、信じようしなくてもいい』


 化物はそう言うが、クラークは緊張していた頭がさらに緊張する。

この目の前化物は自分より若い姿、18歳ぐらいだろうか?なのにさらっという

普通ならこの話は絵空事と笑い飛ばす所だが、生物兵器を瞬く間に殲滅したと言う報告が判断を鈍らせる。


 『滅ぼすのに2ヶ月かかったがな。寧ろ、気になるのはさっき見せた電気だ』


 『あ、ああ、これか。これは魔法と呼ばれるものだ』


 目の前の化物は呑気にも『そんな物が出来る様になっているのか、今の人間』などと言っているが、この化物はわかっているのだろうか?世界をこの様にした原因の一翼を担っているというのを


 「滅ぼすのに2ヶ月かかった」目の前奴はそう言った。つまり、人間の最先端科学はこの化物に敗北したという事実だ。もちろん嘘の可能性はあったが不思議とクラークには嘘に感じなかった。

こういう時のカンは正しい物であるとクラークは判断する。

そして、こう糾弾する


 『君が最も科学が進んだ国を滅ぼした事は一応、信じよう』


 化物はほうと驚く

 クラークは続ける


 『だが、それはこの世界をこの様な世界にしたという事だ』


 王の周りの者達は王と化物を交互に見る


 『………まぁ、生物兵器が蔓延っているのは自分の処理の仕方が悪かったからかもしれないが』


 化物はそう言うとクラーク達は一斉に化物を批判し始めた。

お前のせいで家族が死んだ。お前のせいで友人が死んだ。お前のせいで、お前のせいで

しばらく、経ってクラーク達が息切れした様にゼイゼイしている。


 『ん?もう終わりか?悪いがなにを言っているのかサッパリだった。が、だいたい予想はつく』


 化物は続ける。


 『そもそも、蔓延った原因は人間にもある』


 『なにを根拠に!』


 『そもそも、世界が崩壊したのは天変地異とそれに乗っかったクーデターやテロが乱立したからだ。俺は悪魔で亀裂を作ったにすぎん』


 確かに最も科学が進んだ国は滅んだ。しかし、それだけで世界が一度終わる程、世界はヤワではない。そもそも亀裂かどうかも怪しい


 『それに、生物兵器は人間の争いが無ければ、そのまま衰退して消えるはずだった』


 『馬鹿な!そんこと信じられるか!』


 『生物兵器にあるコア、あれが人間に触れるとどうなるか知っているか?ああ、あなた方の様にに不思議能力持っている奴では無く、本当に普通の人間だ』


 『………知っている。コアに触れた奴は魔法が使える奴を除いて、例外無く食われた』


 『その通り。さて、ここで問題だ。俺が隠したその生物兵器のコアを偶然見つければ?あまつさえ、それを使ってしまえば?』


 クラーク達の頭には敵に当たれば必ず、喰らう石に戦略価値を見つけた人間が兵器運用するのを容易に想像できた。


 『当然、直接触れれば喰われるからな。何かしらの容器に入れて投げてでも使ったのではないか?手榴弾の火薬の代わりにコア入れて、衝撃で割れる様にし、使える物が無いかの確認にきた奴らを狙って』


 『………そうして肉体のついた生物兵器はそのまま大暴れか』


 『そうだな。コアは普通の人間であれば死体ですら喰らうはずだ』


 恨むべきはそのコアを危険と判断して破壊せずに、兵器運用すると発想した人間である。

 クラーク達、理性では納得した様だが本当は責めたいのだろう。すごい微妙な表情をしている


 『それに俺がいようがいまいが世界は天変地異とクーデターの乱立で滅んでいたと思うが?』


 『…………』


 『寧ろ、今よひどい状況だった可能性すらある』


 最も科学が進んだ国と言うトップというある種の基準があったとしても、いや寧ろ、あるからこそ狙われる標的になっていたであろう。

その前に、天変地異で生物兵器が逃げ出し、内部崩壊を起こしていたのかもしれないが


 (ただ、生物兵器を作れる技術を持っている奴らがそれをコントロール出来ないなんてあり得ないと思うがな)


 化物はその様な事を思うが口にはしない。そんなことを言えばまた罵倒されるだけだ。


 『…………すまない少し気が動転していたようだ。確かに君に何か言っても現状に変化はないな。君が原因だろうがなかろうが』


 『別に構わない。寧ろ、王という立場を獲得しているお前が100年前の事に怒ったことに驚愕と感心を感じている』


 化物の後半の言葉を聞いてクラークは苦笑いを浮かべる。

 化物はこの状況が無ければお前が王として君臨することすらなかったと暗に言った事を理解してたからだ


 『それはうれしいね』


 『それでこれで終わりか?』


 化物はそういうと王は首をふる


 化物はウンザリした様な顔になる。


 『そこの女を助けた事に対する礼は受けた、俺の正体も知った、他に何か聞く事でもあるのか?』


 『ああ、とても重要になった話だ』


 化物はなら先に話せよと思う


 『で?なんだ』


 『…………この国に仕えないか?』


 『断る』


 王による突然のスカウトに化物は即座に断りを入れる


 『そもそも王、あなた方は俺が何をしたのかを知って、それをこの世界にした原因だと言ったはずだが?』


 『それについては謝罪するが』


 化物は首を振る


 『その事を責めている訳ではない。真実ではないがその事が国民に知られれば混乱はさけられまい。で、責められるのは俺だ。恐らく村八分か処刑されるだろう、そんな国で過ごそうとは思わない』


 『では君に王位を渡そうか?』


 『迷惑千万だな。そもそも俺にはこの国を救うだけの理由も義理もない』


 『理由ならあるだろう』


 『国を滅ぼしたことか?だがそれを理由に俺を国に縛りつけ、利用するだけなら、この国を俺が滅ぼす事になるぞ。』


 化物は理不尽すぎる回答をする

 あながち、実現不可能ではないのが王としては嫌なところであった。

 会話は平行線を辿って行く

 しばらくするとお互いに黙り、沈黙する


 『理由や義理がないと言ったな?』


 唐突に王は先ほど言った事を改めて聞いてくる


 『そうだな』


 『ならこの国の誰か、ああ、ウチの娘でもいいぞ、婚約を結ばせればいいな?それはこの国にいるだけの理由になるよな?』


 『少し混乱している様だな王。落ち着いて深呼吸しろ。そもそも、婚約なんぞする気はない』


 『なんでだ?お前の能力ならこの国の女は選り取り見取りだぞ?』


 『いらん。と言うかこの国一夫一妻制じゃないのか』


 王はハハハと笑う


 『生きる人よりも死ぬ方が多いからな。俺なんか8人いる。子供なんかは二桁いた。』


 化物はすげぇと思いながら、苦笑いを浮かべる。


 『だがな、今は人が死にすぎるんだ』


 『二桁子供がいると言っていたが?』


 『死んだよ。産ませた数は多いがもう3人しかいない』


 王は椅子の肘掛けを握りしめて言う。

 恐らく死んだ子供の事を思い出しているのだろう。


 『故にだ、あの生物兵器達を瞬く間に殲滅出来る君に協力して欲しいんだ。

 娘を君に差し出してでもこの国の味方に引き入れたい。頼めないか?君が望むことはできうる限り叶える』


 王はそう言って化物に頭を下げる。

 それを見た化物は息を吐きながら答える。


 『少し考える時間をくれ』


 『…………そうか、分かった』


 化物は椅子から立ち上がり出て行く


 『できるだけ早く決めてくれ』


 王はそういったが化物からまったく違う答えが返ってくる


 『俺は俺をこの身体にした奴らを許せない』


 化物は静かに答える


 『お前達が奴らと違うとしても俺は人間をもう信用することは出来ない。そこに組みすることがいいのか考えさせてもらう』


 それだけだ言って化物は応接室から出た。




 王であるクラークはため息をはきながら背もたれに寄りかかる


 「やはり、駄目だったか」


 取り巻きの奴らは王の言葉に頷いた。

 この取り巻き達はとても優秀であり、この国の建国に関わった功労者である。


 「ですが、過去のアレが実在していたとは驚きだ」


 取り巻きの一人が口を開く

 化物と話した時は驚いていたが、人間には大まかに伝わっていた話であった。


 「しかし、良心に漬け込むのも、欲を刺激するのも失敗しましたなぁ」


 自身の娘に報告を受け、特徴を教えられた時、上記の話をしてどうにかこの国に仕えさせたかった。

 だが、良心に漬け込もうとしたが失敗し、男ということで性欲やらに漬け込もうとしたがこれも失敗した。


 「というか良心に漬け込むどころか、悪びれてすらいませんでしたな」


 「それはそうだろう」


 化物は言葉にはしなかったが、復讐の為に国を潰した。其の後の世界になんて興味がなかったんだろう。結果的に世界はこうなったが、自分には関係のないこと、とでも言うだろう


 王達は座って長いため息を吐く

 すると突然扉が開かれる。


 「どうした?」


 「ご報告します!500km先に大型の竜種を確認!その取り巻きには生物兵器、約5万を連れ、真っ直ぐにこちらへ向かってきています!」


 この国は周りの森を伐採したとはいえそれでも広大な森に囲まれ、水は魔法や、森から流れてくる川を使っている

 塩なども魔法だよりになっている


 そしてこの様な土地なので時々、生物兵器達による襲撃が行われる。

 今回は特に多く、今までであったことのない生物兵器すら存在している

 そんな事もあいまって王達の心労は加速して行く




 王は魔法騎士達をまとめ、竜種の討伐、無理でも進路を変更させるのを目標に出兵した。その数2万5千


 王達と竜種達が遭遇するのはそう遅くなかった。

 竜は全長50フィートはくだらない。その姿に騎士達は呆然としている。

 王はマズイと思い、士気を高める為に声を上げる


 「我々はこの竜を討伐する!我らの後ろには護るべき大切な者達がいる!ここで負けるということは大切な者達が死ぬ事を意味する!!もう一度言おう!この竜を討伐する!」




 先ずは王の攻撃だった


 王は右腕をあげ、雷を纏ませる。

 蒼白に輝く雷は爆音を上げ、発射準備を完了させる。

 王は右腕を振り下げる。


 「雷王:雷神崩落」


 その瞬間、飛んでいた竜種どころかその下にいた生物兵器をも巻き込んで蒼白の雷が天から落ちる


 戦いの狼煙はここに上がった





 化物は竜種の生物兵器達と人間達の戦いを離れたところから見ていた。


 王が先ほど化物は「悪びれていない」と思っていたが、化物本人は多少の罪悪感を持ってはいた。

化物は王に言われた言葉を思い出していた。

 『理由はあるはず』


 確かに世界がこうなったのは化物が生物兵器のコアを破壊しなかったこともあるだろう。そのことに関しては多少なりとも罪悪感は抱いている。


 何故、自分は危険と判断して生物兵器のコアを破壊せず、保管という形を取ったのか。

王に問われてからずっとそのことを考えていた。


 破壊するのに疲れていた?


 違うと断言する


 可哀想だと思った?


 違うと判断する


 このような自問自答を繰り返す。


 そもそもあの時、自分は何を思っていたのだろう。


 もう百年も前の思いだ。記憶が風化しており、思い出せるはずも無い


 でも、確かに覚えているものがある

 あの泥々とした憎悪、自分をこんな身体にしたのにのうのうと生きている人間への嫉妬


 そう感じると納得がいった


 そうだ、自分は復讐をしたかったんだ。

 自分はこの生物兵器が人間達に見つかり、兵器利用されるのに期待していだんだ。

 その結果がこの世界

 ある意味100年前の化物が理想とした通りの世界となったわけだ


 まったく無様だな


 今更後悔したとしても遅いのに


 化物は自分がこの戦いを無視せずに見学しているのは他人に指摘された罪による、罪悪感からなのかもしれない。と考える。


 雷が落ち、竜種を始めとする多くの生物兵器に直撃したが、生物兵器は倒れているが、竜種には多少のかすり傷は与えたが効いていない。

 真っ直ぐに竜は進む。


 化物がしばらく見ていると竜は口を開き、王を始めとする人間達に光線を放ち、人間達の軍は瓦解しかけた。





 クラークは膝をついて息をしている

 結論から言うと竜種による攻撃により軍が瓦解寸前となった。


 始めの頃は互角、後に優勢になっていた


 自身の広範囲の魔法「雷神崩落」を使い、数を減らし、戦いを開始した。幸いに竜は動かなかったのでいつもと同じ戦法が使えた。


 「兵を回せ!魔法を使い、近づけさせるな!一撃を心掛けろ!」


 迫ってくる生物兵器に人間の指揮官は的確に指示をする。

 生物兵器は森では炎を吐き、凄まじい身体能力をしているが、この様に身体能力を活かせるような森ではなく、数対数の戦いならば驚異となるのは吐かれる炎だけである。


 炎は炎弾型から放射型と様々なものがあるが、それも防御系の魔法で防がれ一方的に攻撃ができた。


 クラーク達は魔法を使い、数が劣る状態でも互角に渡り合っていた。生物兵器には


 生物兵器が徐々に数を減らしていくとそれまで静観を決めていた竜が動いた。

竜は口を開き光線を放ってきた。


 その攻撃は戦況を優勢から劣勢に変化させるのにこれ以上ないほどに効果的だった。

 このたった一発の光線で約5千人ほどが焼かれ、王を含めた約1万人ほどが重軽傷を負った。


 もはや完全に瓦解しているといっても過言ではないだろう

 戦力は数的に互角であっても戦える人間の数は3分の1にまで減っている。

 もはや、完全敗北。勝てる手段が無い。


 しかし、ここで止めなければ後ろの国がこの国を作るのに10年の月日をかけた、クラークは王として引く訳にはいかなかった


 クラークは他の騎士達の静止を振り切り、今自分が最大限に出せる雷撃を竜に放つ


 「極雷:雷神神槍」


 音が置き去りにされた。


 一瞬、光が弾け、その後音が追いつき、凄まじい爆音が響いた。


 煙に包まれる。


 やったか?

 そう誰もが思ってしまった。言おうがいまいが結果は変わらないがとても不吉でそして絶対に失敗しているその言葉を。


 煙が晴れる。


 そこには以前変わらず、竜は存命していた。


 人間達は絶望へと叩きつけられる。王とは建国当時から魔法使いの中で最強を意味する。

 確かに強いだけでは国は動かないし、それだけで国は平定しない。

 だが、クラークは事実天才であった。国と人を平定し、経済を動かし、軍の指揮すらできる。これほどの事を先達のいない状況下で10年で国を築き上げたのだから納得もいく。

 彼の子供達もその才能を受け継いでいる。クラークが死んでも血が絶える訳ではない。


 だが、この国の人間ならば誰もがクラークの実力をその強さを知っている。

 クラークの魔法が効かないのなら人間達の魔法も通用しない。



 竜はもう一度光線を放とうと口を開ける。


 もう終わりだ。


 誰もがそう思った。


 竜から光線を放たれる。


 だが、突然にその光線を遮る様に黒い壁が出来上がる。

 光線は寸前のところで黒い壁にはじかれ、直撃を避けた。


 クラークは何が起こったか把握出来なかった。

 呆然と黒い壁を眺めていると自分に近づいてくる気配がある。クラークは振り返るとそこには自分の誘いを蹴った黒い腕を持つ化物がいた。


 化物は手を上げて挨拶の様な事をする。


 そして化物は黒い壁を解除し、竜と生物兵器を見据える。


 クラークの一歩前に出る。


 「戦って、くれるのか?」


 化物は現在の言葉は理解できない事は分かっている。

 故に、クラークは化物の心象を察する必要があった。


 化物はクラークの目を見つめると手を払い、去れというジェスチャーをする。


 クラークは直ぐにそれを察すると生き残りの全員に撤退を指示する


 化物は撤退していく人間達を一瞥すると竜と生物兵器達に振り返る


 竜と生物兵器達は逃げる人間達を追しなかった。

 生物兵器達は分かっているのだ。

 この目の前にいる人間と変わらない大きさの奴に一瞬でも隙を見せれば殺されると


 『俺は俺の行動が間違っていたとは思っていない』


 誰に語る訳でもなく化物は綴る


 『やはり、こんな身体にした奴らは許せないし、そこでのうのうと過ごしていたやつも同様だ』


 『その結果、こんな世界になってしまったが、そのことについて謝る気もない』


 『しかし、何となく責任は感じているからな。しばらくは助けるさ』


 化物はそう言うと、化物の後ろに影が広がる。自分の後ろの平野が影に包まれる。


 そして影から、まるで水から這い上がるように、黒い鎧を着込んだ人型が現れる。一人だけではない。徐々に徐々に数を増やし、一面を黒い鎧を着込んだ騎士達が占める。


 『これを着るのも久々か』


 化物の体には黄金の鎧が生えてくる。

 赤いマントを羽織る

 そして影から黄金の持ち手と黒い刃をした全長3mある槍を取り出す

 持ち手と刃の接合部には怪しく輝く赤いコア。

 右手でぐっと握ると黒い刃に炎が灯る。調子を確かめる様に槍を振るい、それが終わると槍を肩にかける


 『さて、やるか』


 化物は槍を横薙ぎに振るう、その瞬間斬撃は炎となり生物兵器達を襲う


 それが始まりの合図。

 黒い騎士達は一斉に生物兵器達に突っ込む。

 生物兵器達は化物の攻撃にこそ、面を食らったがすぐさま体制を立て直し、火炎を放射する。

 黒い騎士達は一切に怯まずに突っ込んでいき、炎が直撃する。が、その炎は騎士達に燃え移ることはなく、そのまま突破し、首を跳ね、生物兵器のコアを奪う。


 生物兵器達の一切の攻撃は効かないが、騎士達の攻撃は的確にコアを奪い取るという一方的な戦況になった。


 もはや、戦争ではなく蹂躙と言った方が正しいかもしれない


 化物は竜の上へ跳ねる。

 そしてぐっと身体を丸め、そして五体を大にして広げる。その瞬間背中から八翼の炎の翼を開き、浮かんでいる


 『さて、面倒なのでな。直ぐに終わらせるぞ』


 そう言うと化物は空中を蹴り、竜へ肉薄する

 竜は真っ直ぐに突っ込んでくる化物へ光線を放つが、化物は槍の刃でその光線を真っ二つに割き、15mはある竜の首を、刃の炎を伸ばし、切り落とす。


 頭がなくなった事でバランスを崩した竜は空中から転落し、戦場の中心へズドンもいう音とともに落下した。


 だが、竜はまだ生きている。


 竜の光線は圧倒的であった。だが、あれだけの出力を出すにはコアが大きいか、もしくはコアを複数個持っている場合だ。


 あの光線のエネルギーはおそらく頭にコアがあったのだろう、そのコアを使って出していたのだ。


 そして未だに竜の身体が動くということは身体の何処かにコアがあるのだろう

 頭がなくても竜は起き上がる。

 だが頭の復活には時間がかかりすぎる上、今までの様な光線は放てない。それにこの化物は頭が回復を待ってやるほど優しくはない。


 炎の刃を更に長くし、竜の懐へ潜り込む。

 そしてそのまま縦に一薙し、竜の身体縦に両断する


 化物が一息つき、周りを見渡す。

 5万といた生物兵器達は竜とのやり取りの間にもう全滅していた。


 化物は竜の死体から50mはあるコアを抜き取り、右腕に喰わせる


 そして、騎士を自分の所に戻し、コアを盛って霧散する様に消えた


 さてとこれは国にでも渡すかと化物は思いながら、コアを右腕に喰わせ、クラーク達の所に向かう。



 撤退した人間の軍に化物は追いつくと人間達からは恐怖されていると感じられ、敵意すら向けられている。


 そんな中、包帯を巻かれ、騎士に肩を貸されながら化物の前に出てくる


 「ありがとう、君のおかげで我々の国と我々は助かった」


 そう言って王は頭を下げた

 化物に自分達の言葉は通じないと分かっているが、それでも言わずにはいられなかった


 化物は頷く


 「改めて礼をしたいが、我々も動けない。手伝ってくれないか?」


 クラークはそう言って、怪我人達の集まりを指差す

 化物は意図を察し、怪我人達の場所に行くと右腕を動かすと、影が広がり、そこから黒い人型が現れ、治療を手伝う。


 『これでいいか?』

 とでも言いたそうな表情でクラークに振り返る


 クラークは頷く


 戦争はある意味、あっけなく終わりを迎えた。




 二日後、化物は今度は王座の間へと呼ばれ、王座のに座る王へ視線を向ける

 その周りにはこの国のトップ連中が佇んでいる。その中には前回の応接室にいなかった顔ぶれもいる


 そして化物の隣には翻訳官のフタバがいる


 『それでは改めて、先の生物兵器達との戦にて我々を救ってくれたこと、感謝する』


 そう言って王は頭を下げる

 化物は決まった様に同じ言葉を綴る


 『なに、気にするな。王が死ななかったのは運が良かっただけだ。それよりもあの竜の光線を己の命を捨てて弱めた者たちへの謝礼はしっかりとしたのだろうな』


 化物は自身への礼よりもあの戦いで死んだ者たちが残した遺族への配慮を口にした。

 不遜な態度と口調に顔を見たことのない奴らはしかめっ面になっているが化物は気にはしない


 『当然だ。君が定期してくれたコアのおかげでな』


 あの戦いの後、化物は生物兵器達から奪い取ったコアを国へ提供していた。

 理由を上げるならば、自分の参戦が遅れた事への非難への牽制でもあるし、あの状況下では満足に回収できなかっただろうという判断からだ。

回収した役5万個のコアの3万はこの戦いに参加した者やそれで命を落とした者たちの遺族への謝礼に使われ、残りの2万は国と森とをわける城壁の強化と装備の強化に使われる事となった。


 『そうか、それは良かった。』


 『国庫的には全く良くないがな』


 この国で、最も価値が高いのは生物兵器達のコアであった。だが、流石にコアをそのまま物の支払いに使うわけにはいかないし、価値が人によって曖昧だ。なので、導入されたのが貨幣だ。

貨幣は物の価値を明確にし、目安や設けをわかりやすくする。

この貨幣制度は国が行っており、生物兵器の素材や森で取れる薬草など、様々な物が換金できる仕組みになっている。その中でも特にレートが高いのは生物兵器のコアだ。

しかし、今回の事で化物が提供した5万個のコアの内3万個のコアは化物の交換条件により、本来ならこの貨幣での謝礼となるはずだったのが、直接コアでの謝礼となったのだ。戦いに出ていた者たちの前での発言だったため、王も騎士達の期待もかかり、渋々の了承となった。

 当然、貰った者たちは換金するが、当然数が多くなるほどレートが落ちていく、それでもどんな物よりもコアの金額が低くなることはないのだが

 そのため、国庫には痛いダメージを追うハメになった。


 『それはあなた方がどうにかすることだろう。偽善ではあるがこれで俺の参戦が遅れた事への批判は少しは抑えられるだろう』


 『恐らくだが』


 確かにこれだけの人間が死んだのは生物兵器の責任だが、化物が始めから参戦していれば防げる被害であった。

当然、それを知れば遺族は憤慨するだろう。『なんで最も早く参戦しなかったのか』と

化物には参戦する理由は明確にはなかったのだが、遺族達からすればふざけるなと言いたいだろう。

ここで化物が提供したコアである。確かに参戦は遅れたが、それで死んだ者たちへの配慮として遺族には多目に渡してあった。

もし、最初から参戦していればそれは貰えなかった可能性があるし、そもそもこの化物が参戦しなければ、この国は滅んでいたであろう事実もある。それらを盾にすることができるからだろう。


 『それで聞いていいか?』


 『断ったのに突然参戦した理由か?』


 王の疑問に化物は直ぐに理由を述べる


 『それは、何と無く責任を感じているからだ』


 『は?』


 化物の言葉にそこにいた全員が目を点になる

 化物は自笑する様に言う


 『さっきと言っている事と真逆じゃないかと言いたそうだな、王よ』


 『ああ、お前は国を滅ぼした事を悪いと思っていなかったはずだ』


 『まぁ確かにそこに罪悪感やら何やらは感じていない』


 だったらなぜ?と言う疑問に化物は淡々と答えた


 『この世界に生物兵器が蔓延っている原因には多かれ少なかれ俺の責任も含まれているからな』


 『前回と言っていることが違うが』


 『あの時はまだ自覚がなかったからな。助けた理由はこんな物だ。どうだ納得いったか?』


 王は空を見上げ、んんーと声をあげる


 『理由に納得いったような、いってない様な』


 『まぁ、そうだろうな。まぁこれからは俺も助けになる。そこだけは信用してくれ』


 化物の言葉に王は反応する


 『これからも助けてくれるのか?』

 

 『あなた方が自立し、前回の様な生物兵器が来てもあなた方だけで対処出来る様になるまではな』


 『そうか、それは助かる』


 だがそこで声があがる


 「まって欲しい国王!」


 声を発したのは化物との前回の会合の時に顔を見なかった奴だった


 「この様な身元不確かで無礼な者を家臣にするなど!しかもこの様な世界にした男など危険です!即刻処分するべきです!」


 「大臣、確かにこの男はこの世界をこの様な物にした責任があり、危険なのかもしれない」


 クラークは声を上げた大臣を向き、ひじ掛けに腕を掛け、退屈そうに問う。


 「でしたら!」


 「だが、先の戦闘でこの男がいなければ我々は滅んでいたかも知れぬのだぞ?」


 「しかし!」


 「確かに危険ではあるが、ではどうやって処分するのだ?私でも勝てなかった竜を即座に倒したのだぞ?」


 王は化物の戦闘を真近で見たからこそ、わかるのだろう。この化物の異常さが


 「それにこの者を処分したところで生物兵器は滅びぬよ。ならばこの者を使うのも手ではないか?」


 「ですが裏切る可能性も」


 「裏切ったところでどうなる?他の国があるならいざ知らず、裏切ったところで何にもなるまい」


 大臣はこの化物が恐ろしくて仕方ないのだろう。言葉がわからないことわいい事に色々言っているがチラチラと化物を見ている


 「他にこの者がこの国で暮らすことに何か不満を持つものはいるか?いるなら何故不満なのかを、そしてそれはどの様な利益をこの国にもたらすか述べよ」


 国王は不満があるなら言ってもいいけどそれはこの化物を排除してでもこの国の利益になることなんだろうな?と問う

 確かにこの化物は危険ではあるが、使えれば莫大な利益を産むだろう。


 『すまないな、ウチの大臣が騒いで』


 国王は化物に向き変えるとそう謝罪した

 化物は気にはしていない様子だ


 『別に気にする必要はない。大方俺が危険だという批判だろう?』


 化物は先ほど苦情を述べた大臣をチラリと見る

 大臣は化物と目を合わせない様にしているが、それは案に図星だと言っている様なものだ


 『別にそれも気にする様なものでもない。危険だと思うのは仕方のないことだ』


 『そう言ってもらうと助かる』


 王はそう言って苦笑いを浮かべる


 『それで?俺は雇って貰えるのか?』


 『そうだな………』


 王は上を見上げ考える。


 『その前にお前の名前を決めとかないとな。何か希望はあるか?』


 『王が好きにすればいい』


 化物は自分の名前に執着などなく、適当に決めてくれと言う


 『ならば、これからは「カルナ・カウラァヴァ」と名乗るがいい』


 化物はカルナと名付けられた


 王の発した言葉に回りはざわつき、それを無視した王の言葉は予想を遥かに超えるものだった


 『早速だが、カルナよ。其方に頼むことがある』


 王はそう言うと、メイドに地図を持たせ、カルナの地面に広げる。

 その地図は北に青い部分、真ん中にこの国が写したものだった


 『なんだ?』


 『ここから北には海が広がっている』


 『そうだな。だが未開拓の様だが』


 『カルナにはここの国から北の海にかけて開拓してもらう』


 カルナもそうだが、回りは絶句とした。

 確かに海へと続く北の開拓が成功すれば後方を気にせず、南からの生物兵器に対抗ができるが、それを一人でやらせるなど無理が過ぎる


 『この任務が成功したあかつきには、カルナへ第3爵位「伯爵」へ任命する』


 その言葉に回りは騒然となる。が化物には何のことだかサッパリわからない。


 『何のことだかわからない様だな、カルナよ』


 カルナは頷く


 王が説明するにはこの国にはやはり爵位と言うものが存在している。


 第1爵位が国王とその息子である王族、またの呼び方を公王

 第2爵位が主に国の財務管理、軍の元帥などの国の根幹に関わる仕事をしているのが候爵

 第3爵位が土地の管理、いわゆる領主といわれる地位である伯爵

 第4爵位が騎士団長などの部署トップの者たちを子爵

 第5爵位が騎士達など国営組織の者たちが男爵

 となっているようだ


「国王様、流石にそれは………」


「私もこの者があの森を開拓できるとは思えません」


「仮に開拓できたとして、あの者に領主としての働きは期待できないでしょう」


 流石にこの決定には他の臣下達も反対の意を示し始める。

 それはそうだ。いくら強力な能力を持っていたところで土地の運用や領主の仕事には意味がない。

 その上、開拓が成功させようとすれば、他の部署の協力が不可欠であるが、このカルナには協力者は国王ぐらいしかいなかった。


 しかし、この化物は一切の躊躇なく了承した


 『委細承知。するのはいいが、問題があるぞ』


 『なんだ?言ってみよ』


 『まず、俺は森を切り開くことはできるが、土地の開発については一切わからない』


 『ああ、それなら問題はない。カルナには森の木を切り、森を開くのと生物兵器との戦闘をしてもらう。後は夜間の警戒だな。他の事はこちらがどうにかする』


 『ならばいい。それで?今から始めればいいか?』


 『ハハハ、流石に準備が間に合わない。しばらくは待ってもらうことになる。これを機にこの国の言語を習得してくれ』


 『了解』


 『そうだな。あともう一つ、今回の事で南にあるマザーコアが手薄になっている可能性がある。その破壊も頼もうか』


 マザーコアとは生物兵器達が数百体が融合することで出来上がる生物兵器の母体であった。

 今回の竜を産み落とす影響でマザーコアの力が落ちている可能性がある。

 絶好の機会ではあるがクラーク達は疲弊している。そのため、動ける人材はカルナのみとなる。


 『驚いているそこの臣下の方々はこう考えてみればいい』


 カルナは王へ意見している臣下に話しかける


 『この任務は国王が、外様であるこの俺を試そうとしていると』


 臣下は国王をみかえる。

 国王は笑顔でカルナの発言を聞いている。


 『例え、この任務で俺が死ぬ様なことがあればその程度だったということだ。この国がマイナスを負うこともあるまい』


 所詮は外様なのだからと

 王はカルナが負ける事を考えてはいないが為にこの様な注文をしたが、臣下にとってはカルナがどうにも信用ならないのだろう


 『それに開拓に成功したから伯爵になると言っても文字通りお飾りになるだろう』


 土地の運用などしたことがない者がトップに立って管理なんぞできるわけがないので、当然それができる者を部下に置くだろう


 『では金はどうするのだ?人を使う以上、賃金の支払いは確実に必要になってくる。当然国主導の物とはなるから国庫からでるが』


 臣下の一人がごく当然で当たり前な事を聞いてくる。


 『俺の要求を呑んだのだ。まだ余裕があるとは思うが、確かに必要だ』


 『ならばどうするのだ?』


 『国王は俺が様々な生物兵器と戦って来たことをわかっているようだ』


 『それがなんだと………まさか』


 臣下の一人がハッとカルナが言わんとしていることが分かった


 『まさか、それを報酬として払うと?』


 『それ以外に何がある?』


 『ありえない!』


 もしその様な事があれば珍しい素材はは間違いなく、レートが跳ね上がる。ただの競りならば問題はないだろうが、これは国がやっていることであり、その金は国庫から出ていることになる。


 『貴様は国の貨幣制度を壊す気か!?』


 『そんなつもりはない。では来君が出してくれるのか?悪いが俺の払える物となるとこれぐらいしかないのでな』


 『それならこちらが今、買い取ろう』


 突然の王の発言に臣下は驚いている。

 臣下は慌てて止める


 「王よ!それはーーーーー」


 「確かに金は無限ではない。下手にばら撒けばそれこそ物価の高騰は逃れられない。しかしな、ここでカルナの事いうことを認めてしまえば、もっと危ないのだ」


 ここでカルナの言ったことを行うと、報酬として貰った物を換金しようとする、だがもし、その物との価値の差があったとしたら?高い方はいいかもしれないが低かった方はたまったものじゃない。それが原因でいざこざが起き、その不満はカルナとその換金価値を行った国へ向かう。

となれば土地開発どころの話ではなくなる。こういった報酬は平等性を重視させなければならないのだ。


 「だからこそ、国が買い取って物価や物流をコントロールしなければならない。こんな事もわからないか?」


 「…………浅はかな思慮で混乱させたこと、申し訳ありません。」


 「よい」


 王はカルナへ振り返ると笑顔で言う


 『では、カルナよ。売りに出す物を出してもらうぞ?』


 『了承した。物は外に出した方がいいか?』


 『ああ、監査官を派遣して置く。コアの破壊に向かう前に出しておいてくれ』


 『分かった』


 それだけ言うとカルナは出て行った


 カルナからの素材を換金計算をしている時にコア破壊の成功報告が届くのであった。

 そして今では北の森の開拓を行っている。



 「はぁ…………やはりとんでもないな。彼は」


 クラークは換金計算の報告書を確認しながらつぶやく。そこにはとんでもない額が書かれている為、見た瞬間、一瞬意識が飛んだ。


 「それはどうしてかしら?…………なぁんて聞かないわよ。あなた」


 「エリーゼは分かっているか…………いや、この国に居る者達なら誰もが分かっているか」


 クラークにエリーゼと呼ばれたのは美しいブロンドの髪をしたとても妖艶な女性だった。エリーゼはクラークの本妻である。

 エリーゼは椅子に座るクラークの後ろから抱きつき、顎を肩におきながらクラークの持つ報告書を見る

エリーゼもそこに書かれている額にクラークと同じ様に頬をひくつかせる


 「…………とんでもない額ね」


 「…………まぁ一応、金は擦らせているから」


 「それ、大丈夫なの?」


 クラークは額に指を当てながらため息をつく


 「カルナには余り使うことの内容に言っておかないとな」


 「そうね……多分、そうしても物価の高騰を起こすだろうけど」


 クラークはまたでかいため息を尽きながらな書類を処理していく



 カルナは北の森を影達で伐採しながら、生物兵器を処理していた。最も本体であるカルナは国の城壁からそれを眺めながら翻訳官であるフタバに言語を教わっていた。


 「しかし、凄まじいスピードですね」


 「なにがだ?」


 「いやぁもう完璧ではないですか、言葉」


 そしてすでに言語をマスターしていた。

 フタバは仕事がなくなってしまったと笑いながら言っている


 「お前のおかげだ、礼を言う」


 「ははは、音順とその言い方を教えただけですがね。いやぁそれにしてもカルナ殿の魔法は凄まじいですな」


 フタバは切り開かれていく森を見ながら言う。生物兵器が現れては攻撃をする前にコアを抜き殺していく。そしてその死体ははじに積まれていく、その数は軽く百は超えている。


 「しかし、今だにこれと同じ様な城壁ができないければいくら開いたところで意味がない」


 いくら森を切り開かれていこうがそこを穀倉地帯にするにしろ、住宅街にするにしろ生物兵器から守る壁が必要であった。

 これが動物ならば柵だけでいいかもしれないが、生物兵器は人間を襲うことを本能としているため、城壁は必要であった。


 「まぁそれも直ぐにできますよ。寧ろもっと土地を切り開いてください」


 「それはいいが、壁ができないと土地の基礎工事すら行いないと思うが…………」


 「というか、計画表ではどうなっているんです?」


 「形だけはあるが、全て俺が教わり、影でやるらしい」


 「随分とアバウトですな」


 カルナは頷く。カルナの能力を使うのはいいがそれに頼りっぱなしなのもどうだろうか


 「ははは、悪かったな」


 後ろからかけられた声に振り返るとそこにクラークが立っていた


 「これは国王様、ご機嫌麗しゅう」


 フタバは先程の言葉を聞かれたので額に汗が浮かんでいる


 「して、なに用か王よ」


 「何用とは挨拶だなカルナ。なに、換金の計算が終わってな、報告のついでにこの開拓に使う資金の財務官を紹介しようとな」


 すると王の後ろから黒髪の長い、中性な顔、身長はカルナの一回り小さい人間が現れる


 「はじめまして、私はフィン・フリートと申します。この度、北の開拓の財務官の任を受けました」


 「カルナ・カウラァヴァだ。恐らく、任せっきりになるがよろしく」


 カルナは座りながら振り返るとフィンに挨拶をする


 「カルナよ、もう言語を習得したのか」


 「フタバにも驚かれたがそこまでのことか?」


 クラークはまぁいいと会話を切るとカルナに紙を差し出し、カルナは受け取る。

カルナはそれを見ると顔を歪める。


 「これは多すぎないか?」


 「お前の持っていた素材の貴重性と有用性が高すぎるのが悪い。一応、擦らせてはいるが払うのにはしばらく時間がかかる」


 「別に構わん。この金を使って開拓した土地を開発すればいいのか?」


 「其の為の財務官だ。フィンはウチの国の財務官の息子でな、これを機に経験を積ませようと思ってな」


 「それはいいが、まだ森の開拓中でな。出番は後になるかもしれんぞ」


 「お言葉ですが、カルナ様」


 カルナとクラークの会話にフィンは割って入る。カルナはフィンに顔を向ける


 「突然の無礼お許しを。しかし、どうしても言いたいことがありまして」


 「別に構わん。で?なんだ言いたいこととは」


 「カルナ様の能力を使えば、開発も同時に行えると思いまして」


 「確かに知識としてあればできないことはない。人を雇うと金がかかるが、俺の力を使えば人を雇う必要もない。しかし、俺は開発のやり方は知らないのだ」


 「ならば、建設官に依頼するのが宜しいかと」


 「…………まぁ、金はあるしな。それでいいか」


 それととフィンは続ける。


 「あまり、カルナ様の能力で開発をするのはよろしくないかと」


 何故、とはカルナは聞かなかった。それは金だけ持っていても使用しなければ意味がないからだ。フィンが言いたいのはそういった雑務などは働く先のない者たちへの一時的な処置になるからだ。

だが、如何せん夜には動けなくなり、事実影の能力を使って開発する時間よりも二倍以上にかかる様になると予想される人間を使うのは効率が悪い様にカルナには思えるため判断を保留にしていた


 「確かにそういった事はプロに任せる方がいいな。と言ってもだいぶ先になるだろうが」


ここで土地の開発の話をしようが、先ずは森の開拓が終わらなければ話にならず、その後城壁を築き安全を各保し、そこから土地開発が行われる。

上記の様になるため、土地開発まではだいぶ時間がかかる事が予想された。


 「ところで今回はどこまで開拓をするのですか?」


 「ん?ああ、とりあえず地図にあった海と陸の狭間まで」


 カルナの答えにフィンとクラークは唖然とする

 そして、フィンは言う


 「そんな所まで開拓しても、住む人がいませんよ」


 「そうなのか?」


 カルナはキョトンとした表示を浮かべる

 クラークは乾いた声で笑い、フィンはこめかみを抑えている

 フィンは地図を広げて、二箇所に指を指す


 「…………とりあえずカルナ様、ここからここまでの間だけでいいので海まで真っ直ぐに森を開拓してください」


 「ここから台形のようにだな、わかった。俺はなにか間違えたようだな」


 「いえ、間違いという訳ではありませんが、今はまだ早すぎますし、そこまで必要なほど住むのに困っている人間はいません」


 「そうか、少し焦りすぎたようだな」


 若干がっかりした様な声で答えるカルナ


 「確かに、北の森が消えればこの国は後ろからの脅威はほとんどなくなりますけどね。先ずはここの土地の開発を成功させるのが先決です」


 「了解した」


 「ああ、それと伐採した木はどうしています?」


 「邪魔になるが、後々の資材になるからな。一応まとめてある」


 「わかりました。その木材の保存をしたいのでカルナ様の許可が欲しいのですが」


 「いいぞ。しかし、その証明の紙と判子がない為、口頭での許可になるが」


 カルナがそういうとフィンは問題ないと言う


 「ここには国王様がいらっしゃっています。いざ、という時は国王様が証人です」


 「え、俺?まぁいいけど」


 クラークはまさか自分に話題が来るとは思っていなかったようで驚いている

 カルナはピンと思いついたことをフィンに提案する


 「人を呼びたいのだったか?なら、援護は俺の影が担当するから、ここの兵士達にでも生物兵器との戦闘を任せた方がいいかもしれないな」


 「それはいいですね。開拓に時間が掛かる様になりますが、経験を積ませるのにいい機会です。いいですか、国王様?」


 「ふむ、まぁいいか。一応、連絡は回す。ああ、医療班にも連絡を回さなければならないか」


 「素材はそのまま持って返っていい事にするか?」


 カルナの提案をフィンは即座に却下する


 「いえ、それでは国が血まみれになるので、こちらで一旦買い取り、その後、国に買い取ってもらいます」


 また、国庫があかんことになるとクラークは言っているがフィンは知らんという態度を取る。カルナはこいつの神経図太いなと思う。


 「わかった。買い取る値段なんかは資金と相談して決めてくれ。俺は計算は出来るが相場等はわからん」


 「了解いたしました。査定官も呼びたいのですが?」


 「許可する」


 「では、早速用意を開始しますので、カルナ様は影の作業を一旦中止してもらい、開拓部分の監視をお願いします。なに分、城壁もなければ警戒の為の騎士もいないので」


 「それは何時もやっていることだ」


 カルナは開拓をはじめて影達を休めた事はない。なぜか?それは疲れなどを知らないからだ。能力を使っているカルナですら疲れてはいない。それどころか夜には影達に仕事を任せ、自身は寝ていたりもしている。それほどまでにカルナの影は有用性に溢れている


 「それでは私はこれで」


 「おう、頼んだぞ」


 フィンは頭を下げるとここから去っていく


 「さて、用も済んだし、俺も仕事に戻らんとな。資金の増加を命じないと」


 「すまんな、王よ」


 クラークは右手をヒラヒラさせながらこの場から去る

 カルナはそれを見送ると横になり、目を瞑る。


 「お昼寝ですか?」


 「ああ、今日はもう帰っていいぞ」


 それだけ言うとカルナは眠りについた




 それから5日後、壁の近くにわらわらと人が集まっている

 今日は北の開拓地での狩りの祭りだ


 「随分と人が集まったな」


 「それはカルナ様が安全を作ってくれますから」


 確かにとカルナの頷く。カルナにとってはそれほど負担でもなく、欠伸をしながら下を見ている。まぁ、それでも危険なのでこれで死ぬ事になっても自己責任であると契約書を作った。

 あくまでカルナがするのは援護であるからだ。


 「そろそろ開始するか」


 カルナがそれだけ言うとわらわらと集まった人達はカルナの影を連れて森に入って行った


 「フィン、何かあったら起こしてくれ」


 カルナはそれだけ言うと石の上で横になり、目をつむる。フィンはぎょっとする。


 「カルナ様!?何があるかわからないのに寝ないでください!」


 カルナはフィンの抗議を無視して眠りについた


 次にカルナが起きたのは天高くあった太陽が西の空に沈む時間だった


 今はフィンが連れてきた査定官達が頑張って査定している所だった

 どうやら何も問題は起きなかったらしい


 「起きましたか、カルナ様」


 「どうやら問題は起きなかったらしいな」


 フィンはホッと一息つく様に頷く


 「カルナ様の影のおかげでもありますが、死者は確認した限りいません。まぁ調子に乗って馬鹿をした輩もいますが」


 「そうか。ああそうだ、無許可に生物兵器の素材を国に持ち込ませないようにな」


 「抜かりはございません。検閲でしっかりと確認しています」


 そうかとカルナは言うと下を見る。

 相変わらず、わらわらとしているがその顔は何処か満足そうだ。


 「これから開拓が終わるまでは定期的にやった方がいいか」


 「それもいいですね。適度なガス抜きにはなるでしょうし」


 「まぁ、今度から資金は国に出してもらうことにしようか」


 何処からかやめてくれと聞こえたが、きっと気のせいだ


 「カルナ様、明日からまた伐採の仕事です」


 「分かっているさ」


 そしてそれから半年後、ついに海までの開拓に成功した。

 そこからは早く、壁を作ることの出来る魔法使いが三日ほどで終わらせた。最も、壁というよりも山の様な形であり、北の大地は谷の間の土地の様になった。

フィンなら「これは開発と同時に行う為の一時的な処理」と言うだろうが


 そして、カルナは影で山を城壁にする間、生物兵器との戦いをする警護任務と広い土地なのでどうしても雑用をする人数が足りないのでその手伝い、そしてカルナ本人はフィンの指導の下、水路などの土地作り、ついでに家も作っていく。


 「あーあー、かったるいんじゃー」


 「何を言っているですか、カルナ様」


 フィンはペンを紙に走らせ、何かを書きながらカルナに突っ込む


 「というか、おかしくないか?プロにやらせるという話だったはずだが」


 カルナは何故自分がこんな土木工事をやっているのか疑問で仕方なかった。

 カルナの言う通り、本来ならプロにやらせる筈の仕事がなぜかカルナに回ってきていた。


 「いくら海にでたからと言って危険がないわけではないですからね。あっカルナ様、そこを掘り下げて下さい。その危険をどうにかできるのはカルナ様しかいませんし」


 「もう半年経ったんだから怪我ぐらいもう治っているだろう」


 「いますが、王都からこの海までどれだけの時間がかかると思いますか?それにこの港をどうにかしないとお話しになりませんからね」


 カルナははぁとため息をつく。

 フィンの言う通り、海にも生物兵器は存在する。首の長いサーペントの様なものから魚の様なものなど様々な種類があり、カルナは海を解放するため、それ等と戦うことになった。そして、これらをどうにかするために海の中にあるコアを破壊した。因みにこれだけに4ヶ月かかっている。


 「だったら港に使う石を生み出すなりする魔法使いを呼んできてくれ」


 「それも無理ですね。壁の精製が最優先ゆえに」


 「くそが」


 カルナは悪態をつきながら港を整備していく。地面を石張りにするために石を同じ長さの長方形に切る


 「悪態をつかないでください、カルナ様の屋敷もここの土地に作るのですから。というか私としても土地開発より屋敷を早く作ってもらいたいですね」


 フィンはため息をついて言う。

 実はカルナ、伯爵と言う地位にありながら今の今までホームレスであった。と言うか現在進行形でホームレスである。

 フィンがそれを知ったのは挨拶をした翌日であった。

 ならば今までどうしていたのか?

 当然、野宿であった。身体を洗うのは森にあった湖、食料は生物兵器、雨風は影で防ぐといったおよそ野生児の様な過ごし方である。


 フィンは当然どうにかしようと思ったが、カルナの能力で無事に北の森が切り開かれていき、伯爵という爵位と恐らく莫大な利益を産む土地を手に入れるだろうと他の貴族達が予想すると、その利権に食い込もうとカルナへ恩を売ろうする働きが強くなった。

 特に一番激しかったのが妻の押し売りである。

確かに貴族は能力の継承や強化をし、次代に残していくのは義務である。現にクラークは能力の強さがあったからこそ国王にいる。

 カルナの能力は国王ですら簡単に超える程の力である。

 現在では爵位と金持ちとなることがほぼ決定している。そして、本妻どころか妾すら存在しない完全なフリーで存在しているのだ。

 その上、そこに食い込むことができれば、統治のできないカルナに変わって、自分が実権を握ることができる。

 そういったこともあり、フィンは頭を痛める。貴族だけならまだいいが、国王ですら残った娘をカルナの嫁に出そうと画策しているのだからタチが悪い。

 フィンは実家でしばらく滞在させようかと思ったがすぐに却下する。

 その背景には以下の様なことがあったからだ

 フィンは国王お付きの財務官である父から「お前はカルナ伯爵のお付きにするからな」と言われ、跡継ぎ争いから外された。三男であったし、これはフィン的にはとても嬉しいことではあったが、代わりに別の面倒を抱えることになった。

 父であるからと言ってカルナの土地と財産へ口出しさせないが、ある程度、カルナへ口聞きを期待されるのがあった。現にフィンがカルナのお付きになったことを知った他の兄弟達は途端に手のひらを返し、媚びてきた。

 その行為をフィンは攻めるつもりはないし、侮蔑する気もないが、そんなことをしてもカルナ次第であり、フィンに媚びた所で変わらない。

 この様に、家族してカルナへの媚びが酷くなったので自分の実家への滞在の案も取り下げた。

 ならば、宿でも取れとなるが、下手な宿を取ると他の貴族から何を言われるかわかったものではない。

 実の所、カルナとしては家なんてあってもなくてもどうでもいいのだが、回りがそう思わないのが現状であった。

この土地開発では始めはカルナに王都から開発して行く筈だったのだが、貴族達の媚売りが激しすぎて仕事にならないのと、他の貴族の民達に土地開発の雑用を任せることである程度、配慮すること目的にして、計画を変更し、カルナは能力を使い、海側から開発を行うことになった。実際は7:3の割合で貴族達からカルナを引き離すのが目的であるが


 「今ある、カルナの小屋は完全に書類を突っ込む為の小屋になっておりますしね」


 「お前が言ったのだろう」


 「というか、私が家を持っていてカルナ様がないっていうのがおかしいんですが」


 小屋の隣にカルナがテストで作ったフィン用の家を立てたのだ。

 これのせいで7日に1回の周期で王都に帰ると他の貴族達から嫌味を言われるのだ。


 「流石に風呂は作れなかったがな、ゆくゆくは作るから許せ。ところで、どうだ使い心地は?」


 「そんなことは聞いていないんですが………使い心地ですか?いいものだと思いますよ?」


 この家はかつてカルナが過ごしていた家を覚えている限りを再現したものだ


 「風呂は別に湖で汗は流せますから」


 「それだと、お前に嫁さんできた時困るだろ」


 カルナがそういうとフィンは目頭を抑えた


 「それは言わないでください……」


 カルナには当然であるが、その第一の配下であり、同じ様にフリーなフィンにそういった押し売りが殺到したのであった。

 思い出したくないという風な表情を浮かべ、ため息をつく


 「私より、カルナ様の方こそ妻を娶ってください」


 カルナは笑う


 「ハハハ。フィン、こんな100年生きた爺さんに嫁ぐ女なんていないだろうよ」


 「そんなことないです」


 「それに俺、今だと妊娠させることができるかどうかも怪しいし、そもそも勃つかどうかも怪しいぞ?」


 「では、娼館にでも行きますか?」


 一応、この人が死ぬご時世でもあり、生存本能なのか高ぶったものを鎮めることや、戦いのショックを癒す目的で娼館も存在していた。


 「抱いていいのか?」


 「冗談です……絶対にやめて下さい」


 もし、抱いてしまったら、これがカルナの子供ですといって押しかける娼婦が大勢くるだろうし、その責任は娼婦をすすめたフィンに返ってくるのだ。


 「そうだろ?だからぶっつけ本番で試すしかないのだが」


 「その時が来たら、絶対に勃たせて下さい。そして絶対に妊娠させてください」


 「無茶を言うな、フィンは」


 「子供ができないと知ると養子を出そう押し売りますから」


 「こうやって働き口を増やしても人数足りないのだ。そんなことは」


 「あるんですよ……カルナ様ほどの土地と金を持っていると」


 この国での土地の買取は原則禁止されており、貴族でも第三爵位以上でないと爵位を継がせることができないのだ。

 カルナは第三爵位である以上、跡継ぎを作らねばならないが、跡継ぎが作れるかどうか怪しい。であれば、養子を取るしかないが、もし養子を取ると当然その養子を出した家に配慮も必要になってくる上、その家族も貴族入りしてしまうという、面倒な事になってしまう。何より一番大きいのはその家族がカルナへ意見を言えてしまうからであろう。


 「そういうことでカルナ様は早くお世継ぎを」


 「面倒だな。フィンが領主になればいいだろう」


 「お断りします。というか無理です」


 それだけ言うとフィンは黙ってしまい、カルナも仕事を続けて行く


 そして、1年後にはついに土地の開拓が終わり、正式にカルナは伯爵の地位を得るのであった。

次回は「黒い腕の化け物 転」を予定しています

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