7話 箱庭の友達 後編
続き投稿致します。
「草薙さん!草薙さん!!大丈夫!?」
-ペチ、ペチ・・・
-バン、バン・・・
頬を叩かれるが、意識が有るのか確認するためであろうから仕方ない。
しかし、一つ言いたいのはもう少し優しく叩いて・・・
結構、焦っていたのかきつめに叩かれたよう頬が痛い。
『う、うーーん・・。』
顔を顰める。
まだ完全に覚醒出来ないが顔の表情は変えられそうなので、
出来るだけ嫌な顔をしてみた。
「息はあるわね。ストレチャー!!」
看護師さんを確認するべく薄く目を開けてみる。
すると、そこにはアンドレみたいな筋骨隆々な看護師さんが僕を抱き上げていた。
よっぽど心配してくれていたのだろう。表情が非常に怖い。
-フー、フー
以上に興奮しているのか、息が顔に掛かっている。
なんだろう。あそこから戻るのをもう少し待てば良かったと、非常に後悔している・・・。
因みに僕を襲おうとしていた敵は、タマと共に池で確認しているのでここは平和だ。
そして、僕は意識を失っている訳でもない。
それなのに看護師・アンドレがさっきからずっと僕を抱き上げたままなので、
死んだふりもここまでかな・・・よし。まずは体を離そう。
(いわゆる【のび】の状態で近い顔を離すように仕向ける)
『う、うーん。』
精一杯、【のび】をする。
「く、草薙さん。駄目よ!!
体を動かさないで!!」
"ギュッ!!"
『ぐぇ!!?』
逆に物凄く抱きしめられた。
どうやら、僕が落ちるのを防ごうとしたらしいのだが・・・
背骨が"ギシギシ"軋んでいるんですが・・・
-ギブギブ・・・・・ギブ・・ギ・・・・・
意識が薄れていく。
どうやら、僕の冒険はここまでのようです。
-ドスッ
『・・・・・・。』
かなり激しくストレッチャーに寝かされる。
と言うか、投げられた。
仮にも気絶した人に対して扱いが雑すぎませんかね・・・
「急いで、当直の先生を叩き起こしなさい。」
「はい!!婦長!!」
どうやら、看護師・アンドレさんは婦長さんだったらしい。
そして、その人の権限で僕は緊急で検査する事が出来た。
結果・・・
外傷は見当たらかったが、(婦長が)脳へのダメージを考慮して非常に強く医師に掛け合ってくれた。(余計な事を・・・)
そして、明日もう一度精密検査を受ける羽目になった。
しかも、この病院で出来る最高の検査でだ!!!
因みに次の日の診察開始まで、あと3時間余り・・・
もう、寝れる気配がない・・・。
部屋に戻った時には、恐ろしい疲労感に襲われていた。
外が若干明るいしな・・・
裕樹が気を利かせて起きてくれていたのは、正直うれしかったし、
彼がナースコールを押してくれたという話を聞いて、お礼を言う。
『おかげで助かったよ。ありがとう。』
と、一言告げると裕樹は笑ってくれていた。
2、3会話を交わした後、裕樹が
「顔・・・すごいから、少し眠った方が良いよ。」
『ありがとう。凄い眠い!!』
裕樹は笑っていた。
しかし、限界だ!お言葉に甘えて少し休ませてもらおう。
優斗は、やっとの事で長い一日を終える事が出来そうだった。
・・・聖域
<おぬし・・・。何故また此処にいる?>
『あはははは・・・・』
<まぁ、一度こっちに来い。>
『はぁい。』
ベットで直ぐに意識を失ったはずの僕は、その瞬間にまた聖域に来てしまったようだ。
ちなみに肉体は、しっかりと睡眠状態となっているため体力低下の問題は無い。らしい・・・。
実際は、良くわからないけど。
精神的な疲れというとこれは、タマと一緒であればそんなに疲れる事は無いな。
(しかし、何度来ても飽きない風景だ・・・。)
何度目かタマの居る社に向かう際、必ず通る洞窟を抜けると社に続く広大な草原の場所に出る。
洞窟も雰囲気があって何度見ても圧巻であるが、この洞窟を抜けた草原の場所も是非お勧めしたい場所である。
目の前に見える社は、前も言った通り国宝級である。
装飾の豪華さやシンメトリーに見えて微妙に傾き度合が違うのはある種、芸術性を感じる。
そして、その社を彩るのが社の裏手にある巨大な滝の存在である。
空を見上げても天井が見えない滝のテッペンから降ってくる水が常に虹を掛けており。
降り注ぐ水しぶきは、鉱物と反射し空を明るく彩っている。
この風景は、何度見ても見とれてしまう。
一瞬目の前の風景に意識を奪われてしまったが、これ以上タマを待たせるわけに行かない。
あまり待たせるとまた不機嫌になってしまうので、
『この景色はまたこっそりと楽しもう。』と、心に決めて目の前の社を目指す。
御所に着くとタマは、縁側の手すりに腰を掛けていて何か思いにふけっている様であった。
少し離れた場所に腰を掛けてタマが放し始めるまで待つことにする。
しかし、こう見た目が僕と同じ18~19歳位の学生っぽく見える体形の女の子が、
僕の目の前で衣を肌蹴させながら外を見て甘いため息を付いている事が問題だと思うんだ。
幾ら、神とは言えはしたないからね。
本来、美少女の部類に入るであろう猫神。
しかも、タマの肌蹴た衣から美脚がチラチラとこちらを見ている。そんな状態を前にして、
目のやり場に困ったのではなく、はしたないとしか考えないのは相変わらずの残念な性格のせいなのだろう。
全く、優斗の性格はいったいどうなっているんだ・・・?
・・・今は、話を戻そう。
こういう時のタマは話しかけない方が良い。と、いうのはここ数回訪れた際の経験である。
猫神である彼女は、急な音や集中を妨げられる事に対し非常に敏感で、激高する。
下手するとこちらの命が危うい。
その癖、向こうからはこちらの都合関係無しで、チョイチョイちょっかいが来るのだから、
神様とは案外、子供ぽいのだと分析をしてしまう。
「お前、何か失礼な事を考えておるじゃろう?」
『え?』
何故ばれる?顔に出たかな?
「はぁ?図星か・・・。
しょうもないな・・・。それよりも、先ほどのあやつの事でいくつか聞きたい。」
『はぁ?』
タマは、いきなり内容の濃い話を切り出した。
急な話の変更であっけに取られた僕はリアクションが微妙だった。
しかし、タマはお構いなしに話を続ける。
「先ほどから気になっている事があってのう・・・。」
目をつぶって何かを言おうとして、言葉を選んでいるように見えるその姿から。
数少ないが、初めて見る迷いが見え隠れしていた。
「先にも話したが、主にはおそらく才能というモノが在ったのじゃろう。
霊力が以上に強くなっておる。」
ため息を深くついてから、
「しかも、これから益々力は強くなるじゃろう。」
『霊力?何ですかそれ?』
実感の薄い優斗からすれば当然の質問である。
「ふむ。それもそうじゃな・・・。」
霊力とは、本来人間だれしもが持っている生命力の様なもので、
訓練次第では身体能力に上乗せし力を発揮したり、超能力と呼ばれる能力を使うことが出来るらしい。
そして、本来そう言った霊力の量には個体差で限界があるらしいが、
どういう訳か僕にはそれを増やす能力が備わっているらしく。
その理由と言うのが・・・
「お主は、後継者に選ばれた・・・。」
『は?』
「じゃから・・・。お主は、後継者に選ばれた・・・。」
『何だか知りませんが、嫌です!』
一瞬の沈黙が、この世界を包み込む。
まるで、時間が一瞬止まったか錯覚するほどの緊張感。
「・・・神前の名を継ぎ、ワシを守護する役目じゃ。」
『えぇーーー!?シカト!?』
僕の主張を普通に無視して話を進めるタマは、右手を高々に上げ守護者宣言してくる。
このひと全然、僕の言う事聞いてくれません・・・
「何じゃ?お主、後継者になるのが不服なのか?」
後継者になるって、だって良く知らないし、そもそも何の後継者になるの?
神前家の問題ならゆいさんに行くの筋なのでは?
色々、頭の中で考えたが答えは見つからない。
仕舞いには、タマがぽつんと一言。
「お前の遠い親戚が、神前家だったんじゃろ?」
なんて、適当な事を言い出す始末だ。
いずれにしたってタマの言っている事はいきなりすぎて理解できない。
「と、言っても直ぐには受け入れられんじゃろう。のう、優斗よ。」
緊張を解いて"ふっ"っとやわらかい笑顔になったタマからは、どこか寂しそうな顔にも見える。
「なので、少し考えてほしいのじゃ。」
『一度、受けてから断るのはダメなのですか?』
「ワシとの正式な契約を結ぶ事になるのでな。
後継者としてワシの恩恵を受けるとなると全て従ってもらう事になる。」
タマが、非常にまじめな話をしている・・・。
『守護とはどう言う意味なのでしょうか?
それと、神前の名前を継ぐ必要性とは?』
「ふむ。説明無しでは、判断もしかねる・・・・か。」
『ま、まぁ。そうですね。』
目を細めて俯くタマから表情が読み取れないが、納得はしているようだ。
そりゃそうだろう。
某国の約款じゃないんだから、普通しっかり読んでから契約するもんだ。
わざと読ませない様に作ってるのは、某国位なものだ。
「お主。ここの聖域が何の力も持たずに入れると思っておるのか?」
『い、いえ・・・。何か条件があるのですか?』
「そうじゃよ。ここに入るにはある一定の霊力を消費して入って来る必要がある。
霊力を使う事に慣れた者であれば、さほど難しくはないが、
能力を開花させたその日から何度も入り込んでくるなんてのは、今までの守護者でもありえんことじゃ。
恐らくその強靭な霊力の所為でお主は襲われたんじゃろう。
お主を脅威に感じた何者かが、奴を送り込んできたという考え方は出来る。」
『あのモザイクの奴が刺客だというのですか?』
「あぁ。
先ほど戦って分かった。完全にお主狙いじゃったしな。
それに色々気になる事もある。」
タマは、そう結論付けた後にこう説明する。
相手は、タマと僕が接触した事を見越した上で妨害してきたと分析していた。
と、いう事はタマの存在を知っている者である可能性があり。
姿を隠しているという事はタマの知っている者である可能性がある。
そいつにとって、僕がタマと会うことで何らかの不具合の生じると言う事。
そして、恐らく今後も襲い掛かって来る可能性はある。
との事だった。
最後の説明には流石のタマにも申し訳ない気持ちがあったのか、若干小声だった。
まぁ、ここまで聞けば流石に理解出来る。
すでに選択肢が無いという事が。
断っても知り合いなどに迷惑が掛かる可能性があるな・・・。
『・・・分りました。お引き受けする事にします。』
タマは、安堵した様な顔で優斗を見ていた。
「よし!!まぁ、知っていたんじゃがな!!わはは。
今後は、霊力の使い方を訓練するとして、今回は運が良かったな。
ワシが守っていたとは言えあそこで人が来んかったら分からんところもあった。」
心にゆとりが出来たのか強気な態度を取り戻したタマ。
まぁ、落ち込んでるよりはマシだろう。
『あぁ、あれはたまたま同室で知り合いになった人が、
看護師を呼んでくれていたらしいんです。』
優斗は、裕樹のことを掻い摘んで話をした。
そして、戻ってくるのが遅い僕のためにナースコールを押してくれていたらしい事を。
タマも思うところがあったのか、黙って頷いていた。
「そうか・・・。」っと、独り言を呟いていた。
「主よ、そろそろ朝じゃ。一旦帰るが良かろう。
あちら側に帰ったら近くにわしからの贈り物を置いておくので、探してみてほしい。
それは、主を助けてくれた者への礼として渡してもらいたいんじゃ。」
僕の話を聞いたタマは、随分低姿勢で話しかけてきた。
お礼の件は、僕も恩人なので快諾する。
そして、池に飛び込む際、タマは手を振ってくれていた。
目が覚めると、ある程度日は高くなっていた。
と、言っても先ほどまでタマと一緒だったので寝た気は全然しない。
でも、体は疲れていないという。凄い不思議な感覚だった。
タマの言いつけ通り辺りを見渡すと、僕が持っているオーパーツによく似た石のアクセサリーが
枕元にちょこんと落ちていた。
(これか・・・)
「おはよう。」
裕樹は昨日と変わらない笑顔で僕に話しかけて来る。
昨日は寝てないのかな?
『おはよう。昨日寝てないの?』
「うん・・・。ちょっとね。」
力が弱く笑う彼は内容について触れて欲しく無さそうなので、
優斗はそれに合わせる。
そして、"はい"っとばかりに裕樹にお土産を手渡す。
「・・・これは?」
七色に光る石、見かたによって色が若干変わるのが珍しい石だと分る。
『助けてくれたお礼かな・・・。』
「えぇー、い、いいよ。何だか高そうだし・・・。
別にお礼がほしくてやったわけではないしね。」
これはタマがくれたもので、とは言えない。
お礼の価値が下がるし、何より説明が難しい。しかし、上手い説明が無いと裕樹が遠慮して返してきそうな色が濃い。
"うーん。"唸りながら石を見つめている裕樹。
色々、葛藤と戦っているのだろうか?その時、朝の検診の時間なのか看護師の人がタイミング良く来た。
「あら。裕樹君、きれいな石ね。草薙さんからのプレゼント?」
お?ナイスな反応をする看護士さんのやり取りで裕樹も返すに返せない状況になってきた。
「・・・実は・・・」『そうなんです。彼との思いでと思って。』
返そうと話を始める裕樹をさえぎって看護師さんも味方にしまおうと話を進める。
「あら~。そうなの裕樹君、良かったね。」
「優斗・・・くん・・・。」
裕樹の頬から一滴涙が流れる。
(な、泣くほどのことかな~?)
裕樹の涙に恥ずかしくなる優斗。
「だ、大事にするね。」
裕樹はうれしそうだ。
それを見てニッコリ微笑む看護師さんは、
"あ、そうだ"と、言って何か手渡してくる。
どうやら、僕が倒れていたところに落ちていたそうだ。が、僕自身に身に覚えがない。
形からするとビー玉、またはスーパーボールの様な形をしたが、
少し薄暗い宇宙のような背景がちりばめられた玉のようなものだった。
大きさは、オーパーツに似てはいるが???
正直、見に覚えが無いものだが、素直に受け取ると・・・
"ボワー"意識が遠くなる・・・。
タマの世界に行くときに非常に近い感覚があるが、今回は違う明らかに不快感がある。
何があるのか分からないが、後程行ってみよう。
薄れそうになる意識を元の世界に戻して看護師さんにお礼を言った。
お読みいただきましてありがとうございます。