8話 白虎(ビャッコ)の運送便
続きを投稿いたします。
「何!?近くに集落があるのか?」
朝、弥生様が目が覚め食事の用意をしている最中での出来事。
『えぇ、昨晩近くに偵察に行っておりましたので、その際運よく見つけられました。』
満面の笑みで報告する。右手には、今朝取ったばかりの魚をくし刺しながら・・・。
実は、昨晩直さんに手伝って貰って近くに何か集落など無いか調査して貰った。
直さんは、守護者の力を試すためだと言って喜んで買ってでてくれた。そして、俺と連携の修練も兼ねたのである。即座に直さんの奥義である天翔を使って貰った。
天翔とは、千葉道場の裏奥義として直に授けられた奥義の一つで縮地(人の知覚を越えた超速度)の力を使い空を駈ける業である。
お陰で、近郊10Km圏内に明りを確認出来た。そのまま、近くまで行って貰い現地調査も行って貰う。勿論、安全かどうかの確認である。野営などの場合、山賊などの可能性もある。因みに今回は、普通に集落だったので、日の出と共に此処を目指す事にした。
何故この様に色々遠回りをしているかというと単純に力を見せたくないのである。
これらは、前回の反省を踏まえての事だった。下手に目立つと利用される。そして、そのせいで親しい人達に返って迷惑をかける可能性がある。それを前回の世界で学んだ。
だから、同じ轍を踏まないため力は使わない。正確には、1人であればとっくに着いて居る。
目撃者が消せるのであれば、どんどん業は使う。けど、同行者の場合は消せないのでやや強引だが有利な条件を作り出し乗っけさせる。要は、予め道を手配しておくのである。
ただそうなると、今回の件は時間がタイトすぎる。
残り9日で、行って返って来てとなると対抗する準備も踏まえて2日は前もって返ってきたい。
普通の引き算だと後7日以内だが、普通の方法では絶対に無理なので昨晩、俺は情報共有を図った際移動の手段に時間がかかりすぎる旨を田吾作さん達に相談していた。
導き出した結果とは、
「お、おい。大丈夫なのかこれ?」
『お!弥生様良いですね。お似合いです。いや~、母上に良い思い出話が出来ましたね。』
「お前!性格悪いな。おい!ゴクウお前も何とか言え~。」
ゴクウと名付けられた猿が弥生様の方で飛び跳ねていた。
こいつは昨日、弥生様の服を盗んでいた猿で俺が捕まえたのだが、朝になって腹が減ったのか騒いでいた所、弥生様が解放しろと仰られたので野に放ってやった。しかし、弥生様に懐いてしまいずっと付いて来るようになってしまった。
まぁ、弥生様も喜んでいるようなので良しとするか・・・
で、話を戻すと弥生様とゴクウが乗っているのは、白い虎の背中である。
言わずと知れた家のマスコッツ。田吾作さんだ!直さんの契約を期に大人に育った様で大きさは有に3m位はありそうなでかさである。
「お、おい。こんな獣に乗って大丈夫なのか?」
『仕方ありませんよ。立ち寄った集落がたまたま虎を飼育している集落だったのですから。いやー、ウンガイイナー(棒)』
「お前、おかしいだろ。そして、絶対何か知っている言い方だろ。」
「ゴガアァァァァ!!」
「うひっ!?」
弥生様は、恐る恐る田吾作さんの背中を撫でてご機嫌を取っていた所に俺がおどけた所為だろう、サービスとばかりに受け応えした田吾作さんの咆哮に弥生様は体を一度跳ね上げさせた。大分怖かったのだろう若干震えている。
ゴクウは、嬉しそうにピョンピョン跳ねて喜んでいた。
むぅ。意外と度胸の据わった猿であるな・・・本能的に俺の仲間だと悟ったか?
これは、俺が作った道筋である。田吾作さんにまたがって目的地まで進む事。因みに譲ってくれる村人は、直さんが扮している。
「いやー。お嬢様、お目が高いっちゃ。」
とか、別にお金払って無いのに商人ぽい事言っている。完全にアウトっしょこれ?
まぁ、弥生様は何にも気づいていないようだから良いんだけど
「おい。何か言ったか?」
やべやべ。
で、田吾作さんに乗っけてって貰おう作戦に強行したのである。
因みに俺も乗っているけど田吾作さんには苦労はかけていない。実は、直さんの契約で俺に宿った霊力は【軽身功】だった。極端なイメージだとワイヤーアクションで剣の上に片足で立ってバランスしているあれ。
使い道は単純明快。なんと、体重を0に出来るのだ。普通のジャンプで飛ぶ瞬間に軽身功を使うと数メートル飛べるとか、葉っぱさえ気を付ければ木の枝の上に足音無しで乗れるとかバリエーション豊富な業である。
『じゃー。虎さんよろしくお願いね~。』
目の前に肉をぶら下げる。
田吾作さんならそんな事しなくても当然走ってくれるのだが、ここは建前が必要で何事も不信感を持たせない事が成功の秘訣なのである。
――ビューン!
風の様に走る様は、まさに快適の一言に尽きるのだが弥生様は走り出し5秒ほどで意識を何処かに置いてったらしい。今、涎を垂らしながらガクガク揺れている。惜しい、写真の概念があればお母さんにお見上げ話として見せられたのに・・・
因みにゴクウは相当楽しいのか、田吾作さんの頭の上で座って良い子にしている。
こいつは、相当度胸あるぜ!俺も感心してしまう。
そんな事を思いながら田吾作さん、直さんと今日中に目的地に到着する旨を話し合うのであった。
・・・・・・とある洞窟の奥地
・・・グゴゴゴゴゴゴゴゴ
大きな胴体がニュルニュルと絡み合う様に体を擦りあってうごめいている。見た感じ大きさは太さだけで数メートルはあるだろう。魚の鱗の様な龍の様な油の塗られた様な胴体がニョロニョロ動いていた。しかも、此奴等は体を動かすだけで大地が暴れる力を持つ。先ほどから洞窟内は、グラグラと揺れていた。
さすがじゃのう。落ちたとはいえさすが神のなれの果てじゃ存在だけは今もなお健在じゃな。ワシが来た事を快く思っておらんのじゃな。先ほどから心地の良い殺気でワシを喰おうと虎視眈々と狙っておるわ。
「後は、歯ごたえがあると良いんじゃがな・・・」
黒衣の人間は、男とも女とも感じる雑音の混じった声を発する。心なしか喜びの気配を滲ませて。
そして、その笑みは空間を妖しく歪める。気配を殺していた目の前のモンスターが思わず面を上げる程度の殺意を込めて。
目の前のモンスターは、即座に臨戦態勢に入る。こちらを睨む目は縦に細長く獲物を細くしたと合図を送ってくるような威圧感を持っている。首の近くまで割れる口からは、細長い舌がチョロチョロと妖しくうごめいている。
「クククッ。中々強い妖気を放つではありませんか。」
こちらの服従させようとする力に抗おうとする大蛇が体を起こし、ゆっくりと間を詰めて来ている。そしてその背面、同じような巨大な大蛇が数匹こちらに向けて殺気を含む眼差しで睨んでいた。
黒衣の人間はゾクゾクした感覚を感じ口元が三日月の様に割れていた。
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次話は、水曜日15:00投稿予定です。