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神前家の後継者【休止中】  作者: 縁側の主
第1章 ~後に龍と呼ばれた男~
32/178

20話 修行(実戦)の成果

続きを投稿します。


本作品は、完全なフィクションです。

作品内に歴史的人物を連想させる表記がございます。

書生の妄想を元に史実とは違う動きをする事が多々あります。お気を付けください。

 あれから・・・3日が過ぎた。


 あの日、俺は斉藤さんに抱えられ、城から脱出し貧屋さんの屋敷へと運ばれた。命に別状は無かったが、ふっとばされたダメージがでかくこの1~2日間はまったく動けずにいた。そして、貧屋さんの屋敷に着くなりまた病床に伏せる事になったのだ。最近はどうもこうなるパターンが多い気がする。

 そのうち、病床()とか不遜なルビがふられそうで怖い。


 冗談もさることながら、お爺さん達も俺達が逃げた日の内に開放はされたらしい。貧屋さん達に発見されるまで町の片隅に寝転がっていたらしいのだが、どうにも情緒不安定になっていたそうだ。

 あの場にいたのなら何かしらの調整を受けていても仕方ないと思うが、焦燥しきった顔を見る限り、心が折られたという印象に近い。


 一応、霊力を使って診断はする予定だが・・・


 因みに俺達が逃げた後の事を聞こうとしても拒否されるらしい。他にも相手の戦力や手数などを聞こうとしても返答は返ってこないらしい。この時点でほぼほぼ【黒】だ。


 一緒に戻ってきた佐々木さんでさえその話をすると頭を抱えてガタガタと震える。2人は脅されているのかもしれない。


 とりあえず貧屋さん達に現状の報告をする事になったのだ。


 斎藤さんも城の地下で大量の死体を発見したそうだ。そして、残念ながら大岩さんの娘さんらしき女性もいたようで、斎藤さんは御印を持って帰ってきたようだ。



「ふむ。これで、黒幕は確定した訳で既にここも知られておるようだの、ご苦労。しっかりと休め。さて、みっちゃん。何があったか報告してくれんか?」


 続いてお爺さん達の報告の順番なのだが、何やら様子がおかしい。

 お爺さんは何やら興奮しているようで、先程からずっと笑いっぱなしであった。



「くははっ。このまま抵抗しても人類は滅びるのみだ。あの方に逆らえば皆殺されてしまう。」


 お爺さんのテンションの高さは異常だった。



「ワシがここに使わされたのは、オヌシ達に無駄な抵抗を止めさせ大殿に組む伏せる説得を任されたのだ。」


 お爺さんと佐々木さんは、目の前の貧屋さんに襲いかかろうと急いで駆け出すが、田吾作さんと斉藤さんに阻まれ、突然現れた森さんに一撃を喰らい気を失った。



「な、何じゃ。急に襲いかかってきおった・・・。」


 一同、ざわつく。

 俺もまさか暴挙に出るなど思いもしなかったので、泡を食ったように呆けてしまった。ところが、1人冷静な人がおり。



「優斗くん。申し訳ないが早急に君の力が借りたいッス。」


 森さんだった。その目は恐ろしく冷たい目でお爺さんと佐々木さんを見ており、その姿からはなんとも言いがたい威圧感が出ていた。



『何を手伝えば良いのですか?』


「君の力で彼等の体を包んでほしい。そうすれば、洗脳は解けると思うッス。」


 またざわつく一同。

 明かに【黒】だが、まさか洗脳されているとは思っていなかったようだ。

 逆に俺は、森さんの言葉で"ハッ"と、する。それは、田吾作さんの時と非常に似ていたからだった。


 即座にお爺さんに近付くと、霊力を集中させる。両手を出してお爺さんの体に重ね、溜めた力をお爺さんに流し込む要領だ。


 一発勝負。妥協すればお爺さんが死ぬかもしれない。


 そう自分に言い聞かせ全力に近い力を注ぎ込む。

 お爺さんの体が徐々に白色の光に包まれ頭の先から両手両足の爪先まで白色のに光ったとき。それは、起こった。



「ぐぉおろろろろ、ぐはっ。」


 お爺さんは何かを吐き出した。



『田吾作さん!!』


「任せるだ!」


 ―ズバァ

 ―ギュッ


 田吾作さんが霊力を帯びた爪を激しくそれ(・・)に食い込ませることに成功する。悶絶しジタバタとしたそれ(・・)は、直ぐに動かなくなった。



「な、なんだべ。これは?」


 皆が田吾作さんの爪先を見るとお爺さんの顔ほどある蒼くラメが光ったような虫が絶命していた。


 足が10本で長さが不均等。カニみたいな体だがすごく薄っぺらい。

 見たことない奇妙な虫は田吾作さんに潰されたあと煙となって消えてしまった。貧屋さんが「身虫」と呼んだことから今後は身虫と言う名前で統一されることになった。



「で、この身虫とやらは、いったい何だったんだ?」


 東さんが気味悪がってったのを皮切りに皆が同じような表情をしていたが、やはり森さんだけは険しい顔を崩していなかった。

 俺は気になって話しかけようとしたが、森さんはこの場から離れてしまったし俺は佐々木さんの事があったためこの場では聞けずじまいだった。


 無事佐々木さんの身虫も片付け終わり森さんを探したが、工房にも屋敷にも見当たらない。暫く待っていたが帰ってくる気配が無いままその日は過ぎていった。



 ・・・・



「いやいや、斎藤どのの飯は最高じゃ。これほど旨い飯にありついたことはない。おかわりじゃ。」


「拙者もおかわりを頂けませんか?」


 身虫を取り除かれすっかり元気を取り戻したお爺さんと佐々木さんは、今は斎藤さんのご飯に舌鼓を打っていた。佐々木さんに関しては言葉使いすら治っているほどだ。

 しかも、斎藤さんのご飯を食べてから角が丸くなったほどだ。



「で、みっちゃん?何があったんだ。」


 食事の傍ら俺達は色々と確認していた。

 あの日、あの後何があったか。をだ。最早、【黒】と分かった以上ここからはやつらの手口、罠の種類、戦闘力などこちらが攻めるに有利な方法を模索することに注力していた。



「ふむ・・・。あの後、優斗殿が城から落下していく様を見届けた後は今一記憶がぱっとしないのだ。」


「某も似たようなものです。特に何も覚えておりません。」


「なんと。あれだけの事がありながら情報を残させんとは・・・」


 2人が本当に何も覚えていないような素振りをすると東役人は困った顔をしていた。

 確かにこれでは、相手の手の内が見えない。すると、貧屋さんは違う質問をしてきた。



「では、優斗がやられる間での話はどうじゃ?そっちも覚えておらんのか?」


 2人は、箸を止めて思案する。

 こちらの件にはどうも思う所があったらしい。


 そして、佐々木さんが何かを思い出したように手を叩いた。



「そう言えば殿。奴ら怪しげな雷の術を用意て、優斗殿を倒したでございますよ。」


「おぉ。そうじゃった。優斗殿は紫色の雷を受けて城の外まで吹っ飛んだな。」


 くっ、やられたことは事実なので否定は出来ないのだが、訂正はさせてほしい。

 相手側が雷を使った攻撃をおこなってきたが、俺はかわしたぞ(・・・・・)!!どちらかと言うと、あんたら2人を助けたんだけどな。俺がやられたのはその後に受けた打撃による攻撃ですよ。


 とは、口に出さないが思いは込めていた。



「雷か・・・。ちと厄介じゃな。」


 貧屋さんが唸っていた。

 ふと、考え付いたのは、【こう言う敵が相手の時、直さんならどうするか?】だった。



『そう言えば、田吾作さん?』


「うん。何だべ?」


『直さんって、どうしたんでしょうね?』


「そう言えば、スッかし忘れてた・・・。」


『今後の件も含めて一度会いに行きませんか?』


「そだな、それが良いかもしれん。」


「おぉ、そうじゃ仲間は多いに超したことはない。雷の件はこちらでも考えてみよう。」


 ご飯を食べたら一旦道場へ帰ってみよう。直さんも一緒に戦ってくれれば良いが。


 よし。善は急げ。だ!


 席を立とうとしたところで斎藤さんが、



「・・・・なさい。」


 うん?斎藤さんが何かを言っている。



「・・・ちゃんとご馳走さましなさい。」


 鬼の形相の斎藤さんがジッとこちらに殺気を向ける。


 しまった。ご飯中なのをすっかりと忘れていた。



『「ご、ご馳走さまでした。(だべ。)」』


「・・・はい。お粗末様。」


 許された。

 消えた殺気と共に項垂れる。斎藤さんはご飯に対してとても厳しい。作法は勿論。粗末にしたときは、半殺しがデフォだ。

 まぁ、食べ物に対して感謝の弁を述べよ。と言うのが斎藤さんの談なので、過去に何かあったのだろうが、それはまた別の話である。


 すり減った精神を回復させると俺は、田吾作さんと共に千葉の道場へと足を運んだ。俺達の足ならば、馬は要らない。

 自分で走った方が全然早いからだ。


 飛んだり跳ねたりと追いかけっこをしながら行ったのも良かったのだが、貧屋さんの屋敷から1時間も掛からず着いてしまった。行きは一泊したのにね・・・。


 この、道場に顔を出すのずいぶん久しぶりな気がするな。


 門の下に立ち中庭を見るとつい数週間前までいた場所とは思えない平和な空気を感じ、ここがどれだけ良い場所なのかが理解できた。


 道場の入り口を潜ると直ぐに駆けつける人影が3人。

 駒使いかな?と思って見てみると以前、朝稽古でずいぶん俺を可愛がってくれていた先輩の四助君~微助君が、俺に気が付き近くに寄ってくる。


「おぅ。久しぶりじゃねーか。」、「お久しぶりです。」、「久しぶり。」


 仲が良かったアピールなのか、右手を上げて軽い挨拶してくる。しかし、顔は嫌味に感じるほどニタニタとしていた。


 こいつら変わらないねぇ、ある意味ほっとするわ~。


 なーんてちょっと生意気に上から言ってみる。でも、相変わらず修練をサボっているのは変わらないのだろう。一歩一歩の動きが以前と変わらないと言うか、普通の人ともあんまり変わらない。



『あっ、こんにちは。忙しいので単調に、沙耶香嬢と直さんいます?って言うか、なにやってるですか?』


 中を覗くとおびただしい数の人がいた。しかも、皆が喪に服している。



「あぁ、道場主のお葬式の準備だ・・・。沙耶香さんが取り仕切りやっていらっしゃる。」


『えっ。そ、そうですか。俺も一度手を合わせてきます。』


 田吾作さんを見るが、特に知らないと言った顔だった。


 驚いた。正直、ショックだった。事情を知っていれば駆けつけたのだが、直さんからは何も話はなかった。



「あぁ、そうしてほしい。でも、その猫は置いていけ。あまりにも失礼だぞ!」


 田吾作さんを指さし微助君は、咎めてくる。

 事前にこうなる事は分かっていた。だから、しっかりと対策(言い訳)を考えていたのだ。



『この猫は、外国から連れてきた神格の高い生き物です。以前から直さんに頼まれていたのですよ。』


「そ、そそそ、そうなのか?」


『えぇ。なっ。』


「ナ、ナァーーゴ。」


「うわっ。人の言葉に反応した。すげぇ。」


(く、屈辱だべ。恨むぞ優斗!!)


 まぁ、ホワイトタイガーは日本には居ないですし、鎖国中ですし。でも、だからこそ簡単に手にはいるわけ無いでしょ。この人達、アホで助かるわ。



「な、直さんの頼みなら仕方ねえな。俺達が率先して通したって言うんだぞ。」


『はい。必ず。』


 べぇ。ちゃっかり自分のプラスになりそうなことはアピって来やがるな。

 まぁ、最悪裏に連れっていって気絶させる算段だったから手間は省けたけど。


 3人と別れると道場主の部屋に足を向ける。

 道場主の部屋に入ると直と沙耶香が小坊主達と色々打ち合わせをしている最中であった。


 お師匠様本当におなくなりになったんだな・・・。


 布団に横になっているお師匠様は白装束に身を包み眠ったように横になっていた。俺は手を合わせていると沙耶香嬢が俺に気が付き近寄ってきた。



「ありがとう。」


 俺は首を振る。

 それはそうだ、俺だってお世話になった。ここの道場が拾ってくれなければ何処かでのたれ死んでいたかもしれないし、投獄されて奴等の仲間入りしていた可能性もある。それ以外にもたくさん教えてもらった。



『俺にとっても恩師です。』


 沙耶香嬢はニッコリ微笑んでくれた。



「おにぃ~。」


「えっ、何?」


 小鬼が急に俺の頭から飛び出し沙耶香嬢に飛び移った。


 何で急に?



「おに。おに。おに。おにぃ~。」


 沙耶香嬢の頭の上で元気に踊る姿を見るととっても楽しそうだ。



『こ、こら。小鬼いい子だから降りなさい。』


「おに。おに。」


 何で不機嫌?


 沙耶香嬢から小鬼をひっぺがそうとしたが何故かキレられてしまう。



「お前は、私を心配してくれるのね。」


「おに。おに~。」


 沙耶香嬢の掌に大人しく収まった小鬼は機嫌が良さそうだった。



「で、優斗。この子は何?」


 掌に乗った小鬼を撫でながら沙耶香嬢は質問してくる。


 ―かくかくしかじか


 小鬼を与えられた顛末を説明すると沙耶香嬢は苦笑いしていた。



「貴方。普通とはちょっと違うと思っていたけど、私が思っていた以上に規格外なのね。」


『すいません。』


「別に謝ることはないわ。ただ、驚いただけよ。」


 沙耶香嬢は、そう言うといつの間にか眠ってしまった小鬼を見て優しく微笑んでいた。


 こんな表情もするんだ・・・。


 ジッと見ていた訳でもないのだが、視線に気づいた沙耶香嬢に、



「何?」


 って言われて焦ってしまう。


『いえ、何となく謝りたくなっただけです。』


 ばつが悪くなった俺は田吾作さんを探すと、お師匠様の横で座り頭を垂れている姿が見えた。小刻みに震えているところを見ると泣いているのだろうか


 ・・・今はそっとしておこう。


 それよりも今回お邪魔した目的の1つである直さんに会うことを進めよう。

 とりあえず沙耶香嬢に聞いてみることにした。



『直さんはどちらですか?』


「直は、上に要るんじゃないかしら。」


『上?』


 沙耶香嬢が指差す先を見ると天井裏が見えた。



 ・・・直視点


 ―バタバタバタ・・・・


 風が出てきた。先程まで無風で穏やかだった天候が急に変わったのは、優斗達が来たこと関係があるのかもしれない。


 師匠は昔から大きい物事の訪れには自然もその環境に合わせる傾向がある。と、言っていた。今まで忘れていたのに今急に思い出した言葉だが、だからこそ、この風はワシを敵の元へと誘う【風】なのだと確信していた。


 ・・・・



『直さーん。・・・・ここにいたのですか?』


「おう。お師匠様と別れの挨拶をしてたき。」


『そうですか、では出直します。』


「いや。ワシも行こう、もう十分じゃろ。後は任せてしっかり休んでくんさい。おし、行こうか。」


 切り上げてくれた見たいに見えたけど邪魔をしてしまったかな・・・


 声をかけたのは失敗だったかな。と思いつつスタスタと降りていく直さんの後を追って俺も下に降りていく。



『俺も手を合わさせてもらって良いですか?』


「ええ。もちろんよ。」


 やさしく微笑んでくれる沙耶香嬢・・・。小鬼は昼寝から覚めたのか沙耶香嬢に遊んでもらっていた。


 すっかり、なついてやがる。


 直さんも小鬼の存在に気づいたらしく、「お?何じゃこいつ。」とか言ってじゃれていたが小鬼はやはり直さんにもなつかなかった。


(沙耶香さんをどうにか移動させられんもんだか?)


 田吾作さんからの念話が来る。

 俺もずっと機会を伺っているのだが、父であるお師匠様の元を離れようとしない。だがここで、意外な者が反応を示した。


(おに。おにおに。おにぃ~。)


 念話に割り込んで来たのは、小鬼だった。


(なっ!?お前、念話出来たのか?)


(おに。おにぃ~♪)


 こいつ、確かに落ち着いて考えれば神々の使いか。完全に忘れてたぜ。


(なら話は早いだ。沙耶香さんを何処かに連れ出してくれねえだか?)


(おにぃ~。)


 元気な返事を田吾作さんに返した小鬼は、念話が切れると直ぐに



「おに。おにおにおにおに?」


 何か言い出した。



「うん?どうしたの?」


「おにおにおに。」


 言葉は基本【おに】しか言ってないので何を意味するのか分からないが、ジェスチャーは分かりやすい。

 お腹をつきだして、擦りながらへこんだ顔をする。そして、沙耶香嬢に媚びる顔を見せていた。



「あぁ。ごめんね。お腹すいたの?じゃあ何か無いか見に行こうか?」


 あっさりと連れ出しに成功した小鬼。

 手際といい、分かりやすすぎるほどの愛想の振り撒きはなかなかのやり手だ。



「ふぅ~。しんどいだ。声を出せねって言うのは案外しんどいだ。」


「はははっ。随分とその姿も板に付いたのぉ。田吾作さん。」


「前よりしっくり来るんだよ。これが。」


「元気そうで何よりじゃ・・・・」


「・・・お師匠様は残念じゃった。」


「あぁ・・・。」


「最後は、楽に逝けただか。」


「・・・・あぁ。」


「そうか・・・。」


 2人には俺分からない何かがあるのだろう。何となくここは2人にしておいても良いだろう。

 俺は、小鬼と沙耶香嬢でも探して少しでも時間稼ぎする事にしよう。

 お師匠様を前に2人を残して俺は席を立った。

 まぁ、最悪念話で小鬼に知らせらば俺にも情報をくれるだろう。

 鼻息を荒く満足げな顔をしていた優斗に


 -ひゅっ


 おっと。


 パシッと右手で、投げつけられた物を掴む。

 右手に収まっていたのは、そこそこ大きな石だった。


 おいおい、当たったら怪我するし。


 投げられた方面を見てみると、茂みがガサゴソ動いていた。

 霊力を当たると3人の人影が・・・


 草むらに隠れるとか・・・子供か!!


 お灸の意味も込めてちょっと強めに石を投げ返す。


 ―パカッン


「ぎゃっ!!」


 ふふふっ、少し反省するが良い。

 せこい真似してばかりしているから、こんなに痛い目に合うのだ。



『あっれ~。急に石が飛んできたから、茂みに返したのに変な声が聞こえるな?』


 盛大に煽ってみる。

 俺が知っているアイツラならこの方法で釣れるはず。



「おらぁ。俺と勝負しろ。」


 よしっ。テンプレ通り!!


 思わずガッツポーズをしてしまった。



「おらぁ。どうした。ビビってるのか?あぁ!!」


 大きい声を出している微助君。確か名前が【C】に因んだ名前だったはずだけど・・・何だっけ?

 まぁいいや。声が無駄にでかいだけで、覇気が無いんだよなぁ。

 しかし、お馬鹿だねえ。お師匠様の葬儀前だと言うのにこんなに騒いで・・・

 ほらぁ。人が集まってきた。


 微助君のでかい声を聞き付けた人達が【何だ、何だ?】と集まって来た。

 そして、ギャラリーの集まりをこれみがよしにB作君だっけ?がマイクパフォーマンスを始めた。



「友達想いの四助君が怒っているのは、君の投げた石で微吉君が怪我したから何だよね。」


 そう言えば、そんな名前だった気がする。

 そして、B作君(だっけ?)が狂喜に満ちた笑顔で淡々と話しているが、元々はお前達が投げてきた石なんだけどね。


 若干イラッとした気分になるがまだ何か続けているので最後まで聞いてやる。



「と、言う事でちょっと付き合ってよ。」


『はぁ?なんで?』


「いやね。こちらも随分鍛えたのでね。少し胸を貸してほしい所なんだよね。」


 どうやら、この3人がいつの間にかこの道場のボス的存在になっていたらしい。そして、いつの間にか結構な人だかりが出来ていた。


 まぁ、面倒くさいけどここいらで【癌】には消えていただかないとかな。



『じゃあ、3人同時に相手するよ。』


 ざわつくギャラリー。B作君と微助君も驚いており屈強な四助君は、更なる怒気を強めていた。



「「なっ・・・。」」


「くっくっくっ。面白い。」


 元々は四助君だけを戦わせるつもりだったんだろうが、逃がしはしないよ。

 ついでだから、直さんと沙耶香嬢にも見てもらおうか。


 ちょっこっと念話で、小鬼と田吾作さんに連絡しておいた。

 これで影でこっそり見てくれるでしょ。



『あのさ。おれも武器持った方がいい?』


「はっ。何言ってやがる。武器も持たずに俺達とどうやって戦うんだよ!」


『いや。俺、武器持った方が弱いし・・・。これでいいか。』


 一言告げると足元の枝を拾う。俺の一言と行動でキレた四助君だけが、



「ぶっ殺す!」


 突進してきた。   けど・・・すっごい、おっそい。

 大体俺の体で3歩程度の距離に立っていた四助君ですが、木刀を振り下ろしていない。これが、実戦を重ねた者の差なんだろうか?集中力が違う。

 俺は半身をずらして、枝をしならせる。弓なりになった枝を四助君が木刀を振り切った瞬間に合わせて手を離す。


 ―パチィイーーーン。


 鼻から左目上までカウンターのクリーンヒット。

 致命は無いがみみず腫位は出来るかも。


 想像していなかったいきなりの衝撃に一瞬首をカックンと後ろに下げた四助君は、頭を前に振ってから後ろに倒れた。


 これ日本初のヘッドバンキングじゃない?・・・違うか。


 倒れてからも顔を押さえていた四助君に、



『あのさぁ。やる気(殺す気)無いんなら絡んでくんなよ・・・。』


 クルリと踵を返して、縁側に戻ろうとした。

 もちろんこれは煽り(・・)でゲスヨ。


 案の定、引っ掛かった四助君は怒りに任せ。



「俺の刀を持ってこい。」


 言ってくれました。俺への殺人予告。皆(直さんと沙耶香嬢)が見ているともしらずに。



「おい。まだ俺の本気を見せてねーぞ。」


 帰ろうとする俺を押さえ込もうとしそうな勢い。殺気がうっすらと出ているが、相変わらず覇気はない。


 それじゃあ、ビビった相手しか怯まんよ。

 それに、今から本気って真剣勝負なら死んでるよ。言わないけどね。


 代わりに態度に出してみた。

 両手を開いてお花のポーズ。もとい、呆れたポーズ。


 これには四助君も完全にキレた。頭から血管を浮かせ、もうすぐ切れそうだ。

 ダッシュで刀を取りに行っていた微助君から刀を奪うと抜刀し、斬りかかってくる。


 ―ヒュッ


 必要最低限で体を動かし、太刀筋をかわす。


 遅いうえに大振りすぎる。これじゃあスタミナが持たんだろうに・・・



「な、何で当たんねえんだ・・・はぁ。はぁ。はぁ。くそっ。」


 案の定、ブンブン無理に空振りしていた四助君はバテバテになっている。



『君の今までの鍛練じゃ、この程度が限界だろう。重心も出来ていないし体重移動も普通だ。腕の力だけで振ってるしね。(けん)は、小回りに扱えて一人前だよ。』


 四助君は、元々真面目に道場に通おうとしていただけあって才能が無いわけではなさそうだ。だからこそ余計に残念な訳だが・・・



「そこまでだ。」


 ふと、声を掛けられてそちらを見てみるとギャラリーの1人を盾にしているB作君と微助君がいた。

 俺は、まだ戦いをおこないながら力を維持出来るほど練度を上げていない。とは言え、完全にカバーしていなかった俺のせいであることは変わらない。


 B作,微助、お前らは完全に侍として終わったな。



「四助君。立ちたまえ。」


 言われるがまま四助君は立ち上がる。



「こっちに来るんだ。」


 四助君は逆らうこと無く、B作君の元へと歩いていく。

 その姿に生気は無く、ただ一点見つめゆっくりと歩いていく。


 これは・・・。恐らく田吾作さんと最悪斎藤さんの力も借りないといけないかもしれない。

 こいつは、この前と同じだ。お爺さん達と同じく操られた時と同じくダルそうな顔をしている。


 まさか・・・。これは症状なのか?


 早く手を打たないと何かが起こる気がするぞ。


 ちっ、しょうがねえ。何か起こってからじゃマズイ。


 俺は、強制的に聖域から守護者を召喚する。

 召喚するのは、機動力を考え期待の出来る田吾作さんを呼ぶことにした。


(すいません。力を貸してください。)


(あぁ、良いべ。人質救出ゆうせんだべ。)


(はい。俺はアイツを気絶させます。)


(おし。いつでも呼べ。)



『虎の守護者よ。来い!!』


 体から力が抜ける。思っていたよりずいぶん霊力を持っていかれるようだ。

 しかし、先程まで直さんの所にいたはずの田吾作さんは俺の目の前に現れた。そして、周りが呆けている間に人質を取っているB作君と微助君の元に駆け寄るとB作君の左手を微助君を蹴飛ばし人質から引き離した。人質を救出してくれたおかげで俺も動けるようになった。


 俺もすぐさま駆け出して、目の前をのっそり歩く四助君を殴り正気を戻させようとしたが、


 -ガイン!!


 俺の攻撃は手加減していたとしても簡単に弾かれた。



「ふふふっ、こいつは私の大事な駒ですから。」


 俺の攻撃を防いだのは、【B作君】であった。手加減していたとはいえこれを普通に防ぐ当たり普通の人間(・・・・・)では無さそうだ。



『お前、奴等の仲間だな?』


 俺の問いかけにB作君は、笑う。



「ふふふっ。」


『いつからだ?』


「お前と同じ位からだよ。情報が必要だったからな。」


 なるほど、諜報専門か。ならばタマの情報も持っているかもしれないな。



『なら、尚更逃がせねえな。』


 俺とB作君は対峙し睨め合う。実力は俺の方が高いが状況はこっちが不利。

 まだ、田吾作さんを召喚した霊力が戻っていなかったからだ。


 恐らくチャンスは一回。田吾作さんとタイミングを合わせていくしかない。



(田吾作さん。俺の力では次の一手が限界です。一緒に捕まえてください。)


(分かった。タイミングは任せるべ。)


(了解、3・・・2・・1)



「ふはは。もう遅い。」


 飛び込むタイミングで、B作君は足下に陣を形成し白く光る光に包まれた。そこには、四助君と微助君も入っている。


 B作君を掴めれば行けるはず。


 田吾作さんとB作君に飛びかかる。しかし、あと半歩届かずB作君達は光る陣ごとその場から姿を消した。



『ち、ちくしょおおおおお。』


 思わず感情任せに吠える。タマの情報が手に入るかも知れなかったのにみすみす逃がしてしまった。


 これで、また1から探さないと・・か。


 このあと気づいたのだが、道場の中から数名の門下生その家族が姿を消したのだが、今は誰も気づくことが出来なかった。

お読み頂きましてありがとうございます。

現在、修正完了するまで新話の更新を止めております。


申し訳ありません。

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