3話 とうさんの涙
続き投稿いたします。
私は、夢を見ていた・・・。
内容は、私にとって最も悲しい記憶・・・・
【神前 海斗】、私の兄である海ちゃんと、私の両親のお葬式の記憶・・・・
あの時の事故は偶然だった。
みんなで別荘に行っていた、あの時・・・・。
たまたま遊び疲れていた私だけが買い出しに行けなかっただけ・・・・
おじいちゃんに聞いた話だと別荘に家族で出かけていた際、
買い出しに出かけた両親と兄である海人は、交通事故で一瞬にして帰らぬ人達となった。らしい。
そして、その一コマの出来事だけで私の人生はこれまでの幸せから一転した・・・。
一瞬にして家族がいなくなる恐怖と悲しみは、ある種の地獄だった。
そして、お葬式の時・・・・・
忘れもしない。
あの灰色の空、雨も建物もすべての物がモノトーンに見えた。
すでに泣きつかれた私の顔は生気が薄れ。目の前に写る不幸な世界は今すぐ消えてほしい と、恨んでさえいた。
次の瞬間、急に右の手に暖かなぬくもりを感じて驚いた。
横を見ると話もせずに前だけまっすぐ見ている病気をしていたのか、包帯を巻いている男の子がいて
ずっと私の手を掴んでいてくれた。
握られた手のぬくもりが悲しみで消えてしまいそうな私の心を癒してくれて、とてもうれしかった。
あぁ、確かこんな感じで暖かかったな・・・・
って、あれ???
あれ???
・・・・・
『ふぁああぁあ~。』
先ほどからゆいさんは、何故か僕の服の裾に頭を摺り寄せてくる。
猫の夢でも見ているのだろう。
本を読んで時間をつぶしていたとはいえ、初対面のしかも可愛い方だと思う女の子がすぐそばにいる。
こんな状況、そうそうあるものではないので正直対処に困っているところだった。
はぁ。とにかく、起きるまで待つしかないか・・・。
横で寝息を立てているゆいさんを見ると…。
"すー、すー"寝息をたてている。
ゆいさんが手を握りたそうに探っているので、手を握ってみる。
子供が手を握る様にしっかりと握り返してくる。
何でだか分からないけど彼女のこと知っているような気が済んだよね。
おそらく、他人のそら似だと思うんだけど・・・
っと、次の瞬間ゆいさんの目が”ぱっちり”と明いた
『!!?』
びっくりした。
ゆいさんも動揺しているのか、こちらを凝視したままで固まったまま不動である。
対処に困った僕は、とりあえず【ガチガチな声】で
『や、やぁ、おはよう。よく眠れた?』
などと、明らかに怪しい雰囲気で声をかけた。
そして、何故か右手を挙げた・・・
何故挙げた?
すると、 ゆいさんは”ガバッ” 体を起こし
「なななな、な、な?」
と、意味不明な言葉と同時にベットの端っこまで後ずさりして行ってしまった。
パニックになったゆいさんはそのまま止まらずベットの端まで進んで、ゆっくりとベットから落ちてゆく・・・。
慌てた僕は頭で考えるより早く体が動いていた!
勢いよく彼女に向かって体を起こし、素早く腕を引くとそのまま、引っ張った。
その結果 彼女を胸に抱く格好になってしまっていた。
『ふぅ、間に合った~。』
何故かこの時僕は、落さず抱きあげられた安心感からか、ゆいさんに抱きついたまま呼吸が整うまで動かない。
「・・・・。」
それでも、少し時間が経つと頭もすっきりしてくる。と、
胸に抱いている女の子が顔を真っ赤にして俯いている事に気が付く・・・。
oh・・・・・・・
ワタシハナニヲシテイルノデショウカ!?
ゆいさんに抱きついている事に気が付いた事で、一瞬で体が硬直するのが分かる。
変化に察してくれたのか、ゆいさんのほうから
「あ、ありがとうございます・・。もう、大丈夫ですから・・。」
肩越しに声が掛る。
『・・・。』
僕が固まっていると、ゆいさんが自分で外して離れてくれた。
-バクバクバクバク・・・
自分の心臓の音が耳の中で大きく良く聞こえて来る。
僕は、その後も5ぷんほど固まっていたようだった・・・。
・・・・・・・
ゆいさんを部屋に案内してから逃げるように一目散に一階に戻ってきた。
台所へ駆け込むと冷蔵庫から飲み物をだして”ガブガブ”一気飲みしてしまう。
『ぷはぁ~。』
そう言えば、自分の部屋に戻ってから無補給だったから。生き返るわぁ~。
「ずいぶん、時間掛ったのね。」、『ブッ!!』
「キタナッ!?」
不意に声を掛けられた。危うく吐き出しそうになる。
『ふぐぅ。ゲホゲホ。かあさん、ビックリするから背後から。い、いきなり話しかけないでよ。』
「なによぅ。心配してたのよ。ゆいちゃんが襲われてないか、ね?」
実の息子に何てこと言うんだ・・・・。
『ボトルシップの片付けが思いのほか掛っただけだよ。』
「ふーん。ゆいちゃん可愛いものね。」
不機嫌そうに答えたが、かあさんはどこ吹く風と言う顔をして僕の顔を見て"ニヤニヤ"と笑う。
かあさんだけは相変わらず何を考えているのか分からない。
そもそも、息子の話をまったく信用していない。
そこへ、丁度・・良いのか悪いのか、ゆいさんも自分の部屋から降りてきた。
「すいません。遅くなりました・・。」
彼女には、予め僕の部屋での経緯は伏せて置くようにお願いした。
だって、あれは事故だから。
特に何も無いから。
かあさんはニヤニヤと笑っているのが非常に気になる。
実に嫌な笑顔だ・・・
「あの。あんなに立派なお部屋をお借りしてよろしいのでしょうか?」
「いいの、いいの。元々書斎になる予定だったんだけどね。ねぇ、おとうさん。」
「あぁ。今は空いてるしなぁ~。」
「そうそう。結局書斎にするには部屋が遠すぎて、本人が全く使ってないのよねぇ。」
「ゴホン、ゴホン。」
かあさんのツッコミにとうさんがバツが悪そうに咳き込む。
確かに「男には隠し部屋が必要なんだ」と、ドヤ顔で僕たちに力説していた事があった。
かあさんは、きっと誰かをいじってないと死んじゃう動物なんだろうな。
「さぁ、おなかが空いただろう。少し食べようか・・・・。」
とうさんは相当バツが悪くなったのだろう。
急にくつろぐソファーから立ち上がると苦し紛れなセリフを口にした。
とうさんガンバレ・・・。
ゆいさんも(苦)笑っていた。
その後も許されなかったとうさんは、食事中もずっとかあさんに弄られていた。
そんな、楽しい食事も終わり皆でリビングにて休憩していると
-ピンポーン、ピンポ、ピーンーポーン・・・
ドアホンが鳴る。
-ピンポン、ピンポン、ピン、ピン、ピン、ピン、ピン、ピン、ピピピピピピピピピピピピピピポーン
ピンポンの連打は近所迷惑になるからやめて・・・。
まぁ、100%あいつが来たなって分かるのは良いだけどね。
実際、とうさん、かあさんはモチロン。あらかじめ予測を話していたお蔭かゆいさんまで”来たな”って顔をしている。
玄関付近まで行くと "ガチャ!ガチャ!" と、玄関ドアを動かす音がする。
しかも、<優斗あけて~> <もぅ、夜なんだから静かにして> ドアの外で騒いでいる……のは、やはり優華たちだったようだ...。
奈菜だと思われる相手ともめているようだった。恐らくいつも通り叱られているのだろう。
ドアを開ける。
「優斗遅い!!私が来たんだから、1秒で開けてよね!!」
頬を膨らませた優華が玄関に入っていく。
ほらやっぱりこいつだ・・・。
奈菜は、僕の近くで立ち止まると
「例の人来てる?」
と言ってまじめな顔をしながら振り返ってきた。
『う、うん。』
頷くと
「もう!!少しはおとなしくしてよね。」
そんな事良いながら、奈菜も優華の後を追うように玄関から部屋に入っていく。
そんな2人にあっけに取られていると・・・
「優斗君。こんばんは。」
「よっ、優斗。久しぶり。」
暗闇の中から声を掛けられる。
『おじさん、おばさん、いらっしゃい。』
「優君いつも大変ね。」
『ははは…。』
長谷川のおばさんから労われてしまった。
って、あの二人って、おじさんたちの娘ですよね・・・?
おじさん、おばさんをリビングに案内すると、ゆいさん、奈菜の声が聞こえてきた。
おぉ、さすがは同姓。すでに仲がよくなってる・・・。
飲み物を取ってくると近くのテーブルに腰を掛ける。
近くの卓では、とうさんたちは四人で卓を囲んで"カンパイ"が始まった。
優華は?あれ、僕の部屋で漫画でも読んでるのかな?・・・、まぁいいか。
「・・・・ゆいさん。今からでも遅くないから、家に来ない?」
「い、いえ。急にお邪魔する場所を変えるのも失礼ですし。」
・・・・?何の話だ?
「ぜんぜん、気にしなくて良いよ。それより、優斗に変な事言われたり、されたりしてない?」
おいおい。随分と言ってくれるな・・・。
「い、いえ。特にそのようなことは・・・。な、ないです。」
ゆいさんがチラっとこちらを見た。
さ、さっきの思い出したのかな?
僕は勝手に気まずい感じになる。
「あっれ~、何?ゆいちゃんの反応おかしく無ーい?優斗・・・。ま、まさかもうすでに手を出したの!!!???」
『いやいやいやいや、お、おかしいだろ。なぜ、襲い掛かるという発想しか生まれないんだ。』
僕は、いわれのない脅しに懸命に抗っている。
しかし、片手に握りこぶしを作り、ワナワナ震えている奈菜は、トーンの低い声でこちらに近づいてくる。
「ホ・ン・ト・ウ・ウ・ゥ!!」
もはや、般若か?なまはげ か?という、形相の奈菜にこのまま食われるのでは、恐怖で硬直していると・・・・
「優斗さんは、・・・・・・です。」
「え?」、『ん?』
「だ、だから、優斗さんは、優しくしてくれたです!」
・・・・
『「「「「「は?」」」」」』
部屋の全員がゆいさんの発言に釘づけになっている。
そう、ゆいさんが発したトンデモ発言に・・・。
【++++++++とうさん視点++++++++++】
リビングにこだまする。
笑い声と子供たちの元気(?)な声がする。
今日から一人、同居人が増えた。
神前の御当主の健在だった頃からのお願いで、
「わしに何かあったときは、大事な孫を頼む・・・。」
そう仰せつかっていた。
生前から、返しきれない恩でいっぱいだった。
お体が優れない事も重々承知だったものの。任務を最優先していたため涙を飲んで耐え忍んだ。
そして、今回の話だ・・・私は、最後のお姿も拝見する事が出来ない最低の男だ。
今日、この場に集まった面々も神崎家に縁ある者たちだったので、
お伺い出来ない私の代わりに御当主の最後を看取ってくれた。
そして、そんな私のためにわざわざ集まってくれた。
そんな事を考えれば考えるほど、段々と目頭が熱くなる。
最高のかあさんと親友夫婦に・・・。
今日はとことん飲もうと決めた・・・・・・・
その、矢先。
「優斗さんは、優しくしてくれたです!」
子供たちのほうから ずいぶんおっきな声でそれは聞こえてきた。
え?
卓の四人が神速で声のするほうへ向き直ると今日お預かりしたばかりの神前家の女の子が真っ赤な顔をして声を上げたところだった。
その隣で長谷川家の娘と家の息子が 【( ゜Д゜)】こんな感じの顔をして女の子を見ていた。
そう、この部屋の時が完全に止まった瞬間だった。
その後、5秒くらいだろうか?否!10分だったかもしれない。
「はぅ。」
女の子が事態に気がついてしゃがみこんだのを機に時が動き出す。
っと、すでに長谷川が息子の肩を叩いている。
涙目で
「よくやった。よくやった。」
一所懸命肩を叩いていた。
息子は、事態が飲み込めないような顔をしていたが、長谷川の娘はどんどん灰色になっていくような感じだった。
かあさんが
「あの子、なかなかやるわね~」
ニヤニヤしながら長谷川の奥さんと笑っている。
む、息子よ!悩みがあるなら何故とうさんに相談しない・・・。
お、お許しください。御当主、託された約束は1日足らず守れませんでした・・・・。
目から魂が流れ出ていた。
明日から(息子と)顔を合わせずらいな はぁ~
【*************ゆい視点*****************】
奈菜さんは、誤解している!!
優斗さんに詰め寄ろうとしている奈菜さんからはどす黒いオーラが滲み出してきていて、
般若の顔をした人が奈菜さんの後ろから優斗さん目掛けて何かをしようとしている。
真実を伝えなければ、と思っても何かフォローできる言葉があっただろうか?
そう言えば、先ほど転寝をしてしまったにも関わらずな理に起こそうとしなかったではないか。
そうだ、その事を伝えれば、機嫌も直るかもしれない。
大きく息を吸い込んで、気合は入ったので発声すると出だしの声が思ったより大きかったのと緊張していたのが相まってか
「優斗さんは、(寝ている私をな理に起こさない)優し(く接してくれた)かった(←かんだ)(ん)です。」
ずいぶん端折って声が出てしまった、は、はずかしい。
あれ?奈菜さん確かに止まってくれましたけど【( ゜Д゜)】こんな顔をしてます。
優斗さんも心なしか同じ顔をしていますけど、何かおかしな事を言ったのでしょうか?
自分の発したセリフを思い出してみます。
確か・・・。
(「優斗さんは、(寝ている私をな理に起こさない)優しく(接)してくれた(ん)です。」)
でした。
・・・・・。あれ?
(「優斗さんは、優しくしてくれたです。」)
・・・・。!?!?!?!!?!!?!?!?!!?!??
ど、どどどっどどっどうしましょう・・・・。
このセリフだと優斗さんとあ、ああ、あああ、ああ、あの、あの、あの
※思考停止
「ふぇぇ。」
顔が熱いです。
えーん、この場からいなくなりたいです。
優斗さんと奈菜さんに迷惑を掛けてしまいました。
怒られるかな?っと上目づかいで情報収集・・・。
奈菜さんは、灰色になりながら固まっていました。
優斗さんはと言うと長谷川様にからかわれていました。
(ご、ごめんなさい。優斗さん…。)
"ポン"頭の上に何か感触があり、もう一度覗き込むと
優斗さんの手が頭に乗せられていたした。
『あのね。そんな短期間でそんな事になる訳ないでしょうが、常識的に・・・』
「お!優斗~ 大人の対応じゃ~ん。」
『うるせい。酔っ払い(笑)』
事態の収拾に当たってくれていました。
『大丈夫?ごめんね。話題に飢えてる人たちだから・・・。』
苦笑いでしたけど、"ポッ"な、何でしょう体が熱くなりました。
顔を見ることが出来ないので、とりあえず頷いておきました。
「優斗。だめじゃーん。」
『おじさん・・・。それより、この石どうすんの?』
奈菜さんについて何か言っている様ですが、優斗さんがあまりに優しくて心と体が熱くなってきました。
顔を見る事も出来ないし、しばらくすれば直るでしょうが、それまで大人しくすることにします。
お読みいただきましてありがとうございます。
宜しければ、マイリス登録をお願いいたします。