第四話 エルヴァ=マートアルト
中肉中背。顔も中の中。食堂に行けば給仕のお姉さん方から、
「あ、今の人よくない?」
「ええ、そうかな。まあ悪くはないけど」
「でもあの服は政務官よ。あの若さで政務官よ。エリートよ」
「ならアリで」
……こういった反応をされるのが、エルヴァ=マートアルトです。
一見どこにでもいるような風体ですが、実は結構な苦労人。
飲んだくれの父と病弱な母を持ち、幼少期は家財を全て酒に換えようとする父から母の薬代を守るのに明け暮れていました。
不摂生が祟ってか、やがて父は急死してくれましたが、家計が苦しいのは相変わらずです。一家の生活費を稼ぐため、エルヴァ青年は王宮に仕官し――それはもうがむしゃらに働きました。
その働きが認められ、異例の若さで政務官に取り立てられたのが最近の話。一般の役人とは違い、政務官は大臣候補でもある将来有望なポストです。長がった冬は終わり、ついに彼にも春が訪れようとしていました。
そんな折、思いもよらない仕事が舞い込んできました。何と宰相閣下からのお呼び出しで、しかも内容は王様が直々に企画なされたプロジェクトだと言うではないですか。
成功させれば更なる出世は間違いなし。エリート街道まっしぐら。期待に胸を膨らませながら、踊るような足取りで、エルヴァは宰相閣下のお呼び出しに応じました。