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aaaaa  作者: 空伏空人
prologue 歪んだラブコメの時間。
8/12

舞姫ちゃんは、間違える。

今回は小坂井視点の一人称!

 突然ですが、せつなはいじめられています。イジメられっ子です。


 もちろん、過去形じゃなくて、現在進行形で、です。


 事の発端はありません。ただ単に普通に、一人ぼっちでいた所を目をつけられただけ。

 学校という、一つの組織では一人でいることが悪とされるみたい。せつなみたいに、コミュニケーションが苦手な人もいるのに。

 でも確かに学校が、社会に出る前に、コミュニケーション能力を手に入れて、人間関係構築の練習の場だと考えれば、確かにせつなの存在は異端かもしれません。

 でも、たかが高校です。

 ここでの交友関係がいつまでも続くわけはありませんし、クラスが分かれただけで人はその人と話さなくなるものです。

 私たちいつまでも友達だからね、略してずっ友が完遂されたことなどないです。

 他人に合わせて無理してまで、友達なんていらない。自分を押し殺してまで、つくりたいものではないのです。

 一人でも良いじゃないですか。一匹狼、カッコいいじゃないですか。


 ……一匹狼って本当はそんなにカッコいい訳じゃないんですね。テレビで事実を聞いて虚しくなった。


 ともあれ……このともあれの使い方はあってるのでしょうか?


 閑話休題。


 せつなをいじめてる、いじめっ子は感染者の街である《箱庭》の中では珍しい一般人です。

 親は十人議会という、外でいう国会のようなもののメンバーで、外の世界でかなりの権力を持つ人で、親バカで娘を甘やかしているみたいです。


 この十人議会。十人と住人をかけているんじゃないかと思っているんですが真意はどうなのでしょう。

 まあ、今はそんなことどうでもいいです。


 だから、せつなが衆目のもとで堂々といじめられていても、誰一人、手を差し伸べてくれません。最初のほうは正義感の強い人が助けようとはしてくれました。せつなを助けようとしたのではなく、いじめはダメだと一般論を振りかざして。今となってはうれしい言葉ですけど。

 そういえば、その人は今どこにいるんだろう? 最近全く見てない。


 あ、また話がそれてしまった。いけないいけない。話を戻しましょう。

 つまり、まあ。せつなは三嶋次葉と、その仲間達にいじめられています。


 ***


 転機は最近起こりました。

 今日もまたいつも通り髪を引っ張られたり、トイレの床を舐める羽目になったり、荷物をぐっちゃぐちゃに引き裂かれたり、燃やされたり色々ありましたけど、これを話すと色々ナイーブな事になりそうなので、割愛します。


 そんな日の、今日はなんだか大人しげだなと、麻痺した脳でそんなことを考えていた昼休憩。

 人気の少ない廊下に髪の毛を引っ張られながら連れ込まれたせつなは、三嶋とその仲間たちに囲まれています。

 頭皮が引っ張られたせいで痛い、今度切ろうかなと思っているともう一人の仲間がバケツを持ってやってきました。

 三嶋はそれを受け取ると予備動作も説明もなく、バケツの中身をせつなにかけてきます。

 中身は汚水だったようで生臭い臭いが鼻孔を侵してきます。口の中に入ってきたのを吐き出しながら、せつなはまたこうなるのか。と達観していました。

 そりゃ最初は泣きわめきましたし、先生にも相談しましたし、逃げようと躍起になりました。

 しかし先生は注意をするだけで、解決しようとは微塵も思ってませんでしたし、逃げようとしたり泣きわめいたりするのを、彼女たちは楽しんでいるのです。

 だったら、この状況を受け入れるしかないじゃないですか。

 泣きわめかず、逃げず、受け入れて終わるのを待つ。飽きられるのを待つしかありません。


 最低な選択肢だということは分かっています。それでも、これが一番、楽なのです。対抗するのもバカげてますし、死ぬのもアホらしい。


「…………」

 涙が溢れそうになりますが、唇を噛んでぐっと我慢します。


 そんな時。

 彼は突然現れました。

「……あんたなに、なんか用?」


「いや別に。食堂に向かおうとしたら、お前等がワイワイやってんの見つけちゃってさー」

 そんな話が頭上で繰り広げられていることに気づいたのは、涙をぐっと呑み込んだときでした。

 なにごとかと、頭を上げます。

 三嶋が向いている方向を見ると、男の子が立っていました。

 身長は高い方で、身体は痩せこけていて、不自然に手足の長い針金細工のような男子です。

 色素の抜けた薄い黒髪の上にはアホ毛が立っている。肌は白いというか青白く、不健康そのもの。黒く濁った目の下にははっきりとクマが見えます。頭の上にあるアホ毛が空気を読まずにピコピコ動き回っていました。


 あ、雨夜くんだ。

 そこまで見てようやく気づきました。隣の席の雨夜あまや維月いつきくん。

 入学当初はせつなと同じで笑うことも話すこともなかった彼ですが、今はちゃんと笑うしちゃんと泣くしちゃんと怒るしちゃんと呆れるしちゃんと楽しんでいます。

 しかしその実、それ全てが嘘のように見える。過剰過ぎて、キャラを演じすぎて、本気に見えない。

 どこか演出過多のきらいがあって、生きていることがわざとらしい。

 死んではいないだけの人。

 そんな不安定感がある人です。


「なに、イジメはダメだよー。とか良い子ぶっちゃうつもり? 私達は遊んでいるだけなんだけど?」

 腰に手を当てて、嫌みったらしい笑みを浮かべながら三嶋はそう言います。彼は彼でゲスな笑みを浮かべながら。


「そんな事言わねーよ」

 と言って。


「お前等が暴行罪や傷害罪や侮辱罪や器物破損罪で、十五年ぐらい牢屋に入ったって、僕には関係ないし、そいつがイジメが苦で自殺したって僕には関係ない。本人の自由だ」


 好きなだけすればいいじゃん。飽きるまで。と彼は冷たく言い放ちます。

 そうですよね。いきなり現れて助けてくれる、まるで王子様のような人なんていませんよね。

 そう思ったときでした。

 だが。と雨夜くんが付け加えたのは。

「僕の目の前でんなことしてんじゃねえよ。気分が悪くなるだろーが」


「は──」

 はぁ? とでも言いたかったのでしょうか。しかし、その前に彼女は地面に頭を打ちつけていました。

 いつの間にか。瞬き一つした合間に。

 そして次の瞬間には、彼女たちはゴミを呑まされて、咀嚼する羽目になってギャーギャー言っても聞く耳持たず、ただひたすらに、やり返されて最後は泣きながら逃げていきました。


 その間、せつなはただただそれを呆然と口をポカーンと開けて見ていました。せつなを取り巻く問題が、一瞬にして片づいてしまった。


「大丈夫か?」

 そんなせつなに彼は照れたようにはにかみながら手を差し伸べてくれました。

 そうです。その時、せつなは恋に落ちたのでした。


 ***


 それが恋ではなく、依存だということ。恋に恋してるだけだということに気づいたのはそのすぐ後でした。

 しかしそんな事は些細なことです。恋愛なんてものは結局互いに依存しあってうまれる感情なのですから。

 結局どうであれ、彼に恋していることになんら変わりありません。


 しかし、最近少し困ったことが。

 いつも通り維月の部屋から一緒に学校に向かって、通学中は維月の半歩後ろを歩きながら楽しく話をしていました。でも。

「お、委員長。オハヨー」

「おはよう。どうしたの、最近元気じゃないか」

「そりゃまー、多分食生活が改善されたからじゃないか?」

「ふふーん?」

「……なんでニヤニヤ笑ってんだよ」

「フフフ、なんでもないよ」

「……ぁ……」

 委員長さんと出会してから、せつなは一気に蚊帳の外に追い出されてしまいました。

 さっきまで維月の隣は、せつなの場所だったのに、せつなの物だったのに、そこを追い払われて後ろから追いかける羽目に。


 なぜでしょう。どうしてでしょう。

 せつなと彼女の違いなんて、出会った時期だけなのに。

 立った一ヶ月違うだけで、こうも、扱いが違うのでしょうか。

 いやいや、本当。

 どうしてなのでしょう──どうして?


 ***


「……そういえば」

「……?」

 いつも通り、せつながつくった夕ご飯を、維月と囲っている時でした。

 維月は箸を咥えたまま天井を仰いで、せつなは首を傾げます。

「最近委員長が学校に来ていないんだよな。どしたんだろ」

 そう言って、おかずを口の中に放り込む。

 せつなは少しだけ眉をひそめました。女の子と会食してる時に他の女の話をするのは無粋だと思いますけど。デリカシーないといいますか。

「なに、二人でいるときに他の女の話をするのは無粋だって? 他の女って……他に言い方はねーのか」

「……」

「ないのな」

 ありませんね。

 維月ははあ、と息を吐きます。

「委員長のことだから、サボリってのはないんだろうけど、こうも無断欠席が続くと気になるな」

 まだ二日だけどさ。となんとなく、話のネタ程度に維月は話す。


 目を反らして、誰にも聞こえないような小さな声で。

「……許せない」


「ん? なんか言ったか?」

「…………」

 せつなはにこりと笑って首を横に振りました。


「……維月」

「ん?」

「……ひ、ひとつ……聞いていい?」

 維月はきょとん、とした顔でせつなの質問に耳を傾ける。


「今幸せ?」


 維月の目を見据えながら聞きます。濁っていて、腐っている目を見ながら。

 維月はゴクリと息を呑む。なぜここで、こんなタイミングで、そんな質問をされたのかは皆目見当がついてないようですが、答えが分かったようでにこり、と笑って。

「幸せだな。去年までに比べると、見違えるほどに」

 と、言いました。


 嘘でしょうね。


 彼には幸せを分かる機能はないのですから。けれど、幸せだと言うことは、分からないなりに、今年が幸せだという事を理解しようとしている。という事でしょうか。

「…………」

 せつなは、維月からは見えない机の下で拳を握った。

 去年までと比べると。つまり今年は、四月からずっと幸せだと。

 せつなと出会う前。汐崎さんと出逢ってからずっと幸せって事ですか。

 今思えば、この嫉妬も訳の分からないものです。

 とにかくせつなは、彼女に嫉妬して、身狂いしていました。

 もし、もしこの時。思いなおすことが出来ていれば、話は、変わっていたかもしれません。

「……維月」

「ん?」

「汐崎さん、心配だね……」

「そだな……今度見舞いにでも行くか」

 せつなは、選択肢を間違えてしまったのです。



「せつなから奪おうとする人は全員消しちゃおうって」

「そうすれば、維月はずっと、せつなのもの」

 次回、舞姫ちゃんは、仲違える。

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