最弱くんと、舞姫ちゃん。
「大丈夫か?」
「……!」
僕がそう訪ねると、彼女は顔を赤くしながら、コクリと頷いた。
それは、昼休憩のことだった。
四月末に行われた中学範囲の総合復習テストの結果が芳しくなく、先生に早速進路の心配をされてしまった帰り、妙に人通りの少ない廊下を歩いていると、クラスメートの小坂井せつなに出会した。
クラスメートの名前なんて、正直半分も覚えていない僕だけれども、隣の席の彼女の名前ぐらいは覚えていた。
彼女はなんというか、有り体に言うとちょっと暗い人で、人とあまりコミュニケーションというものを取らず、案の定いじめっ子に目を付けられてイジメられているイジメられっ子で、今日もまたイジメられていた。
制服はゴミだらけになっていて、汚水をかけられたせいで、制服は肌に張り付き、下着が透けて見えている。
何年も切っていないらしい、長い黒髪は湿っていて、顔を隠す前髪の間から垣間見える顔は、心底疲れ切っていた。
その顔に、なんだか共感してしまった僕は、なんとなく三人のいじめっ子を追い払って、腰を抜かしているらしい彼女に手を差し伸べた。
差し伸べられた手に、おっかなびっくりながらも、それを掴んで立ち上がった彼女は髪の合間から見ても分かるぐらい、リンゴみたいに顔を真っ赤にして、何度もペコペコと頭を下げながら立ち去っていった。
それを僕はちょっとご機嫌に見送って、食堂にジュースを買いに向かった。
これは僕と彼女のお話。
まだ英雄にもなってない英雄候補生の僕と、恋に恋する、愛に依存する彼女の。
弱者とお姫さまの。
ひねくれた、ラブコメのようなお話。
まずは、序章。まだ英雄失格が英雄にもなっていない頃のお話です。