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aaaaa  作者: 空伏空人
回想
1/12

誰かは、思い出す。

 赤信号だ。

 横断歩道の前で、どしゃ降りの雨の中、周りに合わせるように、僕は足を止めた。

 視線を遮るようにどっさり降り注ぐ雨が、肩と髪をぐっしょりとぬらす。

 車道を大量の車が行き交っている。周りを見ると、誰一人信号無視する人はいない。


『赤は止まれ』

 そんな、常識的ルールを守らなかったら、どうなるかぐらい、誰だって知っている。

 中学生だって知ってる。無視するけど。

 小学生だって知っている。律儀に守るし。

 幼稚園児は知らない。親に止められて学ぶ。

 だったら。

 だったら、止めるべき親がいない幼稚園児は?


 向かい側に、幼稚園児二人組が止まったのが見えた。

 仲良く、赤色と青色の色違いのカッパを着た仲良しキッズ。

 赤色の方は元気で、一度動き出すと周りのことが全く見えないタイプ。青色は逆に、引っ込み思案でいつも赤色の後ろに引っ付いて移動している。

 今日も、赤色に手を繋いでもらっていた。その光景があまりにもカワイらしくて、僕は頬をゆるめた。

 ちびっ子達と僕は血縁関係にはないんだけれども、いわゆる孤児院のような場所で一緒に暮らしている。

 片方、赤色のカッパの方の右腕には、おおよそ幼稚園児には不釣り合いな大きな傘が引っかかっていた。

 どうやら傘を忘れた僕に傘を届けに来てくれたらしい。新しく買ったカッパと長靴を使いたがってたから、丁度良かったのかもしれない。

 これなら、駅で雨宿りしとけばよかった。無駄に濡れてしまったな。

 僕は二人に向けて、軽く手を振ると、青色が気づいたみたいで、おずおずと僕を指さした。

 赤色も僕に気づいて、元気一杯に傘を持った手を振った。

 傘も一緒に振ってしまって、周りの人にぶつかりそうだった。思わず、手のひらで顔を覆ってしまった。

 なんか恥ずかしかったのだ。


 手のひらを離すと、ちびっ子達か横断歩道を渡っていた。


 信号はもちろん、赤のままだ。

 赤色が僕めがけて走り出して、それに引っ張られる形で青色も飛び出していた。

 そして、狙い澄ましたようにトラックが迫ってきていた。

 トラックが迫る。子供を肉塊にする為に……。いやそれはトラックの運転手に失礼か。

 運転手だって、轢きたくて迫ってるわけじゃないし、どちらかというと被害者だ。

 赤信号は止まれ、という常識というか、ルールを守らなかったあいつらが悪いんだし。

 今日の雨はヒドかった。トラックの運転手が目の前にいる子供二人に気づけないぐらい、ヒドかった。


 気づいたときにはすでに、走り出していた。

 雨の中、濡れているアスファルトの地面を砕くぐらい強く蹴って、飛びだしていた。

 トラックに気づいて、呆然としていた幼稚園児二人を脇に抱え込む。傘が落ちたが、そんな物どうでもいい。

 トラックが迫る。ようやく気づいたらしく、クラクションが鳴り響き、ブレーキ音がかき鳴らされる。

 しかし、間に合わない。雨のせいで滑って上手くブレーキが利いてない。勢いが全く死なないままに、僕らに迫る。

 僕は咄嗟に、トラックに背を向け、二人を抱きしめた。

 力いっぱい抱きしめて、片手を後ろに伸ばす。

 華奢というか、針金細工のような腕を伸ばし、片足をしっかりと、固定した。


 それとほぼ同じタイミングで、トラックとぶつかった。肉と金属が、ぶつかり合う。


 結果でいうと、僕の身体は吹き飛ばなかった。

 靴底はブレーキの役割を果たしてくれているし、腕はしっかりと二人を抱き締めている。

 ブレーキ代わりの靴底からゴムを焼いたような臭いがする。衝突で、細腕の骨は砕けた。

 しかしそれがなんだ。それでもまだ、トラックは僕らに襲いかかってくる。

 僕の力はトラックを止めることができるほど、強くない。まだ、強くない。

 もっと力を上げろ! 圧倒しろ!


 僕は声を荒げた。

 言葉になっていない声。言語と認知されなさそうな叫び。

 腕に、脚に、全身に、力を込める。血管が浮き出るほどに、目が充血するぐらいに。

 二人を抱き絞めている腕にも、力がこもる。

 まるで正面衝突したかのように、トラックの前面は大きくひしゃげはじめた。

 更に強く、強く、力を込める。もはや、トラックを押しのける勢いで、血管が破裂して千切れるぐらい強く、強く、二人を守るために強く、強く、力を込めたら──。


 死体が二つ来上がった。


 降りしきる雨の中、二つの紅いカッパを見下ろしながら、立ち尽くしていた。

 後ろで爆発が起きたが、正直どうでもいい。それで更に何人死のうが、どうでもよかった。

 むしろ、飛び出すのを止めてくれなかった奴らが吹き飛んだと思うと、喜ばしい限りだ。

 笑えない冗談だった。

 笑うべきなのだろうか。しかし、顔は歪んだ状態から戻ろうとしないし、涙は止まることを知らなかった。


 その涙は、能力を使ったせいで、真っ紅だった。

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