レヴィル-THE LEGENDS OF DEVIL-
※本作には暴力・過激な発言のシーン、ならびに多少の欝展開がございます、苦手な方は閲覧の際にはご注意くださいませ
我々人間が住まう『人間界』とは異なる世界…『堕獄界』。
此処は人間が古代より、文献や書物で語り継いできた『地獄』『冥府』『黄泉』…等、様々な呼ばれ方をしている世界であり、人間の欲望に付け込んで利用したり、破壊や殺戮…ありとあらゆる悪行を至上の悦びとする『悪魔』が住まう場所。
本来は次元の狭間にあるため、人間界とは無縁の世界だったが…20XX年、人間界は人々が知らない間に…徐々に、ゆっくりと…
堕獄界に『浸蝕』され、一つの世界になりつつあり、気づけば最早ほとんど手遅れな状態であった…。
元人間界…というべき今の人間界、空は太陽も星も月も一切浮かばずに黒雲だけが全てを多い隠してるため昼と夜の区別もつかない。
ビルなどの建造物には生々しい緑色やドス紫色の脳髄や臓物の様な肉塊が張り付いて常に赤い粘液や黒いガスを吹き出していたり、コンクリートの道路には血管に似たものが根を張る様に広がっていたりと…地獄かなにか、否、『堕獄界』とほぼ同じ景色と化しており、地上には白骨死体が転がるばかりで生きた人間の姿はほとんど見られない…そんな時であった。
『お待ちなさ〜い♪小猫ちゃ〜ん♪』
「はあ…はあ…た…助け…!!」
『あーららっ?もう鬼ごっこはおしまいなのかしらぁ?キャハハハハハッ!!』
「あ…ああ…そんな!?」
額に長い螺旋状の一本の角を生やした一角獣に似たフォルムをした幽霊の様な半透明の身体、戦乙女を彷彿とさせる軽装の鎧に身を包み、青白い霊気で出来た悪魔独自の禍々しい翼を背中から生やした女悪魔…ユーフォリア=ヴァルキュイエムは悪意の篭った高笑いを上げてゆっくりと歩き、彼女から逃げ回っている黒みがかった青い髪の小柄な少女・冴木仄を行き止まりにまで追い詰める。
「やだ…やだァアアアアアアアアアア!!私、まだ死にたくない!!死にたくない!死にたくないよォオオ!!」
仄はその場で崩れ落ち、手に持っていた薬品や食料品をボトボトと地面に落としながら死にたくない一心で泣き叫ぶ…どうやら彼女は他に隠れている人達のために危険を侵してまで悪魔がウロウロしている地区から生活必需品を取りに来てた最中らしいが運が悪いことにユーフォリアに見つかってしまい、現在に至る。
『大丈夫、大丈夫…せめて苦しまない様にしてあ・げ・る♪セヤァアアアアーッ!!』
「はっ…ぐ…う…!?かはっ…!!」
だがユーフォリアには仄の気持ちなど知ったことではない、霊気を纏った悪魔の使う独自の武器『魔霊武』を手から出し、ユーフォリア専用の槍型魔霊武『ゲイルスケグル』で仄の首を思い切り刺し貫いて壁にそのまま張り付け、一撃で彼女を絶命させた。
『キャハハハハ♪ちょうど人間の身体が欲しかったところだったのよねー♪さてと…ん…んんッ…!!』
ユーフォリアはケラケラ笑いながら、ゲイルスケグルで壁に張り付けられたままの仄の物言わぬ死体に近寄ると同時に何を思ったか?ユーフォリアは自分の胸を手で刺し貫き、人間でいう心臓にあたる臓器『魔臓核』を刔り出す。
『「寄生呪肉」、開始。』
魔臓核を仄の胸にくっつけると、みるみる内に魔臓核は仄の体内に入る。同時にユーフォリアはゲイルスケグルを引き抜き、自分の全身を霧状にして仄の首に開けた風穴の中にすっぽり入っていく…。
「…どうやら成功したみたいね♪」
数分後、死んだハズの仄は先程まで無惨な惨殺死体だったのが嘘の様にムクリと起き上がり、邪悪な笑みを浮かべる…実は生きていたとか、謎のウイルスに感染してゾンビなどになった訳でもない、間違いなく冴木仄という人間はこの世から消え、代わりにここにいるのはユーフォリア=ヴァルキュイエムという一人の悪魔だ。
いくら堕獄界が人間界と一体化したとはいえ浸蝕はまだ完全なものではなく、悪魔達は人間界にいる限りは霊力も最低限しか使えない上に半透明の不安定な状態でしか活動出来ない、そのため人間界で活動するためには『寄生呪肉』という人間の身体に悪魔が入り込み、乗っ取るための秘術を行使する必要があった(尚、寄生呪肉をする際には乗っ取る人間の生死は問わない)。
これをする事ではじめて半透明な上に、ほとんど霊力を使うのもままならない不完全な状態から完全な身体と完全な力を手にした状態で人間界に顕現し、寄生した人間の姿を使って正体を隠して周囲を欺くことも出来るのだ。
「さて…これでこの世界で動きやすくなったわね。早く『あの御方』と合流しないと…。」
仄はこの後、本土(堕獄界)から人間界へ来ている他の悪魔と合流する予定らしい、静かに目を閉じて気持ちを落ち着かせるとその悪魔の霊力を読み取ろうと試みた。
(…おかしいわね?妙に霊力の波動が小さい…???)
しかし、仄が探している悪魔の霊力があまりにも微弱過ぎたのだ…悪魔は霊力を頼りに他の悪魔を探せるがあまりにも探す悪魔の霊力が弱過ぎると探すのが極めて困難になる。
「いや、有り得ないわよ…あの御方はいずれこの世界を手中にする人、霊力が弱まるなんてこと…これじゃあ一体何処にいるのやら…んん?」
仄がそんな事をブツブツ言いながら、堕獄界に半ば浸蝕されて異形の世界と化した人間界の路地を歩き、気づけばテントやダンボールなどが並ぶ簡易的な居住地域に足を踏み入れていた。
「ペッ…!まるでそびえ立つ糞の山ね、人間なんてまーだ居たの?」
仄は気に食わない様子でその辺に唾を吐き捨てた。完全に浸蝕が進めばいずれ悪魔に喰われるか瘴気の毒にやられるかで絶滅する存在なのか、仄をはじめ悪魔達は完全に人間を見下している。
「んん?この反応…間違いない!近くにいらっしゃるのね!?」
探していた悪魔の反応があった途端に仄は人間に対する不快感丸出しな表情から一変、パアッと明るい笑顔になり、居住地域に駆け込むと…。
「ガァアアア゛アアアアアアアアア゛アアアア゛アアアァア゛アアア゛アアアアアアッ!!!!!!」
居住地域にある中央の広場にて、一人の青年が頭を押さえ、うずくまりながら、まるで虎の如き荒々しい咆哮を上げて激しく苦しんでいる…しかもよくよく見れば青年の背中や腕が黒い異形のモノへと変異している。
「ああ…ああ、やっと見つけました…!貴方様もようやく人間を手に入れて無事に御降臨なされたのですね!?」
探し求めてた悪魔はどうやら仄と同じく人間に寄生呪肉して顕現していたがまだ完全に一体化していなかったらしく、それが原因で霊力を頼りながらの捜索を難航させていたようだがいずれにせよ、無事に待望の再会を果たした仄は興奮気味に喜びながらフラフラと歩き、青年に近寄ろうとした時だった…。
「猟斗さん!落ち着いて!ダメ、そんなに暴れないで!!」
「グァアアア…ガァアア゛アアアア!!グガァアッ!!ア゛ア゛アアアアアアアアアア!!!!!!」
「やめて…!お願い…気を確かに…!!」
もがき苦しみながら異形に変貌しつつある背中に十字架のマークがある黒皮のライダーズジャケットを纏い、後頭部を軽く結んだ灰色の髪の青年…群雲猟斗の気を鎮めようと、栗色の髪をした長身の大人びた雰囲気のある少女・鷹島夕緋が彼の身体を押さえるも乱暴に振り払われてしまう。
「…は?」
仄は猟斗の隣に居る夕緋の存在を見た瞬間、さっきまでの笑顔は即座に消え去り、周囲の物全てが凍りつきかねない様な静かなる冷たい怒りが沸き上がる…。
「仄ちゃん…!?よかった。無事だったんだね…それより大変なの!猟斗さんが…!!」
彼女の心境を知らずにタイミング悪く夕緋は仄に気づいてしまい、思わず近寄った…悪魔によって次々と人類が蹂躙された人間界においてまだ人間だった頃の仄は夕緋と猟斗達と暮らしていたが深刻な生活必需品不足のため、危険を省みずに居住地域を飛び出してまで必要な物を探しに行ったたがそれが仇となり、ユーフォリアに殺された挙げ句に身体まで乗っ取られ現在に至る。
「…誰、アンタ?何…してんのよ?」
「…え?仄ちゃん?何を言ってるの…?私だよ、夕緋お姉ちゃんだよ…?」
「…何その御方に…馴れ馴れしく勝手に触っていやがんのよォオオオオオオ!!?この…卑しいメス豚がァアアアアアアアアアア!!」
「…きゃあっ!?」
当然ながら冴木仄という肉の着ぐるみを利用してるだけに過ぎない悪魔に夕緋に関する記憶など皆無だった…そんなこと露知らずに自分の事を知らないなどと口走ったことに戸惑う夕緋を仄は嫉妬に怒り狂う般若の様な形相で思い切り蹴り飛ばし、壁に叩き付けた。
『この売女ァ…!!よくも私の愛してやまないあの御方を誘惑してどうしようとしてたの…ええっ!コラ!?』
「う…あ…ほ…仄ちゃんが…悪、魔…なん…で…!?」
仄が青白い霊気を身に纏い、全身にヒビ割れたガラスの様な亀裂が入ると、それらが全て音を立てて砕け散り、額に浮かび上がるユニコーンの紋章を輝かせながら本来のユーフォリアの姿に戻ったため、夕緋は驚愕したと同時に全身が恐怖に震える…無理もあるまい、今まで共に生きてきた幼い少女が悪魔の姿に突然変わったのだから。
『質問を質問で返すナァッ!!アタシを舐めてんのか!?このクソビッ○がァッ!アタシはアンタがあの御方に色目使って…股開いてギシギシアンアンしてたのかって聞いてんだよ…このド低脳がァッ!!』
「がはっ!?ち、違っ…!私…は…猟、斗さん…が…くっ…苦し…だか、ら…。」
『はァッ!?フカシこいてるとそのブスな面ァ…もっとドブスに整形してやるわよッ!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』
「ぐがっ!?あぐぅっ…か、はっ…!!」
どうやら夕緋が悪魔に変わりつつある猟斗…正確には彼を乗っ取ろうとしている悪魔に近寄り良からぬ事をしようとしてたように見えたらしく、怒りで血が上ってるあまり、ユーフォリアは支離滅裂かつ有りもしない被害妄想も甚だしい目茶苦茶な言い掛かりをつけながら殺意全開で夕緋の首を絞め上げ、必死に否定する彼女に聞く耳持たずユーフォリアは夕緋の顔面を力一杯拳で殴りまくる。
「やめ…て…仄…ちゃん…。」
『ホノカ…?ああ〜…アタシが殺したチビガキの事ね〜?』
「…え?」
『あのチビガキ…ちょーっと袋小路に追い詰めただけでボロクソに泣いて命乞いしてたわよ〜?ククッ…キャーハッハッハッハ♪ダメだわ、殺した後のあの死に顔、何度思い出してもウケるわー!!ギャハハハハハハハ♪』
「そ…ん、な…。」
ユーフォリアは自分が殺し、身体を乗っ取った仄に対して侮蔑の言葉を吐きながら悪魔らしい邪悪そのものないい笑顔と下品な嗤い声をゲラゲラ上げて悦に浸った。対照的に夕緋は何故幼い仄が目の前で馬鹿笑いしているこんなド外道なんかに殺されなければならなかったのか、何故無理矢理にでも仄を止めなかったのか…自分の無力さに打ちひしがれ、涙がボロボロ溢れ出した時だった。
『ハァ…ハァアアアアア…ガァアアアア!!…ハァ…ハッ…ハッ…ヴオ゛ォオ゛オオオ゛オオォオ゛オオオオオァア゛アアアア゛アアアアアァア゛アアア゛アアアアアア!!!!!』
「り…猟斗さん…嫌…嫌ァアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアア!!!!!」
こうして、またもう一人…夕緋の大切な人が人間じゃないナニカになってしまった…猟斗が天を仰ぎながら狂った様に叫び散らした瞬間、彼の胸元に悪魔の翼で象った黒い十字架の紋章が輝いたと同時に全身に亀裂が入り、砕け散る…群雲猟斗という一人の人間が死に、一人の悪魔が顕現した瞬間であった。
『フッ…フゥッ…フシュゥウウウウウウッ…!!ヴォオオオオ゛オオァア゛アアアアアアア゛アアァア゛アアアア!!』
十字架の意匠が全身を包み込む漆黒の悪魔の仮面や鎧、腕や足に至るまで見られ、仮面のバイザー部分からは素顔と思わしき金色の眼が不気味な輝きを放ち、手足の指は異様に長い鈎爪状、背中には鮮血の如き赤い霊気で出来た翼…悪魔の証たる霊翼が雄々しく広がっていた。
「猟、斗…さん…。」
『ああ…やっと…やっとお会い出来ましたね…生涯ただ一人、私の全てを捧げし主君・レヴィル様ァアアッ!!』
光が消え去った焦点が合わない虚ろな目で猟斗…否、悪魔・レヴィルを見つめながら意識を失った夕緋を乱暴に投げ捨て、ユーフォリアは先程の怒り狂った様子はどこへやら…感動の対面の喜びの興奮を抑えつつも、騎士が王に忠誠を誓う姿を彷彿させる様にレヴィルの足元に跪いた。
『さあ♪レヴィル様♪御覧の通り人間界は既に堕獄界に変わりつつあり、生き延びてる人間共も残り僅か…ここで一気に殲滅致しましょう!その暁には私と…アハッ♪いやん♪もう〜…って、へ?』
ユーフォリアはまるで虫を殺す無邪気な子供の様にはしゃぎ、良からぬ妄想に浸りながらもこれからの予定…人類抹殺を提案した直後、想定外の事態が物理的に彼女を襲った。
『あべしッ!!』
突然ユーフォリアの顎に重い衝撃が突き刺さり、いつの間にか彼女は自分の霊翼を羽ばたかせている訳でもないのに宙を舞いながら落下、地面とキスするハメになり、周囲を汚い赤で染め上げた。
『な…?な?アレ…私、な、殴…られた…?レヴィル様に?なんで?なんで?なんでぇええええ?』
ようやく自分がレヴィルに殴り飛ばされていた事に気づき、彼の自分に対するあんまりな仕打ちに思わず泣き出した。そう…ユーフォリアは既にレヴィルにある『異変』が起きていた事をまるで想像出来なかったのだ。
『…ハッ…オレ…ハ…一体…今マデ…ナンダ?コノ姿…ッ!!ナンダヨ…ナンナンダヨォオオオオオオ!!』
一方、自分の仲間のハズのユーフォリアに強烈なアッパーを見舞ってしまうという謎の行動を取ったレヴィルはというと、崩壊したビルの窓ガラスに映った自分の姿に愕然とし、悲痛な叫びを上げていた。
『夕緋…?夕緋!!夕緋ィイイイイイイ!!』
「…。」
『ヨカッタ…マダ…生キテル…』
レヴィルは打ち捨てられ肉体的にも精神的にもボロ雑巾と化した夕緋の無惨な姿に気づき、慌てて駆け寄る…幸い彼女は気を失っているだけのため、その点だけは安心出来たが…。
『オマエ…』
『ヒィッ!?』
『オマエ…ユルサナイッ!!オマエ!絶対…殺ス!!殺シテヤルッ!!』
夕緋を傷つけた犯人に対する憎しみ混じりの怒りが膨れ上がり、やがて…。
『ガウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
一気に爆発した。レヴィルは霊翼を広げてユーフォリア目掛けてロケットの様な勢いで真っ直ぐ飛んで行く。
『ま、さか…まさか!?そんな…有り得ない!まさかレヴィル様が…レヴィル様が…!!』
『違ウ!!オレハ…オレハ…!!』
『人間如きに…!!』
『群雲…猟斗ダァアアアアアアアアアア!!』
『逆に乗っ取られるなんてェエエエエエエッ!!』
気づくのが遅過ぎた。ユーフォリアはようやく全てを理解した…今、自分を殺さん勢いで飛び込んで来る目の前のレヴィルは外見こそ本人だがユーフォリアが敬愛してやまない主君などではない、ほとんど本能だけで行動しているがソイツは本来レヴィルが寄生呪肉を施し、人間界に降臨するためだけに媒体にしたハズの…人間・群雲猟斗だった。
「ヌゥオアアアアアアアアアアア!!」
『…ッ!?チィイイイッ
…!!』
『今度は何よ!!』
二人の間を割って入る様に突如、角刈りに逞しく鍛え上げられた肉体美を誇るタンクトップ姿の二メートル近い身長の大男が現れる。レヴィルとユーフォリアは大男の出現を勘で悟り、霊翼を羽ばたかせて宙に舞う。
『んん〜?ユーフォリア様〜レヴィル様〜?な〜んで〜喧嘩〜してるん〜だ〜?』
大男がのらりくらりとしたスローな口調で喋ると同時に彼の左肩でワニの紋章が輝き、全身が砕け散ると、眼が一つしかない顔、ワニを彷彿させる頑強な鱗と筋肉の鎧に覆われた肉体をした巨躯の悪魔…キュクロダイル・ギガロゲイターに変化した。どうやらコイツもレヴィルとユーフォリアの仲間らしいが、二人が争いをしている今の状況を全く把握出来ずにキュクロダイルは思わず首を傾げた。
『キュクロダイル!!いいところに来たわね!!ソイツを…レヴィル様の身体を奪った人間を殺せ!!殺すのよォッ!!』
『んん〜???あれは〜人間〜なのか〜???な〜ら〜アイツ〜殺す〜!ンガァアアアアア!!』
キュクロダイルはまだよく解っていないもののとりあえずユーフォリアの命令に従い、ハンマー型の専用魔霊武『ヘパイストス』を振り回しながらレヴィル(猟斗)に襲い掛かるが…。
『消エロッ!!オマエ…用無イ…!!』
『…?帰って〜いい〜のか〜???』
『よくないッ!馬鹿ッ!』
『い〜!痛〜い〜。』
レヴィルに『消えろ』と言われた途端、キュクロダイルは動きをピタッと止めて頭をポリポリ掻きながらよく解ってない様子で、なんと…本当に帰ろうとしたためユーフォリアはツッコミながら彼の頭を叩いて阻止した。
(…ッたく、これだから『怠惰罪種』の連中は…!!)
悪魔は『七大罪種』と呼ばれる七つの種族に分類される…。
『憤怒罪種』。
『色欲罪種』。
『嫉妬罪種』。
『強欲罪種』。
『暴食罪種』。
『傲慢罪種』。
『怠惰罪種』。
ユーフォリアは他人を激しく妬み、あるいは自分の所有物に手出しする者を許せない者が多い『嫉妬罪種』、キュクロダイルはとにかくやること為すこと全てがけだるく感じ、労働を嫌い、欲望の赴くままに怠けることしか頭に無い『怠惰罪種』に属する…しかし『怠惰罪種』は他の罪種の悪魔達からは単なるおばか集団としか思われてないのはここだけの話である。
『じゃあ〜改めて〜…お前〜…殺〜す〜!!フンガァアアアアア!!』
『…ッ!!』
やはりよく解ってない様子で納得し、気を取り直したキュクロダイルはヘパイストスの重い一撃を叩き込む…レヴィルは反射的に腕を組んでガードしたがあまりのパワーに吹き飛ばされ、背後にあったビルの屋上まで飛んで行った。
(勝てる…いくらレヴィル様の姿をしてようが中身は人間、パワーだけが取り柄のキュクロダイルでも勝てるわ…!!)
ユーフォリアはニヤリと笑った。外見こそはレヴィルでも中身はただの人間に過ぎない猟斗のまま…悪魔の力を使うのはおろか、力の使い方すら解らないド素人も同然…これならば力任せで戦う脳筋でさえ充分勝てるレベルだ。
『ンガァアアアアアァアアアアアアアアアアァーッ!!』
『…グッ…!?』
キュクロダイルは地面を蹴って高らかに跳躍し、途中で霊翼を展開してビルの屋上からフラフラと立ち上がるレヴィルの頭上まで飛翔すると、今度は隕石でも落下してきたかと思うくらいの勢いで急降下、レヴィルは避ける暇も無くキュクロダイルとぶつかり、二人は屋上から二十階・十九階・十八階…最上階からそのまま一番下の一階の床まで貫いた。キュクロダイルの激突で起きてしまったあまりの衝撃に耐え切れず、ビルはそのまま派手に倒壊した…アクション映画などでよくこんなシーンを見かける者もいるだろうがこれは非現実の出来事ではない、堕獄界に浸蝕されていく人間界では紛れも無い現実として成立しているのである。
『ウォッホッホッホッホ〜!!オレ〜レヴィル様に〜勝っちゃった〜!!ウッホッウッホッ〜!!』
『ガガ…ガッ…ハッ…!』
『ん〜?ま〜だ〜生きてるのか〜?んも〜面倒だな〜!トドメ〜刺す〜!ンガァアアアアア!!』
勝利を確信したキュクロダイルは嬉しそうにその場で小踊りしたが、瓦礫の山の下敷きになりながら水道管が詰まった様な汚い水音と一緒に血吐度をゴボゴボ吹き出すレヴィルがまだ存命なのを見た途端、面倒臭そうな様子でヘパイストスを出してレヴィルの頭部目掛けて振り降ろす…。
最早これまでと思われた時だった…。
『…。』
『うぉッ!?眩しッ!!』
レヴィルの全身が赤い光を放ち、あまりの眩しさにキュクロダイルの目が眩む…そして気づけば瓦礫に埋もれていたレヴィルの姿が消えていた。
『あいつ〜どこだ…って…え?』
レヴィルを探そうとしていたキュクロダイルの胸からいつの間にか赤い刃と黒い刃が生え、鮮血がドクドクと流れ出ていた…どうやら何者かに背中から何かで刺し貫かれていたらしい。
『…ハァアアアア…。』
その犯人はレヴィルだった…息を荒げ、背中からは霊翼を生やし、金に輝く眼がギラギラした真紅の眼になっており、手には十字架を象った赤い刀身の十字剣・魔霊武『ブラッディクロス』、黒い刀身の十字剣・魔霊武『クルセイダー』を握り締めてキュクロダイルの身体を突き刺し、乱暴に二つの剣を引き抜いた。
『痛゛ェエエエエエエエー!!痛゛ェエエエエエエエよォオオオオオオ!!』
『…フンッ…!!』
『あれぇッ!?当たんね〜!?当たんね…ぎゃあぁあああああ!!』
いきなり予告無しの逆襲にキュクロダイルは自身の身体に広がっていく激痛で見苦しく喚き散らしてヘパイストスを目茶苦茶に振り回すが、レヴィルはというと冷静に攻撃の一つ一つを回避しながらブラッディクロスの刀身から赤い熱光線を放ち、キュクロダイルの一つしかない目玉を焼き潰してしまった。
『ハハッ…ハハハハハッ…ヒャーッハッハッハッハッハッハー!!ハァアアアアアアアアア…!!』
『ぎひぃっ…痛゛ェッ…ひっ!!ひぃいいいいいい〜!!あ゛ぁああああああ〜!!』
レヴィルはキュクロダイルのもがき苦しむ姿を見た途端、実に愉快そうに高笑いした。悪魔とはいえ相手の目玉を潰すという残虐な行為をしておきながらそれを嘲笑うレヴィルはまさに悪魔そのものの振る舞い、レヴィルの強烈な殺意と狂気を本能的に悟ったキュクロダイルは潰れた目玉を押さえながらビルの壁をブチ破り、無様な敗走を始めた。
『…フフ…もう終わっ…なっ!何!?この霊力の高まりはッ…キュクロダイルッ!?それにあれは…!!』
一方、何も知らずに外で待機していたユーフォリアは急激な霊力の上昇を感じ取り、突然壁から出て来た血まみれのキュクロダイル…そして霊翼と魔霊武、二つの悪魔の証を携えたレヴィルを見て驚いた。
『ブラッディクロスにクルセイダー…あのクソ人間がァッ!よくもレヴィル様の魔霊武を勝手にッ!!』
敬愛する主君の魔霊武を持つ今のレヴィルに激怒したユーフォリアはゲイルスケグルを取り出し、襲い掛かるがそれがいけなかった…。
『ギィイイイイヤッハァアアアアアアアアアーーーーッ!!』
『は…?』
『』
レヴィルはクルセイダーを目にも留まらぬ速さで何度も何度も振り回した瞬間、刀身から無数の黒い斬撃波を飛ばし、それらの内の一つがユーフォリアの顔の左半分を消し飛ばし、キュクロダイルに至っては全身をバラバラに切り刻まれてただの肉塊と化し、赤い湖に沈んだ。
『ギ…ギャガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?ア゛ァアアアアアア゛アアアアッ!!!』
ユーフォリアは消えた顔の左半分を押さえながらこの世のものとは思えない絶叫を上げて両膝を地面につかせ、その場に赤い汁をダラダラ零した。
『この…この野郎ォオオオオオオ!!よくも!よくも私の顔を傷つけてくれたなァアアアアアアアアアアッ!?シャギャアアアアアアア!!』
ユーフォリアは悪魔としての、また、女としての誇りである顔を傷つけられた事に対する屈辱を晴らさんばかりに、抑えようのない怒りと憎悪を爆発させてレヴィルの顔面目掛けてゲイルスケグルを突き刺した…が。
『…な…残…像…!?本物は…!!』
『ハァアアアアア…ウウウウウウ…!!』
『舐めやがって!ふざけんなァアアアアアアアアアア!!』
刺したと思ったものはレヴィルの実体ではなく残像だった。本物はというとユーフォリアのマヌケなミスを空から見下ろしており、その人を小馬鹿にした態度は彼女の神経を逆撫でるには充分過ぎた。
『シャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
『ハンッ…。』
『テメェ!!ふっざけんな!ふっざけんな!ふっざけんなァアアアアアアアアアア!!』
ユーフォリアは空へ舞い、レヴィルを突き刺すがそれもまた残像だった。本物を殺そうと何度も何度も刺したがそれら全部残像であり、ユーフォリアの自慢の槍捌きは全てが無駄に終わった。
『ギィイイイヤァアアアアアアアアア!!』
『がはぁああああああああ!?』
レヴィルは空へ更に高く高く舞い上がり、無数の不規則な残像を残しながら不規則に飛び回ってユーフォリアの腹目掛けてキックを叩き込み、地面へと叩きつけた。
『ゲボッ…ブッ…!!ゴボォッ…!!』
落下して地面を二・三度バウンドした後、動きが止まるとユーフォリアの口から赤い噴水が噴き出し、全身をピクピクと痙攣させ、そのままもう動かなくなった…。
『ギッ…ギギギギ…ギィイイイヤァアアアアアアアアアッハァアアアアアアアアアア!!』
レヴィルは勝利の雄叫びを上げ、その声は黒雲に包まれている汚れた空へといつまでもいつまでもこだました…。
「…ひ…ゆ…!!」
「…んんっ…ん…?」
「夕緋ッ!!」
「…猟斗さん…ハッ!?きゃあああああああ!!」
戦いが終わり、いつの間にか人間の姿に戻っていた猟斗に起こされ、気絶から覚めた夕緋だが、猟斗の顔を見た途端…顔を青褪めさせて悲鳴を上げ、彼に背中を向けてその場から逃げ出した。
「いや!嫌ァアアアアアアアアアア!!来ないでェエエエエエエエ!わぁあああああああ!!」
夕緋の精神状態は既に限界の域に達していた。自分達と共に生き延びてきた仄は死んで悪魔の依代と化し、そしてまだ生きてるとはいえ猟斗までも悪魔と化した…こんな非常に非情な出来事に単なる人間の少女に過ぎない夕緋は耐えられなくなり、現実という名の残酷な真実から逃れようとした。
「ま…待てよ!待てってば!どうして逃げるんだ…ハッ!?待て!違う!違うんだッ!!」
逆に猟斗は何故夕緋が自分から逃げたのか?すぐには理解出来無かったが朧げながらも思い出した…人間界を異界に変えた悪魔、それに不覚にも身体を乗っ取られ、悪魔と化し、本能に突き動かされた様に他の悪魔と戦ったことに、ようやくこの状況に把握した猟斗は必死に弁解しようと夕緋を追いかける。
「夕緋!夕緋ッ!!居た…!?おい、夕緋…オレは…!?」
どのくらい走ったのだろう?ようやく追いついた猟斗だが、彼が見たのは地面に傷跡の様に裂けた巨大な穴の前に力無く立ちながら一人泣いている夕緋だった。
「待て…なあ、待ってくれよ…!!」
「ごめんなさい…猟斗さん…。」
「頼む、話を聞いてくれ…オレは…!!」
「ごめんなさい…私…もう…あなたとは、この世界とは…もう生きていられない…。」
「何言ってんだ…違う、違うんだッ!!オレは人間だッ!悪魔なんかじゃないッ!!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
嫌な予感しかしない…そう悟った猟斗は馬鹿な真似をしない内に夕緋を止めようと説得を試みるが不安定過ぎる精神状態の夕緋にはかえって逆効果だった。猟斗が近寄る度に一歩、また一歩と後退りをはじめ、そしてとうとう…。
「…さようなら…。」
夕緋は自分の背中を預ける様な体勢で穴の中へと飛び込み、ゆっくり…ゆっくりと…深過ぎて底が見えない闇の中へと吸い込まれる様に…消えていった…。
「夕緋ィイイイイイイイイイ!!うわぁあああああああ…ああ、ああああああああああああああ!!」
猟斗は自分の目の前で自ら命を絶った夕緋の最期を目の当たりにし、慟哭した…。
「夕緋…なんで…なんでなんだ…なんで…うう…ううっ…!!」
何故彼女が死ななければならなかったのか?何が彼女をここまで追い詰めてしまったのか?仄を殺して彼女になりすましたユーフォリアか?この世界を変えた他の悪魔か?
「…畜生…畜生ォオオオオオオ…オレのせいだ…オレの…オレの!!うわぁああああああああ!!」
だがしかし…全ての全てが悪魔だけのせいというわけではない、仄を止めずに悪魔にむざむざ殺させてしまったのも罪、悪魔に乗っ取られ悪魔と化したばかりに夕緋を死に追いやってしまった群雲猟斗という人間の存在自体が罪…ならばこれら全ての罪を彼が償うにはどうすればいい?そう…答えは簡単で実にシンプルである。それは…。
『殺してやる!!皆殺しだ!!この世から…一匹残らず!!確実に!!絶対!!必ず…ブッ殺してやるゥウウウウウウウウウウウウウッ!!ガァア゛アアアアアアアア゛アアアアアアアアア゛アッ!!ア゛ァアアアアアアアアアアッ!!』
『殲滅』、ただあるのみ…。
絶望しか存在しないこの世界に誕生した一人の悪魔は翼を広げ、深淵よりも暗き悲しみと焔よりも苛烈な怒りを胸に秘め、復讐と断罪を決意し、果てしない戦いの空へと舞った…。
どうも皆様、またもや連載そっちのけで長い内容と化した短編投稿をして申し訳ありません…
本作は本来、二次創作として生み出した悪魔の力を持つ仮面のヒーローの話でしたが…御存じの様にこのサイトはもう二次創作厳禁なのでその要素を排除した形で復活させました。また、悪魔モチーフなのは某作者様達に強烈に触発されて自分もやりたくなったのが書いたキッカケでした。(←本当にごめんなさい!!)
ユーフォリアを最初に出したせいで(元々メインヒロインにする予定でしたが途中でやめました)他のキャラの掘り下げが不十分だったり、私の小説にしては珍しく独自の固有名詞がバンバン出まくって説明だけで文章埋まったり、どっかで見たような描写が多数…反省点が多い(汗)
・以下、簡単な固有名詞の説明
堕獄界:所謂魔界、悪魔が住んでる、名前の由来はルシファー+フォール(落ちる…転じて『堕ちる』)
悪魔:堕獄界の住人、魔力ではなく何故か霊力が力の源、それぞれが『七大罪種』という七つの種族に分類される
寄生呪肉:悪魔が人間の身体を乗っ取る秘術、名前の由来は寄生+生贄
魔霊武:悪魔の武器、これとならび悪魔の翼・霊翼の二つは悪魔を象徴する証
・続いて、イメージCVという名の妄想
群雲猟斗/レヴィル:イメージCV…谷山紀章
鷹島夕緋:イメージCV…小清水亜美
冴木仄/ユーフォリア・ヴァルキュイエム:イメージCV…後藤沙緒里
キュクロダイル・ギガロゲイター:イメージCV…茶風林
と、後書きまで長くなりましたがこんな感じのひどい内容ですみません…(汗)それでは皆様またどこかでお会いしましょう、槌鋸鮫でした!