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エリザ  作者: KOU
9/9

時計の記録と心臓の記憶

 潮風が強く吹き付けている。

 

 砂浜に佇んでいたマリアは、アインスの姿を見つけると大きく手を振った。

 

「アインス!」

 

「……マリア」

 

 予想していたのとは異なる、満面の笑みを浮かべているマリアの様子に、アインスは戸惑いの表情を僅かに浮かべた。

 

 アインスはマリアの近くまで歩くと、正面に向かい合う。

 

「随分、早く……待ってくれていたんですね」

 

 

「早く、会いたかったの」

 

「……マリア。私は――」

 

 何かを告げようとしたアインスの胸の中に、マリアは飛び込んだ。

 

 アインスは一瞬、悲痛そうに顔を歪め、そして――。

 

 そして、驚愕に目を見張った。

 

 

 

「……マリア……?」

 

 温かい、人のぬくもり。

 

 

 

 

 

 

 それがもう、マリアから感じられない。

 

 ――カチ、コチ。カチ、コチ。

 

 ――カチ、コチ。カチ、コチ。

 

 永遠を告げる音が、重なり合って聴こえてくる。

 

「――馬鹿な!!」

 

 抱きついたマリアを引き剥がすと、アインスは大声で叫んだ。

 

 

「どうして、こんな……っ!!こんな、愚かな事をしたんだ!!マリア!!」

 

 アインスはマリアの細い両肩を掴み、激しくその体を揺さぶった。

 

 

「どうしてだ!!マリア!は……!俺は、君が大事だから!!本当に君を、大切に想っていたんだ!!だから君を巻き込みたくなんか無かったのに!どうして!!!」

 

 

 

「アインス。……アインス。今なら、あなたの気持ちが、分かる気がするの」

 

 心臓を喪って。体温を喪った今だから。

 

「……ずっと、耐えてきたんでしょう?アインス。ずっと自分を、責めて来たんでしょう?」

 

 助けられなかった。最愛の人を。そして、最愛の人を想う心すら、無くした自分が。

 

 幸せになって、いいはずが無い。

 

「ずっとずっと、一人で生きていくって。決めてたのよね?」

 

 ねえ、アインス。

 

「ねえ、アインス。……私、あなたを1人にはしないわ」

 

 アインスの真っ赤な瞳から、涙が溢れる。唇を戦慄かせながら、アインスはマリアを見つめていた。

 

 

 

「……ねえ、アインス。この世界が、いつか時を刻むのを止めるまで、ずっと一緒よ」

 

「マ、リア……」

 

 2人は祈りを捧げる様に抱きしめ合う。

 

 重なりあったお互いの胸の奥から聞こえるのは鼓動では無く。

 

 それは寄り添うように永遠に、同じリズムを刻み続けていた。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 2人が抱きしめ合う光景を、小高い丘の上から一人の男が見守っている。

 

 

 

 

「……俺はずっと、心配していたんだよ、アルノルド。お前が、幸せになる事が、俺の願いだったんだ。……1人で永遠を生きることほど、残酷な事は無いんだから。……幸せに。達者でな……アルノルド。いや、アインス」

 

 アル――かつてはトイフェルという名だったその男は、胸元からブローチを取り出すとエリザの写真に微笑み掛ける。

 

「……ごめんな、エリザ。アルノルドの心臓を喪ってしまった。……君を想う記憶は、俺の胸の中にもう無い。……なあ、エリザ。――このままいつか、俺は君を想う事を止めてしまうのかな……?」

 

 アルは笑みを消す。濃い潮の匂いが、彼の鼻をつく。ぶわりと激しく風が吹いて、アルの頬を撫でていった。

 

「……そんな事、あるわけがない。この気持ちを忘れる事なんて、俺には絶対に出来ない。

 待っていてくれ、エリザ。俺は絶対に体全てを人間のものと交換してみせる。……エリザ。早く人間になって……君の元に逝くから」

 

 エリザ、愛しているよ。

 

 潮風がアルの呟きを乗せて、遥か彼方まで運んでいく。錆びついた街が軋む。

 アルは目を閉じてその音を聴き、再び微笑むと、2人に背を向けて歩き出した。

 

 

 

<了>


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