これはつまり……放置プレイですか?
まだ日が高いにも関わらずに紹介場の通りは狩人で溢れていた。
さすが上級狩人たちが数多く住む地区だけあって紹介場の施設の大きさも半端ではない。
建物の周りには狩人たちが束の間の癒しを得るための娯楽施設が数多く点在していた。
酒場はもちろん娼婦館や武器防具屋、病院からカジノまで揃っている。
その通りに差し掛かる前でハルトはバイクを止めた。後ろには面白くなさそうな顔をしたキャロルが、昨日換金し損ねた首を収めた箱を持ちながら乗っている。
「降りな。俺は少し寄る所がある」
「はいはい。どうせ換金しとけとか言うんでしょ」
「テメェだけじゃまだ換金出来ねぇよ」
「え?何で?首を持って行って照合して、軽い手続きだけで入金完了でしょ?」
「そいつは五千万の首だぞ。補助士だけで換金手続きをするにはライセンスが必要だ」
「ライセンス?」
「それに見合った狩人の専属だっていう許可証だ」
「そっそんなのがあるの?」
「当たり前だろ。テメェがぶっ倒れるぐらいの賞金だぞ。もし間違いがあったら狩人に報復される恐れがあるからな」
そう、キャロルは昨晩、今、手に持つ首が五千万だと聞いた瞬間に昏倒したのだ。
五千万なんて大金生まれてから一度も見た事が無い。
特S級狩人のハルトにとっては大した額ではないらしいが、キャロルにとって八桁の金額は神の成せる奇跡の桁数だった。
「それじゃあんたの専属として登録しとく?」
その言葉にサングラスの下の目がそっぽを向いた。これはバカにしている証拠だ。
そして案の定ハルトからの毒舌が飛ぶ。
「登録には専属狩人の声紋、サイン、その他もろもろが必要なんだよ。ったくマジに頭の軽い女だぜ。脳みそ入ってんのか?」
「なっ!ちょっ・・・」
「いいから!テメェは俺が戻るまで酒場にでも行ってろよ」
キャロルが言い返すより先にハルトはバイクを走らせると遠くに消えていった。
「酒場って・・・私一人置いて・・・」
紹介場の通りに目を移すと、お世辞にも治安がいいとは言えない。
所々厳つい銃機器を手にした狩人がたむろし、傍から見ればヤバい組織の人間たちの巣窟だ。
B級以下の狩人には腕っ節だけが自慢の粗暴な男が大半を占めているが、B上級から上以上の狩人もさほど変わらないように思える。
どうしようかと迷っていても、すでにハルトのバイクは遥か彼方。
初春に近い季節とは言え、まだまだ冬を色濃く残す冷たい風がキャロルの生足と大きく開いた胸元を通り過ぎた。
「ヤバッ凍死しそう」
ぶるぶるっと身体を震わせるとキャロルは覚悟を決めてその通りに小走りで入って行った。
恰好が恰好なだけに周囲の男達のいやらしい視線が自分に向けられているのが分かる。
(ひいっ冗談じゃないわよ!こんな恰好でこんな所一人で出歩くなんて。あのバカ男、もっと露出の少ない服を買ってきなさいっていうのよ)
しかも肩に下げたボックスの中には五千万の首入りだ。
男達の視線を振り払うかのように、紹介場から2ブロック手前の酒場に駆け込むとキャロルはなるべく目立たない席に腰を下した。
「確かに、これじゃレニで来ない方がいいわね」
レニのようなか弱い少女の姿で訪れれば、どこぞの変態にさらわれ兼ねない。
五千万の首を膝に乗せるとキャロルはおどおどしながら周りを見渡した。
酒場のあちこちでガラの悪い狩人たちが自分の武勇伝を自慢している。中には人目をはばからずに酒を飲みながら女と戯れている奴もいた。
(マジ?上級狩人ってもっと知性的なのかと思ってたけど・・・)
口の悪いドS男のハルトはいけ好かない狩人だが、ここの男達に比べるとものすごく知的に思える。
とりあえず俯きながらキャロルは必死で目を付けられないように祈り続ける事にした。