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チェンジ! 少女→青年

「いただきます」

「また作らせちゃってごめんね。今度は私が作るから」

 ホワイトソースのたっぷりかかったパスタをフォークで巻き取りながらレニは微笑みながら頷いた。そして、しばらくキャロルを見つめると、

「あの、キャロルさん。ハルトの専属サポーターになってくれますよね」

 いきなり問われて彼女は顔を上げた。対面するレニが泣きそうな顔で不安そうな視線を向けている。

「ちょっとどうしたの?・・・そんな捨てられた子猫みたいな顔しないでよ」

「でもっ・・・ハルト、口が悪いから・・・キャロルさんにもすごい酷い事ばかり言ったんじゃないかと思って・・・」

(確かに、クソ女とか呼ばれたあげく銃まで突きつけられたわね)

「キャロルさん・・・」

 迷い猫のような瞳に見つめられ、キャロルは慌てて返事を返す。

「ちょっ・・・だからそんな顔しないでよ。大丈夫。大丈夫。『あいつ』には役不足とか言われるかもしれないけれど、私は私なりにレニと一緒に居てあげるから」

 その言葉にレニの顔がパッと明るくなった。

「よかった!レニ・・・昨日キャロルさんに抱き締められた時、すごく嬉しくって。きっとママが居たらこんな感じだろうなって・・・」

「マッ・・・ママは・・・ちょっと大袈裟よ」

 とても嬉しそうに頬を赤らめる少女を見ながら、キャロルは恥ずかし紛れにフォークに巻いたパスタを口に搔き込んだ。

(ママって・・・私だってこんな娘なら・・・)

 思わず頭の中でその光景を作り出してみる。

 もし、自分が母親になってこんな素直ないい娘と……………

「だっ、ダメよ!ママはダメ!お姉さんにして!」

 幻想の世界から現実に戻って来たキャロルは思わず立ち上がり、激しく否定した。

 想像の中に母親である自分とレニのような可愛い娘、そこに邪魔な人物がいきなり登場して来たからだ。

 キャロルがレニの母親代わりというと、必然的にあの『男』がパパという事になってしまう。いくらレニと同一人物とは言え、あの『男』とは無理だ。絶対に無理だ。

 キョトンとしているレニに気付くとキャロルは軽く咳払いをしてから再び席についた。

「ほら、私ってまだ二十一なのよね。レニは・・・」

「十四歳になったばかりです」

「でしょ?ほらっ七歳しか離れてないからママっていうよりお姉ちゃんじゃない?ねっ?」

 引きつった笑顔を浮かべるキャロルをじっと見つめるとレニは「え~と」と顎に指を当てた。

「でも、レニはママの方が・・・」

「レニちゃん?」

 レニの肩を掴み、キャロルが引きつった笑顔を浮かべたまま顔を寄せた。そのあまりの威圧に少女はゴクリと唾を飲み込み、しぶしぶと頷く。

「は・・・はい。分かりました」

 少ししぼむ少女の姿に罪悪感を覚えながもらキャロルは安堵の溜息をついた。

「・・・そういえば、あなたの中に居る『ハルト』も十四歳なの?」

「えっ・・・いえ、ハルトは・・・ん~と・・・」

 しばらく考えるとレニは首を振って否定した。

「聞いた事がないから分かりません。ハルトに聞いた方が早いかも・・・」

「あっ!オッケーよ!分かったから、ハルトは出さないでいいからね」

 あの『男』を呼び出しそうな勢いだったレニを急いで制止するとキャロルは空になった食器を片付け始めた。

(出来れば狩りの時意外はレニのままで居て欲しいし・・・)

「・・・・・・・・二十七」

 背後から聞こえた声に思わずキャロルの手から皿が滑る落ちる。

 厭な沈黙が数秒続いた後キャロルは恐る恐る後ろを振り向いた。

「二十七・・・ぐらいだ」

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!出さなくていいって言ったでしょ!レニィ!レニちゃんカムバァ~ック!」

「っんだと!テメェが聞いといて何だその口の聞き方はよ!」

 すっかりと様変わりしたレニがテーブルを蹴り付けた。

「うるさい!あんたにゃ聞いてないわ!こんな真っ昼間から何やってんのよ!引っ込め!引っ込んで可愛いレニちゃんを出しなさい!レニを出せえぇぇぇぇぇぇ!」

 睨みあう事数分、ふいにハルトは踵を返し、後ろを振り向いた。

「レニはしばらくおねんねだ」

「なっ!何でよ!今は魔族の行動時間じゃないわよ!」

「俺の補助士になるって決めたんだろうが!俺は特Sだぞ!特Sの専属になるなら登録してもらわねぇと面倒なんだよ!」

「と・・・登録?」

 するとハルトはおもむろに服を脱ぐと、厚い布を上半身に巻き始めた。

「何やってるの?」

「身体はレニだからな」

 布を何重にも巻き、再び服を着ると、もともと気休め程度しかなかった胸は男の胸板の様になり、そして、その上から更に肩のある白い皮製のロングコートを着用すると・・・

「俺はあくまで男なんだよ」

 ハルトになってガラリと変わった顔立ちと、補正した身体の線が、完璧に男として変貌していた。

「テメェはレニのお気に入りみてぇだからな。俺の補助士として雇ってやる」

 サングラスをはめるハルトを見ながらキャロルは歎きに似た悲鳴を上げた。

「うわああぁぁぁぁぁ!!!私のレニが!私の可愛いレニが!いけ好かないバカ男になっちゃったあぁぁぁぁぁ!!!!」

「てめぇマジで殺すぞ」

 ふつふつと込み上げる怒りを必死で押し留める『彼』の顔には引きつった不気味な笑みが浮かんでいた。


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