おバカなりに出来る事
怒声の余韻を残し、静寂が訪れる中、キャロルは脱力したまま立ち尽くしていた。
頭の中は真っ白だ。ただ、そんな過去を持つのに、昼に見たレニの笑顔はとても穏やかで幼子のように純粋で………
「…でも…」
震える足を一歩踏み出し、キャロルは『彼』に近寄る。
「魔族をあんなに残酷にいたぶる事は・・・『守る』事じゃ…ないでしょ?」
間近に迫った銃への恐怖はもうどこにもなかった。
「本当にレニを大切に思っているのならあの娘の声も聴いてあげないと…レニはあなたの事を…」
揺らぐ事無く向けられていた銃口が震えだし、不意に下を向く。
「レ…ニ?」
胸の鼓動が大きく高鳴った。
銃口を下した相手の顔はまだ『彼』のままだ。だがしかし、その両の瞳から涙が溢れていた。
「な…んだコレ…レニ、お前何泣いて…」
頬を伝う雫に気付いたハルトが急いで涙を拭うが、その『彼』の声は困惑に満ちていた。
「………い………さい………」
耳に聞こえた声が変化していた。
「ごめんなさい」
怯える子猫のように身体を震わせ、子供のようにがむしゃらに涙を拭う姿は先ほどまでの粗暴な『男』ではなくなっていた。
「レニがハルトに頼ってばかりだから…」
その声に答えるように再び『彼』が出現する。
「は?何言ってんだよ。泣く必要も謝る必要もねぇだろ。俺はお前のためなら…」
目の前には一人の少女の姿。しかし、彼女ともう一人の『彼』が言葉を交わす姿はあたかもそこにもう一人のハルトという人物が居るように思える。
その二人の姿がとても痛々しくて…次の瞬間、キャロルは溜まらずレニの身体をきつく抱きしめていた。
「なっ…」
「もう、あなただけで抱え込まなくていいのよ」
自分より二十センチ以上背の低いレニの頭を抱え込みながらキャロルは耳元で優しく囁いた。
強張った体から力が抜け、銃が地面に落ちる。
「ひっく…キャロルさぁ…ん」
声をしゃくり上げながら愛らしい声が必死ですがっていた。
「そのためにサポーターが、私が居るんだから」
キャロルの背に手を回しながらレニは「はい」と答え、その温かな胸に顔を埋めた。