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作者: 銹屋

 私は俗に言う「感傷的」な人物なようである。朝起きてから夜眠るまでいつも目を光らせて美しい物や興趣のある物をさがして生きているのである。これはいわゆる一つの見栄っ張りといいうかなんというか、自分の生きている世界をどうにかして美しく見せたいようなのである。これはどこの世界にもいるもので、例えば只の雷を「空に罅が入った」だの、昔では「神の雄叫び」だの、「天地を揺るがす」だのなんとやら・・・

 しかしそんなかっこつけ共の中にはしっかりと茶目っ気という物を持っている人もいて、自分の家が燃えてしまった時は「掃除の心配がなくなった」なんて言っていた人を見た時は一瞬はあまりにも不謹慎とか馬鹿とか愚か者とかといった罵詈雑言の言葉がいくらでも浮かんできたというのに次の瞬間には「可笑しい」という感情がそんな罵詈雑言全てを押しつぶしていってしまい、つい吹き出してしまったものであった。

 なんでもこういった感傷生物達には色々な種類があり、思いついては直ぐ誰かに自慢しようとする者や、芥川氏の言葉を借りれば「サンチマンタリズム」といった感情に身を委ねて偉人になる者、そこら辺にあるなんでもない景色を写真という四角い額に収めて賞賛や自画自賛をして生きていく者、あるいは同じ四角い額でもカンバスや紙に絵を描き賞賛されるのを待つ者から偉人になってから自分のサンチマンタリズムを名言、迷言として残していくという亜種もいるらしいが、中でも一番厄介で何も生み出さない感傷ニイトは私のような考えても特に何をするわけでもなく、ただただぼんやりと沈んでいる者であろう。

 それに私は考えていることに統制が無い。前はイメエジをとにかく長い文章で表現したり読む者の足をどれだけ長く止めていられるかなんといった面倒で厄介な糞馬鹿野郎であったが、最近は難しい漢字に興味を持ってしまったのである。例えば「棺」と「柩」などである。どちらも「ひつぎ」であり、意味にも違いは無いが、何となく「柩」だと高貴で邪悪で、そして珍妙奇妙な者な感じがしてくるのであった。


 昨日の事である。あれは確か午後九時二十分あたりであっただろうか。机で本(この本がどういった物であるかはこの噺には関係ないことだが、太宰治の「ヴィヨンの妻」である。ところで、また最近の癖で「話」と書く所を「噺」と難しい漢字を使ってしまったものだと苦笑してしまった。)を読んでいたらどこからともなくウーウー、カンカンという聞きなれない不可解な音が聞こえてきて、突然ボカァンと大きな爆発音が聞こえた。これはどうしたことだろうかと急いで外に出てみると、なるほど、民家が煙を上げて燃えているではないか。私の家はさほど近くもなく炎は一Cmくらいにしか見えなかったのだが野次馬の車が家のすぐ前まで来ていて、大騒ぎになっていた。私の家族は近所の人と話していたのでそこに参加させて頂いた所、一人の老人が何やら関心したように頷いてはまた見入っていた。私にはその姿が絵仏師良秀のように見えたものであった。

 私は火事を見て真っ先に「「炎」というより「焔」だな、これは。」と考えた。その火は今まで見た中で何よりも大きく恐ろしく、そして美しく見えたのだった。不謹慎極まりない言動かもしれないがとにかくそう思って仕方がなかった。

 そう思うと突然現代の絵仏師良秀は笑って、こう言ったのだった。

「ああ、懐かしい。」

これはどうしたことだ、何があったのだとまさしく絵仏師良秀を心配する野次馬を無意識に演じているとまた言った。

「空襲のようだ」と。

その時私は余りの衝撃と感動に言葉が出なかった。完全に私の負けであった。この世に存在する年の功という物はこんな時にパッと出てくるのだなあと関心し、このような老人をますます敬うようになったものである。

私は「日常」という漫画が好きですが、作者の人間性も好きです。何やらシュールで惹きつけられるものですね。

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