序章 地下の魔都、三つ組の一欠け
四話目にしてやっと予約投稿を会得しました。
改めて、マヌサ小母さんに押しつけられた紙を開いて詳細を見ると、そこにはこんなことが記されていた。
“此の度、三棟ある工房の内、一棟に空きが出来た為、通例の期間とは異なるが宮廷絵師の招集を決定した。
ついては、希望者は期日までにこの紙を持参の上、王城に来られたし。
簡単な一次審査をした後、数日の間を置き合格の通達が届いた者のみ、王城で一カ月の滞在を許可すると同時に最終試験に臨む機会を与える。
尚、一次審査通過者には銅貨二十枚の報奨金を与える。
募集期日:四つ月の七日。陽失せる刻限まで。
ユーディット・ルドルーク・バウティアヌス・フェルテンブルム国王勅上“
「って七日!? ……明日までじゃない。…早く寝て、早起きしなきゃ。流石にこのままの格好はなんだから、水浴びくらいしとかなくちゃ、やっぱ駄目よねぇ……?」
砂鼠の自身を見下ろしてユゥハは溜息を吐く。水は地下街では貴重だ。ユゥハのような極貧画家にとってはこの上なく。それでいて、とてつもなく値が張る。飲料水から始まり洗濯や身体を洗うのも勿論、画家にとっては絵具を溶くのにも使う。因みにユゥハ的優先利用順位は第一に絵具用、第二に飲料用、次に洗濯用、最後に身体を洗う用だ。
理由は、画家は清潔な水命! 次に生命維持を優先。服も身体もどうせ汚れっぱなしで洗ってもきりがないので後回し……という次第だ。年頃の少女としては大分間違っているが、画家とはそういうものである。……多かれ少なかれ。多分、いやきっとそうだと信じたい。
ユゥハはベッドに敷かれたぺらっぺらに薄い毛布を掻き寄せる。案内の紙はテーブルの上に置き、小刀で止め置いておく。長屋は隙間風が酷い。万一吹き飛んでいったら元も子もない。毛布に包まった姿でずるずると端を引き摺りながら戸口まで行って内鍵を掛ける。
ユゥハはベッドに転がると毛布の端を握り締め、膝を曲げて横になる。敷布は無い。身動ぎするたび、裂けた木の音が暗がりのなか響く。静けさに息を詰めて目を瞑ると眠気が湧いてくる。
(……ん、これ……眠気、か?)
ぐうぅぅぅぅっ……。
「お腹空いたなぁ……」
切ない音を出す自身の腹に、ユゥハは、せめて今日の客が金貨じゃなく銅貨で支払ってくれていたならこの空しい空腹を満たしてやれたのにと、思考がいく。そんな実の無いことに耽りつつ睡魔を呼び寄せた瞼は、ゆっくりと伏せられていく。