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彩配の繰り手  作者: 義已暁
~少女は春に別れを知る~
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序章 地下の魔都、始まりの一石

2話です。ボリュームが足らないかも?

済みません……不慣れなもので。

 地下街の小路(こみち)蜘蛛(くも)の巣のよう。張り巡らされた糸の全貌(ぜんぼう)は誰も知らない。


 僅かばかりの灯が揺らめき、羽虫が群がる。混ぜ物の酒の臭いと、(にご)った空気が其処ら中に振り撒かれ、あばら屋が今にも軋みそうに歪みながら積み重なって出来た街。家々の境を見分けるのは例え七歳から暮らすユゥハにも至難の業だ。


 今はもう長衣(ちょうい)は脱ぎ去って、身体にぴったりと張り付く黒の短衣(たんい)(さび)色の短いズボンという出で立ちだ。腰には縁に刺繍の入った巻きスカートが足首まで落ちている。それはユゥハが歩く度ふわりと風を含んで揺れ、埃から足元を守ってくれていた。

 薄手の布靴で路傍(ろぼう)に転がる酔っぱらいを端へと蹴り除けながらユゥハは家路を急ぐ。鞄の中にはスケッチブックと鉛筆、それに木綿(もめん)手巾(ハンカチ)にしっかりと包まれたバウール金貨が一枚。本物であれ、偽物であれ、大層な物を抱え込んだ自覚はあるので自然と早足になってしまう。


(まったくもう。こんなもの貰ったって換金出来るわけないし、其処らに捨てたりも出来ないって。本当お貴族様の考える事は、貧乏人には理解出来ないわ)


「厄介な事に巻き込まれなきゃいいけど……」

 無意識に鞄の紐を握り締めて苦い顔になっていたユゥハは見慣れた長屋の前でハッと正気に戻る。

「いけない。あんまり挙動が変だと皆に不振がられるか」

 そろりと長屋の戸に手を掛けると、聞き慣れた人の声が頭から降ってくる。ユゥハは直ぐ脇の戸から顔を出している女性の形相に、ぎくりと顔を凍らせる。

「ユゥハ、遅かったじゃないか。さぞかし今日は繁盛したんだろうねぇ?」

「……そんなことも、ないよ? マヌサ小母(おば)さん。」

 にやりと笑いながらも冷気のこもった声音で詰め寄られ、思わず一歩後退。

「んじゃぁ、何時になったら家賃は払って貰えるんだろうねぇ? そりゃこの長屋はあんただけじゃなく貧乏でろくでなしな絵描きが指で数えるほど住んじゃいるが、それでも叩けば銅貨一枚位は出てくるだろうさ」

「ごめんなさいっ! 今日は稼ぎが無くて……。お金が入ったら直ぐに払うから!」

 両手を重ねて上目遣いでマヌサを窺い見ると、やれやれと首を振って盛大な溜息を吐かれてしまった。

「まあ、あんたの事情も察するよ。その年齢で一人前の画家として食ってけるなんて土台無理な話だからねぇ」

 そう言うとぽんぽんと頭を撫でられる。何だかんだ言ってもマヌサ小母さんはユゥハに甘い。十二年も前から住んでいるせいでもう、家族同然だからだろう。

 ふと、頭の上で弾んでいる物に気が付くとユゥハは首を傾げた。

「小母さん、その紙束なに?」

 ああこれ? と紙束の内の一枚の紙を広げて見せた小母さんはにやりと不敵に笑った。

「こりゃ、宮廷絵師(きゅうていえし)募集の案内さ。選抜試験に合格した奴が王城に召し抱えられる一世一代の機会とあれば、ユゥハも出ない理由はないよねぇ?」

 ひくっと引き攣ったユゥハの唇からは呻き声しか出ない。

「わたしみたいな、無名画家が選ばれるわけないよ。高望みし過ぎだって」

「なぁに、別に本当に選ばれなくてもいいさ。一次試験に合格した者には銅貨二十枚の報奨金(ほうしょうきん)が与えられるんだと。ユゥハ、駄目元で一次位受けてみなよ」

「でも……」

「でもってなんだい! あんたは私の為に家賃を払ってくれる気は無いんだね……」

 ジト目で睨まれユゥハは頭を抱え込んで唸る。

「わ~かったっ! 分かったって! やります。やらせて貰いますともっ!」

 やけくそになって叫んだユゥハにマヌサ小母さんはにんまりと笑った後、ぽんっと紙束と一緒に分厚い封筒を投げて寄越した。

「そっちは、ヴァンからの手紙だよ。フン、あの筆不精め、ひと月も連絡を寄越さないでちゃんと生きてるのかねぇ?」

 ユゥハは顔を輝かせて手紙を受け取ると、慌てて自分の部屋に滑り込む。

「小母さんありがと、おやすみっ!」



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