あんたたちになんか言わないよ
それはたしか部活の合宿で、男女関係なしに大広間で雑魚寝だった。
敷き詰められるだけ布団を敷き詰めて、一人一枚掛布団が与えられた。
あいつの隣に横になったのは、たまたまとわざととの間くらい。
あいつとあいつの親友が、あたしの喋ってたグループの隣に座って喋りはじめたのは偶然。
トイレに行くついでに、あいつの真後ろにいた友達に話しかけて、そのまま座ったのは、あたしの意思。
みんな中々寝れなくて、それぞれのグループがそれぞれの話で盛り上がってた。
深夜になってようやく『寝ろ!!』っていう顧問の怒声と一日の練習の疲れによって、大広間は寝息といびきと虫の声だけになった。
あたしは眠れなくて、ちっとも眠れなくて。
外が明るくなってきて、鳥のさえずりまで聞こえ出して、なんとなく起き上がった。
隣で奴が難しい顔して寝てる。
やつの決してカッコいいとも可愛いとも言えない寝顔を見ながらふと気づく。
手が。
手があたしの方に投げ出してあった。
無意識と意識の間くらい。
奴の投げ出された左手に、気づいたらあたしの右手が伸びていた。
でもあたしは周囲を確認するのもちゃっかりしっかり忘れてなくて。
そっと、握った。
心臓がアホみたいに鳴って、
なんかぶあーって何かが体中を駆け巡って、
すぐ離した。
何やってんだ、あたし。落ち着け、あたし。
おそらくも何も顔は真っ赤で、ぜったい耳まで赤くて。
あーもう!
起き上がってた上半身を倒して、掛布団を頭までかぶる。
でも握った手がやたら熱くて、手だけ布団の外に投げ出した。
掛布団のひんやりしたのが顔にあたって、自分の顔がどんだけ熱いのかがよく分かる。
しんとした大広間。鳥のさえずりだけがかすかに聞こえるだけのその場所で、心臓の音がやたらうるさい。
あーもうって思ってたら、もっとありえないことが起こった。
手が。
手が何かに包まれた。
いや、そんな周りくどい言い方はいらない。
隣のやつがあたしの手をにぎった。
奴は左利きで、だから、マメが奴だけ左手にばっかいっぱいできてて、ご飯食べるときによく肘が当たって。
そんなどうでもいいことが頭に流れながら、本日に二度目のなにかがぶあっと全身に駆け巡る。
あたしは暑くて掛布団から顔を出した。
朝日が大広間に入ってきていた。
あーまだそんな時間なんだ。
そんな今全く関係ないことを必死に考えながら、でも目が勝手にやつを見た。
やつはあたしを見ていた。
あたしたちは手を握ってずーっとお互いを見ていた。
あーこいつはこんな顔してたのか。
好きだと何度も心が叫んだそいつの顔を、あたしは今日初めてまともに見た気がした。
やつがどんな顔であたしを見てたのかは、あんたたちになんか言わないよ。
気づいたらあたしは寝てて。
起きたらみんな朝ごはん食べていた。
あたしが一番寝坊した。
一番早く起きてたのはあいつだったらしい。