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生活とひとコマ

作者: 花浜匙
掲載日:2026/11/05

新しい歯磨き粉買いました!

歯磨き粉を買った。

前のが切れそうだったから買ってきた。

いつもよりもちょっと奮発して良いのを買った。850円から1,100円になった。高い物は良い気がするって理由で買い物で悩む時はちょっとでも値が張る物を選びたくなる。後悔するのは怖いから。


だから懐は何時も寂しい。でも買い物は好き。財布が軽くなる変わりに胸は期待で膨らむから。今回は新しい歯磨き粉を買った。なんとなく新しい物に挑戦してみたくなった。

歯磨きは毎日二回。決めている訳じゃないけど、いつも朝は寝ているから昼と夜の二回だけ。仕事に行く前と帰宅してお風呂に入っている時の二回だけは必ずしている。でも人と会う前には必ずお風呂に入り、歯磨きをする様になった。他人にどう見られているかなんて分からないから。自分を納得させる為の儀式、横文字で言う所のマナーが飲み会に誘われる様になってから身についた。少し大人に近付いたのかもしれない。

縮こまった自信と同居する様な晴れ間の無い性分を

誤魔化す様に、自分磨きの一環と称して一昨年位から電動歯ブラシを使う様になった。何か良い感じがする。慣れるまでは大変だった事が、今は懐かしい。

電動歯ブラシはちょっと賑やか。ヴィーーーーってずっと鳴ってる。働き者だなと感心する。たまに歯ブラシに怒られる。ピピッって鳴って怒られる。優しく歯ブラシを使っているつもりでもピピッて鳴って怒られる。ヴィーーーピピッ、ヴィーーーピピッ、ヴィーーーーって感じで三回に二回は怒られる。最近分かったのは、歯の横を磨く時に歯ブラシが

頬の内側と歯に挟まれて鳴いていたみたい。ゴメンね……気をつけます。ヴィーーーーーーピピッ。

歯を磨くのって難しい……。

電動歯ブラシの機能に身を委ねるだけで良いかもしれないけど、頑張り過ぎてしまうんだと思う。そんだけ意識するなら歯医者に行けとも思うんだけど、虫歯でも無いのに歯医者に行くのってハードルが高い。医者が居る所ってのはハードルが高い。身近でありがたいけどさ。何も無いに越したことはないけど、行って何も無いのも独りで大騒ぎしたみたいな小っ恥ずかしさを感じるから、病院に行く足は日に日に遠のく。老いたら歩いて病院に行く事さえも苦労するのにね。小学生の頃の歯科検診の有り難さを大人になった今、噛み締めている。

***

歯磨き粉が無くならない……

新しい歯磨き粉を使いたくてウズウズしている自分がいる。でも今ある

歯磨き粉をしっかりと使い切りたい自分もいる。だからちょっと理由を付けて歯磨きをする。「あ、何か口の中が気になる気がするぞ」「ムムム……寝起きでちょっと口が臭うかもしれない!」ってな具合に最近、歯磨きをする頻度が増えている。二回が三回に、三回が四回に。人に合わなくても歯磨きをする様になった。でも歯磨き粉が全く減らない……出なくなったらまた後ろからチューブを丸めて前に残った粉を押し出して、最後の最後まで使い切ろうとする。しょぼくれて小さくしわくちゃになったその体の何処に隠れていたのか、永遠に歯磨き粉が出て来る。そうなってくると新品の歯磨き粉はまだ買わなくても良かったんじゃないかって気がしてくる。消耗品なんだから、買って損することなんて無いのにね。

仕事前の歯磨きは何時も矛盾を伴っている。ギリギリまで家に居たい自分と焦らなきゃ遅刻する狭間の時、歯磨きだけは時間の概念から切り離されている。「マナーって大事だからねって」大義名分の元、ぼーっと歯磨きをする虚無時間。新品の歯磨き粉の存在は古い洗面所において一層と輝きを放ち、清潔感に溢れていて、ハリツヤがあってでっぷりと太ましく「さぁ早く僕をつかってよ!」と堂々とした佇まいでいる。新品の歯磨き粉とは今良い感じなので「待ってね、もうちょっとで使い切るから……!」って思いながら鈍く光る何時もの見慣れた歯磨き粉を絞り出す。コイツは物を言わない。目で訴えかけてくる事もない。ちじこまったパッケージには哀愁すら漂っているのに洗面所に居座るその姿には、無い意志さえ空の重量を伴って静かに手に伝わってくる。長年連れ添ってきただけあり、洗面所を譲る気はないらしい。


こんな風に最近、洗面所は賑やかで、仕事前に元気が貰える。古い洗面所には不釣り合いな新顔の歯磨き粉とまだくたばる気がしないお古の歯磨き粉、デンッて腰を下ろした一際デカい無口なマウスウォッシュとちゃんと片付けるのが面倒で水場に放置されがちな電動歯ブラシには電源を入れるまでは何時も冷や冷やさせられる。そんな風に皆に支えられて仕事に行く準備をする。今日もありがとう、行ってきます。

新しい歯磨き粉!何か良い感じがします!!!

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