メイド、頭を抱える
意気揚々と「稼ぎ」の現場に乗り込んだ私だったけれど、数分後には早くも頭を抱えていた。
視線の先に転がっているのは、私の魔法の直撃を受けて物言わぬ肉塊と化した、無惨なゴブリンたちの残骸。
(あぁ……これ、素手で触らなきゃいけないの……?)
粘つく緑色の体液と、鼻を突く獣臭。元・現代人の私にとって、部位を切り取って持ち帰るという作業は、精神的なハードルがエベレストよりも高かった。生理的な拒絶感に身震いしたその時、ふと脳裏をよぎる知識があった。
(確か、アニメや漫画で定番の……『アイテムボックス』。あれがあれば、この苦行から逃げられるんじゃ……)
藁をも掴む思いで、私は虚空に向けてその名を紡いだ。
「空間属性、アイテムボックス」
言葉が空気に溶けた瞬間、目の前に淡く発光する、白くて無機質な四角い箱が出現した。
(これに、証明になる部位を入れればいいのかな?)
私は顔を顰め、指先だけでつまむようにして、恐る恐るゴブリンをその箱へと近づけてみた。すると、ゴブリンの体が吸い込まれるように箱の中へと消え、代わりに箱の上部へ「ゴブリンの耳 1」という淡い文字の吹き出しが浮かび上がった。
「……すごい、これ」
現代のテクノロジーすら凌駕する便利機能に、私は思わず感心のため息を漏らした。この魔法があれば、手を汚すことも、重たい荷物を背負う必要もない。
私は次々と残骸を「処理」し、表示される数字が増えていくのを達成感とともに見つめた。そして、すべての戦利品を収め終えると、軽やかな足取りでギルドへの帰路についた。
受付のカウンターにその箱を差し出すと、そこには驚くべき数字が表示されていた。
『ゴブリンの耳・手・足:計80』
かつてのコンビニバイトでは決して味わえなかった、自らの力で掴み取った「成果」の重みに、私は少しだけ口角を上げた。
「えぇ~っ、困りますよ!!」
ギルドの静かな空間に、受付嬢さんの悲鳴に近い声が響き渡った。
アイテムボックスから次々と吐き出される、山のような「部位」を前に、彼女は目を丸くして硬直している。
私は必死に事情を説明したが、彼女の困惑は収まる気配がない。
「こんなに一度に持ってこられても、こちらでの検品と処理が追いつきません!」
「そこをなんとか! お願いします! 今、私、本当に一銭も持っていなくて……!」
私は必死だった。机の角に額がぶつかりそうなほど、深々と、腰が折れるような角度でお辞儀を繰り出した。元・コンビニ店員としての経験が、ここで図らずも「究極の謝罪フォーム」として結実する。
「は、はい……わかりました。なんとか、今日中に頑張ってみますけれど……」
その言葉を聞いた瞬間、私はパッと顔を上げた。絶望の淵で救いのクモの糸を掴んだような、眩いばかりの笑顔が零れる。
「ありがとうございます!!」
こんにちは〜、元気ですか〜? 「1章 始まりの物語」、もうそろそろ終わりです〜。
2章になったら、ちょっと投稿する頻度落とすかもしれないので、今のうちにたくさん見ておいてください! それではまた次回お会いしましょう!




