メイド、ストレス発散をする
こんにちは〜 色々とひよっこなので、温かい目で見守ってくれたら嬉しいです〜
一夜明けて、昨日の絶望的な思考は限界を迎え、逆に一周回って突き抜けていた。
(――どうせなら、この理不尽な力を受け入れてやろうじゃないか。
神様のあのふざけたテンションに、こっちが合わせてやるんだ!)
自棄気味な決意を胸に、私は立ち上がる。
名目は「魔法の試し打ち」。
実際は、あの脳天気な神から叩きつけられた理不尽への、ささやかなストレス発散だった。
湿った落ち葉を踏みしめ、五分ほど歩いた時だ。前方、歪なシルエットがゆらりと揺れた。
……ゴブリン?
アニメや漫画の挿絵でしか見たことのない、粘土を捏ねたような濃緑色の肌。
ぎらつく双眸が私を捉える。
「本物だ…….。」
喉の奥が震えた。
現実味のない姿を目の当たりにして、ようやく自分が異世界にいることを再認識する。
私は逃げ出したい本能を抑え込み、震える指先をその怪物へと向けた。
「氷属性――アイス・ランス!」
叫ぶと同時に、体内の熱が指先から一気に吸い取られる感覚が走った。
あまりの光景の恐ろしさに、私は反射的にぎゅっと目を瞑る。
静寂。
数秒の空白を置いて、私は恐る恐るまぶたを持ち上げた。
「……!」
言葉を失った。
そこにあったのは、もはやゴブリンの形を留めていない残骸だった。
放たれた氷の槍は、怪物の胴体に巨大な風穴を空けただけではない。背後に聳え立っていた大木をも易々と貫通し、向こう側の景色を晒していたのだ。
(これが、神の加護……?)
想像を絶する破壊力の痕跡に、背筋が凍る。
私は気絶しそうなほど目を見開き、自分が引き起こした惨状を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
油断した隙を突くように、背後に違うゴブリンが現れた。
(血の匂いに釣られた……!?)
腐敗した獣のような臭気が鼻腔を突き、心臓が跳ね上がる。
私は背筋に走る戦慄を「油断した自分のせい」だと強引に納得させ、振り向きざまに次の魔法を解き放った。
「火属性、ファイアボール!」
放たれた紅蓮の劫火が、ゴブリンを瞬時に呑み込む。肉が焼ける嫌な音が響いたのも束の間、火の粉は周囲の木々へと牙を剥いた。乾いた樹皮がパチパチと音を立てて燃え広がる。
「やばい、火事になる!」
私は血の気が引くのを感じながら、慌てて追撃の言葉を紡いだ。
「水属性、ウォーターボール!」
消火だけを望んだはずの一撃だった。
しかし、私の意に反して出現したのは、高圧洗浄機を何万倍にもしたような狂暴な水塊だった。
炎は一瞬で鎮火したが、その凄まじい衝撃波によって、周囲の巨木が暴力的な音を立ててなぎ倒されていく。
「はぁ……マジなの、これ……」
静まり返った森に、無惨に折れた木の幹が転がっている。
予想を遥かに超えた二次被害に、私は自身の掌を見つめて頭を抱えた。自然破壊なんてしたくなかった。森の神様がいるなら、本当にごめんなさい……。
魔法のコントロールが上手くできるように頑張ります……。
(でも、この惨状を見られて、街から騎士団なんて来たら絶対に面倒なことになる。
……今のうちに飛んで逃げよう!)
「風属性、フライ!」
祈るように魔法を唱えると、重力から解放された体がふわりと宙に浮いた。
高度を上げ、眼下に広がる広大な緑を見渡す。幸いなことに、人の気配がある街からはかなりの距離があるようだ。
(このまま少し遠くまで逃げれば、なんとかなるかな)
安堵の溜息を漏らそうとした、その時。
風を切る鋭い音が鼓膜を叩き、一本の矢が視界の端を掠めていった。
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