メイド、依頼場所へ行く
指先に残った紙の感触が、まだ胸の奥をざわつかせている。 なぜだろう。
「カンザキ」――その名前、どこかで聞いたような、いや、聞き覚えがあるなんてもんじゃないような。
そんな微かな違和感を振り払うように、私は大きく伸びをした。
ちょうどフェリシアが、貸出手続きを終えたところだった。
「どうだった? 何かいいのあった?」
「見て見て、結構借りてきたわ!」
フェリシアは得意げに、三冊の本を私の前に並べて見せた。
『剣技の理』、『鉄壁の盾術』、そして『レアスキル』。
「……意外と、あなたらしい堅実なセンスじゃない。あんなに憧れてたのに、魔法の本はないのね」
「だって、魔法はルナリスが使えるって言ってたやん」
フェリシアは当然と言わんばかりに胸を張る。
「私の魔法、あんまりコントロールうまくないのよ? 森をなぎ倒しちゃうし」
「使えるだけええやん! うちの補佐、しっかりよろしゅう頼むで?」
「はいはい。気が向いたら、補助魔法くらいはかけてあげる」
「えぇ〜! そこはピンチの時に颯爽と助けてや!」
「時と場合によるかな」
「マジかぁ……。ルナリス、ガード固いわぁ」
肩を落とす彼女の背中を、私は軽く叩いた。
「私の助けがいらないくらい、あんたが修行して強くなればいいだけの話でしょ」
「たしかに! ルナリス、天才やな! その発想はなかったわ!」
「……これくらいで天才だったら、人類の七十五パーセントは天才だよ」
「おぉ! それでええやん、みんな天才! 幸せな世界や!」
「良くないよ、絶対」
そんな噛み合わない会話をしながら、私たちはようやく、本来の目的地である北の田畑へと一歩を踏み出した。
とりとめもない話を重ねているうちに、視界が開け、目的地である北の田畑へと到着した。黄金色の穂が揺れるのどかな風景だが、その端々には魔物の影が潜んでいる。
「じゃあ、フェリシア。使えるスキルがあるか、実戦で確かめておいで。私はここで休んでるから」
「えぇっ、一緒に戦ってくれへんの!? 自分、冷たすぎひん?」
ショックを受ける彼女に、私は苦笑いを返した。
「多分、大丈夫。……それに、私が一緒に戦っちゃうと、あんたがスキルを習得する機会を奪っちゃうかもしれないでしょ」
「あ……そっか。そう言われると、そんな気がしてきたわ。よし、行ってくるわ!」
「ついでに植物採取もやっておいてねー」
「オッケー、任せとき!」
頼もしい返事とともに、フェリシアは弾かれたように駆けていき、すぐに私の視界から消えていった。
ふぅ、と息をついて、私は近くにあった大木の根元に腰を下ろした。念のため、休憩中の安全を確保しておかなければならない。
「光属性――ライトシールド」
淡い白銀の光が、私を包み込むようにドーム状の壁を作る。
(……あぁ、なんだか急に、眠い……)
あの図書館で見つけた本の魔力だろうか。
抗いようのない深い眠気が、泥のように私の意識を侵食していく。
重たいまぶたを閉じると同時に、私は音のない夢の底へと沈んでいった。
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