ルナリス、本を読む
(この世界の成り立ちくらい、少しは知っておいたほうがいいよね……)
こう思いながら本棚を指でなぞり、ふと足を止める。一冊の本が、まるで私を呼んでいるかのように目に飛び込んできた。
背表紙には、『第三代勇者伝』と金文字で刻まれている。
二代も、四代も、前後の巻は見当たらない。この「三代目」だけが、特別に語り継がれるべき何かを持っていたのだろうか。
吸い寄せられるように、私はその表紙を捲った。
一ページ目。そこには、遠く離れた王都の城を背景に、三人の少女が並んで笑顔を浮かべている肖像画があった。三人が三人とも、眩しいほどのピースサインを掲げている。
(……この人が、リーダーかな)
中央に立つ少女からは、有無を言わせぬカリスマ性が溢れ出していた。「私が主役だ」と告げるような強烈なオーラ。
けれど、私の視線を釘付けにしたのはその「瞳」だった。
サラサラと流れる金髪。そして、左右で色が異なるオッドアイ
(……なんだろう。初めて見るはずなのに、すごく懐かしい気がする)
私と同じ、左右非対称の視界を持つ少女。
もっと読み込みたい衝動に駆られたが、目次に視線を落とすと、分厚い英雄譚がそこに並んでいた。
フェリシアが戻るまでの時間は限られているし、手続きをして借りるのも少し億劫だ。
私は迷いを断ち切るように、一気に最後の方――物語を簡潔に記されている「まとめ」までページを飛ばした。
伝説の一節をなぞる指先が、その凄絶な記録に震えた。
『――第三代勇者一行。
その中心にいたのは、陽光を写し取ったような金髪と、天理を背く二色の双眸を持つ少女「カンザキ」であった。
彼女たちの軌跡は、既存の戦術概念をすべて過去のものとした。
神出鬼没ゆえに到達不能とされた魔王城。通常、数多の試練を経て四年の歳月を要するその最果ての地へ、彼女たちはわずか一年という驚異的な速度で踏み込んでいる。
特筆すべきは、魔王城の門を護る「絶望の番兵」との一戦である。
歴戦の騎士団ですら蹂躙される悪魔の軍勢を前にして、彼女たちが費やした時間は刹那。ただ一撃、放たれた瞬光がすべてを無に帰したという。
勇者一行は魔王を絶体絶命の淵まで追い詰め、世界の夜明けを目前にした。
しかし、勝利の栄光が刻まれる直前――彼女たちは、狂い咲いた花びらが風にさらわれるように、忽然と歴史の表舞台から姿を消したのである』
(……リーダー、やっぱりあの金髪の子だったんだ。勘が当たってちょっと嬉しいけど、内容が重すぎる)
三代勇者「カンザキ」。
その圧倒的な実力と、あまりにも呆気ない幕切れ。
魔王城の番兵を一撃で倒すなんて、私からすればお伽話のそのまた先の話だ。
(私だったら、その門番を倒すだけで五時間はかかる自信があるよ……。それどころか、途中で心が折れて帰ってきちゃうかも)
身の丈に合わない英雄譚の重みに、私はそっと本を閉じて棚に戻した。
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