メイド、仲間を見つける②
(何かない……? 異世界、リュック、電気、非常食……あ、ご飯だ!)
元の世界にしかない食べ物を口にすれば、それは紛れもない同郷の証。私は意を決して、彼女に問いかけた。
「……今、何が食べたいですか?」
「はあ? ……そうやなぁ、ハンバーガーとかがっつり食べたいわ。てか、なんで今食べ物の話なん?
失礼やない?」
(よっしゃあああ、異世界人確定!)
内心で激しいガッツポーズ。失礼だと思われた代償は大きいけれど、確信を得るためには安いものだ。
次はもっと踏み込んだ質問、王手をかける一打を放つ。
「……出身は、どこですか?」
「関西の方やけど。……自分、さっきからなんなん?」
(間違いない。もう、逃げようのない事実だ)
私は覚悟を決めて、極めつけの質問を投げた。
「……あなた、異世界人ですか?」
「ここ、うちの夢の中ちゃうの? でも、一応、そういうことになるんやろなぁ。
……夢やから、異世界っぽいところで、何故かメイドさんが出てきたんやと思ってたわ」
「…………」
あぁ、もう確定だ。
神による犠牲者二人目が、目の前に現れてしまったのだ。
あんな無責任な神に放り出されたのかと思うと、こちらまで申し訳ない気持ちになってしまう。けれど、彼女はまだここを夢だと信じて疑っていないようだ。
彼女がここを夢だと信じ切っている姿を見ていると、なんだかこちらまで申し訳ない気持ちになってくる。
「……なんか、すいません」
「え? 何? うち、あんたに感謝されるようなこと、何ひとつしとらんよな?」
戸惑う彼女に、私は遠い目をして首を振った。
「……詳しくは聞かないほうが、幸せだと思います」
「え? あ、はい……。あ、うちはフェリシア・ステラマリスって言うねん。よろしゅうな!」
「私はルナリス・リメスです。よろしくお願いします。……あ、あと一応言っておきますけど、ここ、現実なんで」
「マジ? マジで言うてる? ほんまに?」
ステラマリスさんは疑わしげに私を見つめると、意を決したように自分の頬を両手で掴んだ。そして、手加減なしの全力で横に引っ張り上げる。顔の形が歪むほどの凄まじい力だ。
「痛っ! ……っつああああ! マジかよ、ここ、ほんまに現実やん!」
「だからさっきからそう言っているんですけど……」
あまりの痛さに涙目になりながら頬を押さえる彼女。その姿に、かつての自分の混乱が重なる。
「うわ~、最悪や……これからどないしよ……」
途方に暮れる彼女の背中を見て、私は自分でも驚くほど自然に手を差し出していた。
「……じゃあ、一緒に来る?」
「マジ!? サンキューすぎるやん! あんた、めっちゃええ奴やな!」
「あ、ちょっと待って……これ、使いな」
私はアイテムボックスから、ごつごつした無骨な剣と盾を取り出した。
「魔法とか使えるようになるまで、これでしのいでおきな。
……昨日、怪しい商人に無理やり売りつけられたやつなんだけど。役に立ってよかった」
「え、押し売りされたん? 自分、お人好しにも程があるやろ(笑)。でもありがと! 助かるわぁ!」
沈みゆく夕日を背に、私たちは肩を並べて歩き出す。一歩、また一歩。踏みしめる土の感触は、もう孤独なものではなかった。
(……もう、一人じゃないんだ!)
★☆★☆★☆
「えぇ~っ! この宿、歩くたびに床がミシミシいうやんか!」
「いいじゃん、贅沢言わないの。……押し売りのせいで、こっちは金欠なんだから」
二人で分け合う、古びた部屋の空気。
「「…………」」
顔を見合わせた私たちは、どちらからともなく小さく吹き出した。
ーーモノクロだった私の世界に、賑やかなワインレッドの色が混ざり始めた夜だった。ーー
1章完結! 応援、ありがとうございました!




