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第8話 ボトルネックと品質管理

「第3ライン、稼働! オークの群れが入ります!」

「レバーを引け! 油を流せ!」


ガガガガッ……! ギュイイイン……!


峡谷に設置された「自動処理ライン(キル・ゾーン)」が、耳障りな駆動音を上げて唸る。

誘い込まれたオークたちが、足元の油に滑り、回転する刃の餌食となっていく。

断末魔の叫びは、機械的な粉砕音にかき消され……ただの「出荷音」へと変わる。


「ヒャッハー! 大当たりだ! 今回のタイムは3分切りだぜ!」

「くそっ、俺は『5分以上』に賭けてたのに!」


安全圏の監視塔では、兵士たちが懐中時計を片手に熱狂していた。

剣を振るう必要も、血を浴びる必要もない。ただレバーを引き、賭けの結果に一喜一憂する。

戦争は完全に「娯楽」であり……「ルーチンワーク」になっていた。


「順順調ですね、カイ様。……正直、ここまで一方的だと怖いくらいです」


セリアが複雑な表情で、眼下の惨劇(生産ライン)を見下ろす。

稼働から三日。討伐数は既に500を超えた。

味方の死者はゼロ。怪我人も、レバー操作で指を挟んだ間抜けが一人いただけだ。


「順調? いいや、グラフを見ろ」


カイは執務机で、生産管理シートを指で弾いた。


「昨日に比べて、処理効率が15%落ちている。刃の摩耗にしては早すぎる」

「え? ですが、敵は全滅していますが……」

「『止まる』んだよ。……ほら、来たぞ」


カイがモニター代わりの遠見の水晶を指差した瞬間、異音が響いた。


ガガッ……ガギギギギッ! ブスンッ……!


軽快に回っていた回転刃が、悲鳴のような金属音を上げて停止した。

峡谷の入り口で、オークたちが進軍を止めている。

そして、彼らの最前列にいるゴブリンたちが、抱えていた「丸太」や「岩」を……処理ラインの歯車めがけて投げ込んでいたのだ。


「なっ……!? 敵が、機械を壊しに来ている!?」


セリアが叫ぶ。

これまでの魔物は、本能のままに突っ込んできていた。だが今は違う。

彼らは明らかに、この「殺人機械」の構造を理解し、その弱点である「駆動部」に異物ゴミを詰まらせに来ている。


「生産ライン停止ライン・ストップ! 詰まりました! 逆回転もできません!」


現場の兵士たちがパニックに陥る。

機械に頼り切っていた彼らは、それが止まった瞬間、どう戦えばいいのか忘れてしまったかのように狼狽えている。

賭けは中止、配当は無効。怒号と恐怖が飛び交う。


「……やっぱりな。現場監督リーダーがいる」


カイは冷静にタバコを揉み消した。

単なる獣の群れなら、死体を乗り越えて突っ込んでくる。だが、こいつらは「損害」を理解し、「設備」を攻撃してきた。

知性ある指揮官が、この工場をテスト(試運転)している証拠だ。


「カイ様! 敵が詰まったラインを乗り越えてきます! 迎撃命令を!」

「待て。修理トラブルシュートが先だ」


カイは懐から通信用の魔道具を取り出し、現場のバルトへ指示を飛ばした。


「おいバルト、タンクの予備バルブを開けろ。『B液』の方だ」

『へ? 旦那、B液ってのは、先日ゴブリンの内臓から精製した高純度の発火油で……それを流したら、詰まってるゴミごと燃えちまいますぜ?』

「構わん。焼却炉にする」

『りょ、了解!』


カイの指示で、峡谷の上部からドロリとした黒い液体が大量に投下される。

丸太や岩で詰まった刃の隙間に、油が浸透していく。

敵兵たちは、滑る油に足を取られながらも、停止した機械を乗り越えようと密集していた。


「セリア、火矢を一本くれ」

「は、はい!」


カイは窓を開け、眼下の「詰まった生産ライン」を見下ろした。

そこに群がる数百の魔物と、機械を壊した残骸。

全てまとめて……「産業廃棄物」だ。


「不良品は、出荷停止だ」


カイが火矢を放つ。

放物線を描いた炎が、黒い油溜まりに着弾した瞬間。


ドォォォォォォン!!


爆音と共に、峡谷が巨大な火柱となった。

詰まっていた丸太や岩、および密集していた魔物たちが、爆発的な燃焼で一瞬にして炭化する。

凄まじい熱風が監視塔まで吹き上げ、セリアは思わず顔を覆った。


「……あーあ。修理費がかさむな」


煙が晴れた後、そこには誰もいなかった。

機械は完全に壊れ、黒焦げの鉄屑になっている。だが、敵もまた、灰となって消滅していた。


「……引いたか」


カイは煙の向こう、北の森の暗闇を睨みつけた。

敵の指揮官は、この爆発を見ると同時に、即座に残存兵力を撤退させたようだ。

深追いはしない。損切りが早い。

優秀な……「競合他社」だ。


「カ、カイ様……機械が全壊です。これでは明日の稼働が……」

「いいさ。元々あの機械は、敵の『知性』を測るためのリトマス試験紙だ」


カイは壊れたラインを指差した。


「バカな敵なら永遠に稼げる。だが、賢い敵なら対策してくる。……今回でわかった。敵の指揮官は『学習』するタイプだ」

「学習……ですか?」

「ああ。次はもっと厄介な手を打ってくるぞ。……面白くなってきたな」


カイはニヤリと笑った。

単なる作業ルーチンは退屈だ。

ビジネスには、出し抜くべきライバルがいてこそ張り合いが出る。


「セリア、バルトを呼べ。機械に頼らない、次の『新商品』を開発するぞ。……今度はもっと、心理的なプラシーボをな」


デッド・エンドの夜明け前。

カイと未知の指揮官との、盤面を挟んだ頭脳戦が静かに始まろうとしていた。


(第8話 完)

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