表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/41

第40話 強制執行(エンフォースメント)と退職金

ズドォォォォォン!!


魔界都市の高級ホテル『インフェルノ』の上層階が、凄まじい衝撃と共に吹き飛んだ。

爆煙の中から現れたのは、巨大な悪魔の翼を広げ、全身から漆黒の魔力を噴出させる魔王ディアボロだ。


「オオオオオオ!! 死ね! 私の世界を汚す害虫め!!」


ディアボロが腕を振るうと、ビルを一撃で切断するほどの衝撃波が放たれる。

もはや知性ある経営者の面影はない。

プライドをへし折られ、破産に追い込まれた男の、純粋な殺意の塊だ。


だが、瓦礫の山となったスイートルームで、カイは優雅にワイングラスを傾けていた(中身は少しこぼれたが)。


「……野蛮だな。これだから『ワンマン経営者』は困る」

「貴様ァァァ! なぜ逃げない! その細い首など、指先一つでひねり潰せるぞ!」


ディアボロがカイの喉元に爪を突き立てようと迫る。

その距離、あと数センチ。


しかし、その爪が届くことは永遠になかった。


ガキィィィン!!


「社長に指一本触れさせんと言ったはずだ!」


横合いから飛び込んだ勇者アルヴィンが、聖剣でディアボロの爪を受け止める。


「勇者か! 小賢しい! だが貴様一人で何ができる!」

「一人? ……周りを見てみろ、元社長」


カイが指を鳴らす。

その瞬間、崩れたホテルの壁の向こう、魔界の空を埋め尽くす「影」が現れた。


『グオオオオオオ!!』


真紅の古竜イグニスが、口から極大の火球を装填している。

その背中には、帝国製の魔導カノン砲を構えたセリアと帝国兵たちが乗っている。


「目標補足! 魔王ディアボロ! 一斉射撃、用意!」


さらに地上からは、オーク将軍率いる魔物労働組合と、ヴォルグ率いる囚人部隊が、対空兵器を構えて包囲網を敷いている。


「オラァ! 元社長のお礼参りか!? 返り討ちにしてやんよ!」

「労働者の権利(物理)を見せてやる!」


そして、ビルの影からは、東方の装束を纏った忍者部隊(ヨミの配下)と、吸血鬼ベリアルが操る自動人形たちが、冷徹な照準を合わせている。


「な、なんだこの数は……!? 人間、魔物、ドラゴン、帝国、東方……!?」


ディアボロが絶句する。

そこにあるのは、本来なら決して交わるはずのない、世界中の全勢力だ。


「驚くことはない。……これが『コングロマリット(複合企業)』だ」


カイは立ち上がり、ディアボロを見下ろした。


「お前は個人の武力に頼りすぎた。だが俺は、金を使い、交渉し、時には騙して、これだけの『資産(戦力)』を積み上げた。……暴力で勝てると思うなよ?」


カイが手を振り下ろす。


「総員、業務開始! ……『強制執行フルボッコ』だ!」


ズダダダダダダダダッ!!


世界中の火力が、一点――魔王ディアボロに集中した。


「グアァァァァァッ!?」


ドラゴンのブレスが魔王のバリアを焼き、帝国のカノン砲が装甲を砕き、東方の魔導術が動きを封じ、聖女エレーヌの浄化魔法が再生を阻害する。

一発一発は魔王に届かなくとも、数千、数万の連撃は、確実に神話級の怪物を削り取っていく。


「お、おのれ……! 私は魔王だぞ! こんな……金で雇われた有象無象に!」

「その有象無象に負けるんだよ、お前は」


カイは懐から、一丁の拳銃を取り出した。

東方の技術と吸血鬼の錬金術で作らせた、特注の魔導銃。

弾倉に込めるのは火薬ではない。

「高純度のオリハルコン・コイン」だ。


「アルヴィン! トドメだ!」

「おう! 必殺! 株価大暴落スラッシュ!!」


アルヴィンが全身全霊を込めた一撃が、ディアボロの胸板を切り裂く。

魔王が膝をつく。

その眉間に、カイは銃口を突きつけた。


「……終わりだ、ディアボロ」

「く、殺せ……! 敗者の肉を食らうのが勝者の権利だろう……!」


ディアボロは覚悟を決めて目を閉じた。


だが、引き金は引かれなかった。

代わりに、カイは銃口を下げ、一枚の羊皮紙を魔王の額に貼り付けた。


「な、なんだこれは……?」

「『再雇用契約書』だ」


ディアボロが目を見開く。


「殺しはしない。……お前ほどの能力スキル、消すには惜しい」

「わ、私を……雇うだと? 世界を滅ぼそうとした私を?」

「世界征服を企むほどの野心と、魔界を統率したカリスマ性。……ウチの『海外事業部長』にぴったりだ」


カイはニヤリと笑った。


「借金(今回壊した街の修繕費)は給料から天引きだ。死ぬまで働いて返せ。……これがお前の『退職金』代わりだ」


ディアボロは震える手で契約書を見た。

そこには、過酷だが不当ではない労働条件と、カイの署名があった。

プライドを砕かれ、命を救われ、そして価値を認められた。

魔王の目から、殺気が消えていく。


「……フ、フフフ。完敗だ」


ディアボロは人間の姿(スーツ姿)に戻り、ボロボロの手で契約書にサインした。


「よかろう、カイ・ヴォン・ハイローラー。……いや、社長。私の残りの命、貴社の利益のために捧げよう」


その瞬間、パンデモニウムの空を覆っていた暗雲が晴れ渡った。

戦いが終わった。

魔王軍が敗北し、そして「アレクサンドル・ホールディングス」に吸収合併されたのだ。


「……勝った! 社長の勝利だー!!」

「ボーナス確定だー!!」


ワァァァァァ!!


人間も、魔物も、悪魔も、入り乱れて歓声を上げる。

かつて殺し合っていた者たちが、今は一つの「会社」の同僚として、肩を組み合って笑っている。

カイはその光景を見渡し、満足げにタバコに火をつけた。


これが、彼が作り上げたかった世界。

正義でも、悪でもなく。

ただ「損得」と「契約」によって繋がり、誰もが豊かになれるシステム。


「……さて」


カイは空を見上げた。

世界は統一された。

敵はいなくなった。

だが、彼の中の「経営者」としての血は、まだ沸き立っている。


「次は『宇宙開発』でもやるか。……月にも、まだ見ぬ市場があるかもしれないからな」


史上最強のCEO、カイ・ヴォン・ハイローラー。

彼の世界買収劇は、これにて大団円グランド・フィナーレを迎えた。


(第40話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ