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第33話 技術提携(テクノロジー・トランスファー)と魔導革命

「……おいおい。異世界転生した覚えはないんだがな」


古竜イグニスの背から降り立ったカイは、目の前に広がる光景に口笛を吹いた。

東方の大国、皇国「ヤマト」。

そこは、木と紙の家が並ぶ牧歌的な国ではなかった……。


蒸気の煙を吐き出す巨大な煙突、歯車が露出しながら動く「カラクリ人形オートマタ」、そして空を行き交う木造の飛空挺。

いわば、魔導パンク(スチームパンク)の世界だ。


「な、なんですかあれは!? 馬がいないのに車が走っています!」

「でも、見てください。どの機械も後ろに『大きなタンク』を背負っていますよ?」


セリアが鋭い指摘をする。

そう、ヤマトの技術は進んでいるが、動力源が巨大すぎて小型化できていないのだ。


「歓迎しよう、西の野蛮人たちよ」


出迎えに来たのは、狐の面をつけた黒装束の一団だった。

彼らは耳に、レンガほどもある巨大な機械(無線機)を当てて連絡を取り合っている。


ミカドがお待ちだ。……そのトカゲはデカすぎる。港に置いていけ」

『トカゲだと……?』

「イグニス、待機だ。……駐機料金は会社で持つ」


カイは怒るドラゴンをなだめ、蒸気と油の匂いがする都へと足を踏み入れ……。


皇居、謁見の間。

畳敷きの広大な空間の奥、御簾みすの向こうに、その人物は座っていた。

皇国ヤマトの実質的支配者、摂政宮・ヨミ。


御簾が上がると、そこには十二単をアレンジした軍服をまとい、キセルを燻らせる妖艶な美女の姿があった。


「……西の『会社』とやらの長だな。我が国に何の用だ?」


ヨミの声は鈴のように美しいが、絶対零度の冷たさを帯びていた。


「商談に来た。……西は今、宗教屋のせいで物流が止まっていてね。あんたの国と直通ルートを開きたい」


カイは臆することなく、いつものように足を崩して座った。

ヨミは興味なさげに煙を吐き出す。


「交易か。……だが、我が国は『鎖国』こそしておらぬが、西の品になど興味はない。我々が信じるのは『ことわり』と『技術』のみ」


取り付く島もない。だが、カイはニヤリと笑った。

懐から取り出したのは、一本の「試験管」だった。


「……なら、これはどうだ?」


試験管の中で揺らめいているのは、赤黒く発光する液体。

第30話で接収した吸血鬼の工場で精製した『高純度魔力液マナ・リキッド』だ。


「……ほう」


ヨミの目が初めて大きく見開かれた。


「我が国の魔導機関は、常に『燃料の重さ』に悩まされている。……その液体、自然界のマナの何倍の密度だ?」

「約50倍。……これを燃料に使えば、あんたの国の兵士は、背中の重いタンクを捨てて身軽になれる」


カイは試験管を畳の上で転がした。


「西には技術はないが、『資源モンスター』と『生産プラント(吸血鬼)』なら売るほどある。……どうだ? 技術とエネルギーのバーター取引(交換)といこうじゃないか」


ヨミは扇子で口元を隠し、しばらく沈黙した後、艶然と微笑んだ。


「……面白い。西の人間は野蛮だと思っていたが、話のわかる男もいるようじゃ。……で、そっちは何が欲しい? 魔導戦車か?」

「いいや」


カイは首を横に振った。

そして、ヨミの護衛兵が持っている、あの「巨大な無線機」を指差した。


「俺が欲しいのは……その『通信機』の技術だ」

「……通信機? あのような無骨な箱でよいのか? あれは魔力波の受信感度が悪く、大型のアンテナがないと使い物にならんぞ」


ヨミが不思議そうにする。

ヤマトの技術でも、通信機の小型化は難航していた。

端末を小さくすれば受信感度が落ち、遠距離通信ができなくなるからだ。


「アンテナの問題なら解決済みだ。……俺は北の山に、大陸全土をカバーする『最強のサーバー(賢者の石)』を持っている」


カイは、以前に描いた設計図――黒い板のようなスケッチを見せた。


「あんたの国の技術で、極限まで薄くした『受信端末ハードウェア』を作ってくれ。アンテナ機能は最低限でいい。……その代わり、通信処理はすべて俺の『サーバー(クラウド)』側でやる」

「……なっ!?」


ヨミが身を乗り出した。技術者である彼女は、即座にその意味を理解したのだ。


端末側の機能を削ぎ落とし、処理を外部サーバーに丸投げする。

そうすれば、端末は劇的に小型化・軽量化できる……。


「東方の『微細加工技術』と、西方の『魔導サーバー』。……この二つが組み合わサって、初めて完成するデバイスだ」


カイはスケッチの余白に名前を書き込んだ。


「名前は『マギ・フォン(魔導端末)』。……まずは『文字情報テキスト』の送受信から始める」

「文字……? 声ではないのか?」

「いきなり重いデータはサーバーがパンクする。まずは文字だ。……だが、いずれ回線を強化すれば、声も、そして『映像』すら手のひらに乗る時代が来る」


「……恐ろしい男じゃ。世界を縮める気か」


ヨミは愉快そうに笑い、扇子を閉じた。


「気に入った。……全力を挙げて生産しよう。その代わり、マナ・リキッドの独占供給契約を結べ」

「毎度あり」


数日後。

ドラゴンの背中には、試作品となる大量の「黒い板」が積み込まれていた。

まだ画面は白黒で、表示できるのは短い文章だけだ。

だが……これは革命の第一歩だ。


「カイ様、これが……マギ・フォンですか? ただの黒い石板に見えますが」


セリアが不思議そうに端末をいじっている。


「起動してみろ。……サーバー(ベリアル)との同期は済ませてある」


セリアがボタンを押すと、画面が淡く光り、文字が浮かび上がった。

『Welcome to Dead End』


「うわっ!? も、文字が出ました! 魔法の紙みたいです!」

「今はまだ『掲示板』のようなものだ。だが、これがあれば検閲なしでニュースを配信できる」


カイは王都(本社)の方角を見据えた。

教皇庁による経済封鎖は続いている。


だが、この端末をばら撒き、サーバーを強化していけば、いずれは「動画」という最強の武器を投入できる……。


「帰ったら忙しくなるぞ。……まずは『テキスト配信』で信者を囲い込み、徐々に機能をアップデートして依存させる」


カイは邪悪に笑った。

いきなり完成品を与えるのではない。

ユーザーと共に「進化」させていくことで、より深く生活に入り込ませる……それがプラットフォーム戦略だ。


「さあ、情報革命イノベーションの始まりだ。……神の言葉より面白い『通知』を、世界中に届けてやる」


東方との提携により、カイは「ハードウェア」を手に入れた。

北の「サーバー」と繋がった時、その黒い板は、教皇庁を内側から破壊する凶器へと変貌する……。


(第33話 完)

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