表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/41

第32話 航空物流(エア・カーゴ)と資産運用

「……暑い。そして空気が悪い」


デッド・エンドの遥か東、活火山が連なる「竜の渓谷」。

カイはハンカチで口元を覆いながら、不機嫌そうに空を見上げた。


周囲では、土木課長(オーク将軍)率いる魔物部隊が、岩を砕いて道を均している。シルクロード建設の第一歩だ。だが、このペースでは東方諸国との交易路開通まで数年はかかる。


「社長、本当にここを通るんですか? ここは『赤竜公イグニス』の縄張りですよ。人の身で立ち入れば、灰も残りません」


勇者アルヴィンが、聖剣の柄に手をかけて警告する。

彼は「対話」よりも「討伐」の準備をしているようだ。


「だから来たんだ。……陸路がダメなら、空を行くしかないからな」


カイが指差した先。

噴煙を上げる火口から、全長50メートルはある真紅の巨体が姿を現した。


翼を広げれば空を覆い隠す、伝説の古竜エンシェント・ドラゴン

圧倒的な熱波と威圧感が、工事中のオークたちを震え上がらせる。


『……我が眠りを妨げる矮小な生物よ。死を望むか』


イグニスの言葉は、物理的な衝撃波となって襲いかかってきた。

アルヴィンが前に出る。


「下がるんだ社長! こいつは強い! 僕が時間を稼ぐ!」


「待て。……名刺交換が先だ」


カイは勇者を制し、熱風の中に進み出た。

そして、懐から一枚の金貨を取り出し、ピンと弾いた。


「よう、トカゲの大将。……いい『資産』を持ってるじゃないか」


カイの視線の先、火口の奥には、山のように積み上げられた金銀財宝が見え隠れしていた。

ドラゴンの習性、財宝収集ホーディング

彼らは数百年かけて集めた宝の上で眠ることを至上の喜びとする。


『……ほう。我が宝に目が眩んだか、盗っ人め』


イグニスが喉奥で炎を滾らせる。


「いいや。……『もったいない』と思っただけだ」


カイはタバコに火をつけ(ドラゴンの熱気で点いた)、煙を吐いた。


「その金、そこで寝かせておいて何になる? 金は使ってこそ価値が出る。……お前がやっていることは、タンス預金以下の『死にデッド・ストック』だ」


『……何だと?』


「俺なら、その山のような財宝を『運用』して、1年で1.1倍に増やしてやれる。……どうだ? 興味はないか?」


イグニスの動きが止まった。

ドラゴンは強欲だ。金が増えるという話には弱い。

だが、プライドも高い。


『人間如きが、我に指図するか。……我はただ眠っていたいのだ。金が増えることよりも、静寂を愛する』


「そうか。じゃあ、今の『物流危機』の話もしようか」


カイはニヤリと笑った。


「今、西の教皇庁が輸出入を止めているせいで、大陸全体の金の流れが滞っている。……つまり、お前がたまに襲撃して奪う『商隊』もいなくなるってことだ」


『……む?』


「座っていれば宝が増える時代は終わった。これからは、自分から稼ぎに行かなきゃ、その宝の山も目減りする一方だぞ」


カイは背後のオークたちが作った「滑走路(のような平地)」を指差した。


「取引だ、イグニス。……俺と『物流契約』を結べ」


『物流……?』


「お前のその翼だ。……俺の荷物を積んで、空を飛べ。教会の検問も、国境の壁も、空なら関係ない」


カイは空を指差して宣言した。


「『ドラゴン航空エア・カーゴ』の設立だ。……お前は空の王者だろ? なら、空の『通行権』をビジネスに変えろ」


『我に……荷運び馬になれと言うのか!? 誇り高き古竜に!』


イグニスが激昂し、炎を吐こうとする。

だが、カイは電卓(魔道具)を叩き、数字を見せつけた。


「基本給は運搬貨物の評価額の10%。さらに、お前の『財宝の山』を担保に、ウチの会社株を譲渡する。……試算では、お前が寝ているだけで得られる満足感の、およそ500倍の『輝き(ゴールド)』が手に入る」


「ご、500倍……?」


ドラゴンの目が、金貨のように輝いた。

強欲という本能には抗えない。


さらにカイは畳み掛ける。


「それに、お前の背中に乗せるのは、ただの荷物じゃない。……『勇者』と『聖女』だ」


「なっ、僕もか!?」


アルヴィンが驚く。


「そうだ。勇者が乗っているドラゴンを、誰が撃ち落とせる? ……これは世界で最も安全で、最も速く、そして最も『ラグジュアリー』な輸送手段になる」


イグニスはしばらく唸り声を上げ、そして巨大な爪で地面を抉った。


『……よかろう。ただし、荷が重すぎれば振り落とすぞ』


「契約成立だ。……今日からお前は『物流部長』だ」


---


数日後。

教皇庁の国境検問所。


異端審問官たちは、街道を封鎖し、西からの物資を完全に遮断していることに満足していた。


「これでアレクサンドル株式会社は干上がる。神に背いた報いだ」


だが、その時。

上空から轟音が響いた。


「な、なんだ!? 雲が……割れるぞ!」


審問官たちが見上げた空。

そこには、巨大なコンテナ(魔法で軽量化済み)を抱え、悠々と空を飛ぶ真紅のドラゴンの姿があった。

ドラゴンの背中には、金色の社章が輝いている。


「ド、ドラゴン!? まさか襲撃か!?」

「いいえ! あれを見ろ! 荷物を運んでいる!」


ドラゴンは検問所のはるか上空、矢も魔法も届かない高度を通過し、悠々と東の空へと消えていった。

その腹には『Alexandre Express』の文字。


「ば、馬鹿な……! 空輸だと!?」


陸の封鎖など無意味だった。

カイは「空」という、誰も手出しできないブルーオーシャンを手に入れ、教皇庁の頭上を飛び越えて物資を運び始めたのだ。


「……快適な空の旅だな」


ドラゴンの背中に設置された特等席ゴンドラ

カイは眼下に広がる教皇庁の領土を見下ろし、ワイングラスを傾けた。


「社長……高すぎます。怖いです」


エレーヌが涙目でしがみついている。


「慣れろ。これが『グローバル経済』のスピードだ」


東方諸国へのルートは開けた。

ドラゴンの背には、東の珍しい香辛料や絹、そして魔導技術が満載されて戻ってくるだろう。

教会の制裁は、カイにとって「物流革命ロジスティクス・イノベーション」のきっかけに過ぎなかった。


「さて……次は『東の国』での商談だ」


カイの視線は、雲の向こうにある未知の市場へと向けられていた。

そこには、教会すら手を出せない「異文化の巨大市場」が眠っている。


(第32話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ