第30話 生産拠点(ファクトリー)と敵対的買収(テイクオーバー)
「……趣味の悪い城だ。成金趣味の典型だな」
北の山岳地帯、黒鉄山。
その頂にそびえ立つ吸血鬼公爵ベリアルの居城を見上げ、カイは葉巻を吹かした。
城は黄金の装飾で彩られているが、その輝きは魔術的な不気味さを帯びている。
「カイ様。偵察部隊からの報告です。城の地下に巨大な熱源反応あり。……それと、奇妙な『魔力波の干渉』が観測されています」
「魔力波?」
「はい。広域の魔力が、一点に吸い寄せられているような……」
セリアが怪訝な顔をする。カイは少し考え込み、ニヤリと笑った。
「なるほど。……正面玄関から堂々と行くぞ。『株主総会』の時間だ」
カイが指を鳴らすと、背後に控えていた「重役」たちが動いた。
物理担当役員、勇者アルヴィン。
精神ケア担当役員、聖女エレーヌ。
現場責任者、ヴォルグ率いる囚人部隊。
そして、土木課長、オーク将軍率いる魔物労働組合。
総勢1万を超える「社員」たちが、黒鉄山を取り囲んでいた。
「総員、突撃! 抵抗する者は解雇! 降伏する者は再雇用だ!」
カイの号令と共に、帝国製の最新鋭魔導カノン砲が火を噴いた。
ズドォォォン!!
黄金の城門が一撃で粉砕される。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「人間だ! いや、オークもいるぞ!?」
城内の警備兵が慌てて出てくるが、装備と士気で勝るデッド・エンド社(旧アレクサンドル王国)の猛攻の前には無力だった。
それは攻城戦ではなかった。暴力的な「資産差し押さえ」の現場だった。
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城の最深部、地下大空洞。
そこには、脈動するように赤く輝く巨大な結晶体――『賢者の石』が鎮座していた。
その周囲には無数のカプセルが並び、拉致された人間や下級魔物が管で繋がれている。
「……なるほど。これが『錬金工場』の正体か」
カイたちが踏み込むと、そこには優雅にワイングラスを傾けるベリアルの姿があった。
彼は城が半壊しているというのに、余裕の笑みを崩していない。
「よく来たな、人間。……私の『無限 of 富』を見るのは初めてか?」
ベリアルが手を掲げると、賢者の石からジャラジャラと大量の金貨が溢れ出した。
「素晴らしいだろう? この石は、繋がれた数千の生体脳を並列処理させ、その精神エネルギーを魔力に変換し、物質を構成するのだ!」
「……生体脳の並列処理だと?」
カイの目が鋭く光った。
金貨がどうこうよりも、ベリアルの説明したシステムの方に食いついたのだ。
「ああ。恐怖と苦痛で精神を極限まで高め、それをネットワーク化して膨大な演算能力を得ている。……金など、その余剰エネルギーで作った副産物に過ぎん!」
「……バカげている」
カイは呆れたように吐き捨てた。
「貴様、宝の持ち腐れにも程があるぞ。……それは『スーパーコンピュータ』だ」
「な、なんだと?」
「数千の脳を繋いでネットワーク化できるなら、それは金を作る機械じゃない。……超広域の『通信サーバー』として使えるはずだ」
カイは賢者の石を見上げた。
この世界には「念話」という魔法があるが、距離や魔力消費の制限がある。
だが、この石を「増幅器」として使えば、魔力を持たない一般人にも、声や――あるいは「映像」すら届けられるかもしれない。
「ベリアル。お前のビジネスモデルは周回遅れだ。……その設備、俺が有効活用してやる」
「ふざけるな! 下等生物風情が!」
ベリアルが激昂し、マントを広げた。
無数の血の槍が生成され、カイたちに降り注ぐ。
だが。
「社長には指一本触れさせない!」
勇者アルヴィンが前に飛び出し、聖剣で血の槍を弾き飛ばした。
同時に、聖女エレーヌが祈りを捧げる。
「穢れし血よ、浄化の光に還れ……!」
聖なる光が地下空洞を満たし、ベリアルの魔力リンクを強制切断する。
「な、なんだこの光は!? ネットワークが……落ちる……!」
「トドメだ!」
アルヴィンの必殺の一撃が、ベリアルを捉えた。
ズバァァァン!
吸血鬼公爵の体は壁に叩きつけられ、再生能力も聖女の結界によって阻害されている。
「ぐ、おのれ……! 覚えておれ……!」
ベリアルは霧になろうとするが、そこへオーク将軍が立ちはだかり、巨大な鉄板で逃走経路(換気口)を塞いだ。
「逃さんぞ、元上司殿。……未払い賃金の精算はまだだ」
「き、貴様ぁぁぁ!」
完全に包囲された。ベリアルは床に這いつくばった。
「……殺せ。誇り高き死を寄越せ」
「死? もったいない」
カイは賢者の石の前に歩み寄り、その状態を確認した。
カプセルに繋がれた人々はエレーヌによって解放されたが、石自体の機能――魔力増幅とネットワーク機能は生きている。
これに、別の燃料(高純度魔力液など)を使えば……。
「ベリアル。お前には『特別顧問』兼『サーバー管理者』として働いてもらう」
「サ……サーバー?」
「ああ。この石を使って、大陸全土をカバーする『通信網』を構築する。……金貨作りなんていう非効率な内職は終わりだ」
カイは懐から、分厚い『終身労働契約書』を取り出した。
「これからは『情報』の時代だ。お前の魔力と知識は、そのインフラ維持に使え。……給料は『輸血パック(賞味期限切れ)』だ。サインしろ」
「ふ、ふざけるなぁぁぁ!!」
ベリアルは抵抗しようとしたが、ヴォルグたちに押さえつけられ、無理やり拇印(血判)を押させられた。
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数日後。
黒鉄山の城は、アレクサンドル株式会社の『第2生産工場』兼『情報通信センター』として再稼働していた。
「……すごい。賢者の石を通すだけで、遠く離れた場所の声がクリアに聞こえます」
視察に来たセリアが、試作機の通信端末(魔石レシーバー)を耳に当てて驚いている。
まだ音声のみだが、この技術があれば、いずれ「東方の技術」と組み合わせることで、映像配信すら可能になるだろう。
「ああ。今はまだ軍事用回線だが、いずれはこれを民間開放する」
カイは満足げに、赤く脈動するサーバー(賢者の石)を見上げた。
その横では、首輪をつけられたベリアルが、涙目で複雑な魔力コードの調整を行っていた。
「くそっ……回線負荷が高い……! おい人間! 冷却水を持ってこい! サーバーが落ちるぞ!」
「へいへい、新入りさん。システムダウンしたら減給だからなー」
かつての公爵も、今やただのインフラエンジニアだ。
カイは手に入れた。
金(贋金の原料)だけでなく、世界を変えるための土台となる「通信インフラ」を。
「……これで準備は整った」
カイの視線は東の空へ。
次は「ハードウェア(端末)」を手に入れる番だ。
ハードとソフト、そしてインフラが揃った時、教皇庁を倒すための「情報革命」が幕を開ける。
(第30話 完)




