死亡予定日
「……あと1分で助かる」
23時59分を過ぎ、女は電波時計をじっと見つめる。
この日、女は1日中、自宅のマンションに閉じ篭っていた。
外に出れば、交通事故や通り魔に遭う等、命の危険がたくさんある。
そうした危険から身を守るため、女は家から外に出ない事を選択した。
外部を遮断するために雨戸を閉め、玄関も鍵をするだけで無く、周りをガムテープで固めた。
普通に考えれば、この行為は過剰と言える。
しかし、今日、自分が死ぬと予告されている今、それだけしても安心出来なかった。
「あと10秒」
女は祈るように両手を組む。
そして、時計は0時を示した。
女は自分の手足を確認する。
怪我もなく、特に異変はない。
「やった!」
女は飛び跳ね、同時に空腹を感じた。
考えてみれば、今日1日飲まず食わずだ。
女は服を着替えると、近くのコンビニへ行く事にした。
しかし、外に出る際、何重にも貼ったガムテープが行く手を遮った。
女は簡単に剥がした後、全体重をかけるようにドアを押す。
ドアが勢い良く開き、女は飛び出すようにその場に倒れる。
「え!?」
防音の役割を果たしていたドアが開いた瞬間、外から聞こえてきたのは警報の音だ。
「熱い!」
慌てて中に戻ったが、服に燃え移った炎が全身に回り、女は悲鳴をあげる。
その時、先程まで女が見ていた電波時計が正しい時間を受信し、スロットのようにデジタル表示が点滅し始める。
そして、少しした後、正しい時間が表示された。
23:57
「明日は告別式だね」
楓は友人の遙と2人、落ち込んでいた。
中学に通う楓と遙の担任教師、夏川が自宅のマンションで発生した火事によって亡くなり、今日は御通夜だった。
「せっかくの休みが潰れたよな」
同じクラスの男子、強は大きく伸びをする。
今日は土曜で、学校は休みだ。
「強、そんな事言わないでよ」
「ああ、悪い」
楓の注意を避けるように、強は逃げてしまった。
「どうしようもない奴だね」
「……うん」
「楓、あんなのが好きなの?」
遙の言葉に楓はため息をつく。
「今日はもう解散です。皆さん、気を付けて帰って下さい」
教頭の指示に従い、生徒達は解散した。
家に帰った後、楓は夕飯や風呂を済ませ、すぐ寝られるようにした。
しかし、楓は寝る前にパソコンを起動させた。
楓の趣味はネットサーフィンだ。
掲示板サイト等から興味を引くリンクを見つけてはクリックし、そうして表示されたサイトから、また別のリンクをクリックする。
そんな事を繰り返し、いつも楓は夜更かしをしている。
しかし、明日は告別式があるため、1時間程で切り上げる事にした。
そんな時、そのサイトは表示された。
それは何の文章もない、真っ赤なサイトだ。
一瞬、回線の調子が悪いのかと思い、F5キーを押したが、何も変わらなかった。
タイトルを見ると、そこには『死亡予定日』と書かれている。
「何これ?」
時々、こうして予期せぬサイトが表示される事はある。
しかし、そうしたサイトのほとんどは広告サイトだ。
このサイトは何の為にあるのかすら分からず、不気味に感じた。
楓は少しだけ固まってしまったが、考えてもしょうがない為、サイトを閉じる事にした。
その時、楓は何の気なしにウィンドウ上でドラッグする。
すると、文字が表示された。
「え?」
楓は驚きつつも、このサイトがどういったものか気付いた。
赤い背景に赤い文字で何かが書かれ、一見すると何も見えないが、選択する事で文字を反転させれば、内容を確認出来るのだ。
楓は全ての文字を反転し、表示させた。
そこに書かれていたのは、日付と人の名前だ。
今日から7日分、つまり6日後までの日付と、隣には対応するように人の名前が書かれていた。
それが何を意味するのか、当然、楓にはわからない。
しかし、その中に1つだけ、気になる名前があった。
それは強の名前だ。
強の名前は明日の日付の隣に書かれている。
楓はしばらく、そのサイトを眺めていたが、結局、意味を理解出来ないまま、パソコンを切り、寝る事にした。
次の日、楓は予定通り家を出て、告別式が行われる斎場に行った。
「変なサイト?」
遙と会い、楓は早速、昨夜見たサイトの話をした。
「真っ赤な背景に真っ赤な字で……」
簡単に概要を話しただけで、遙は表情を変える。
「それ知ってる」
「え?」
「死亡予定日でしょ?」
まだ、サイトのタイトルを楓は言っていない。
にも関わらず、遙はタイトルを言い当てた。
「何で知ってるの?」
「有名な話だよ。知らなかったの?」
「有名な話?」
「そこに載った日付で、その人が死んじゃうって話。よくある都市伝説で……」
遙が話を続けたが、楓の思考は止まっていた。
「楓?」
「今日の日付の隣に強の名前があったの」
「え?」
遙は一瞬だけ固まり、すぐ笑う。
「ホントなの!」
「だって、あいつは……」
遙は辺りを見回す。
「来てないね」
「え?」
楓も慌てて、周りを見る。
もうすぐ告別式が始まる時間だ。
しかし、強の姿はない。
「もしかして……?」
楓は不安で胸を一杯にする。
そこで、遙がまた笑った。
「あいつ、来たよ」
遙が指差した先には強がいた。
強はガードレールを乗り越え、車道を横断する。
その時、1台のトラックが通り過ぎた。
急ブレーキの音も何も無く、トラックは走り去る。
しかし、大きな衝撃音が確かに聞こえた。
一瞬、楓は強の姿を見た事が、そもそも勘違いなのかと思った。
しかし、楓は恐る恐る視線を送り、それを見つけた。
楓には、それが何なのか分からなかった。
ただ、そこには、さっきまで人だったはずの塊が残されていた。
楓は家に帰り、自分の部屋に篭っていた。
頭が混乱し、楓は今日の出来事を理解出来ないでいる。
その時、パソコンが突然起動する。
楓は視線を送り、体が震える。
そこには昨夜見た、あのサイトが表示されていた。
楓は少しだけ考えた後、マウスを使い、上から順番に文字を表示させる。
1番上は今日の日付になっていた。
当然、強の名前もそこにある。
その事を確認しながら、楓はマウスを下に動かす。
そして、1番下まで文字を表示させた。
「え?」
さらに楓は体を震わせる。
今日から6日後の日付。
その隣には楓の名前が書かれていた。
5分大祭、前祭作品です。
友人から聞いた『死亡予定日』という都市伝説をモチーフにした物語です。
ネタ自体は前からありましたが、正式な形で公開するまでには至らず、ある意味、念願の公開です。
人の死を扱っている作品なので、念のため言っておきますが、上記はフィクションであり、実在の人物等とは一切、関係ありません。
人の名前もフルネームにはせず、同姓同名の人が発生しないようにしましたが、気にする方もいるかもしれませんので・・・。
最後に、貴重な5分間を使い、この作品を読んで下さった方へ、心から感謝を送ります。