第9話「ダイヤの呪文は愛でできてる――カインの地雷、炸裂」
……私は穏やかな男だ。
常に微笑み、誰にでも丁寧に、上品に、優雅に――
自分で言うのもなんだが、“魔王城の色男”というイメージを守って生きてきた。
だが。
今日という日は、記録されるべきだろう。
私が――
キレた日として。
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「カイン、これ着て」
そう言って、女王様・リリス=カーミラ様が差し出したのは――
バニーガール衣装。
いや、待て。サイズおかしくない?
ていうかそもそも男性に着せるつもりで作ってませんよねこれ。
「わたくし思ったの。綺麗な男がバニーになると、そっちの趣味の方に刺さるんじゃないかって」
「理由として最低ランクに入る発言ですね」
「それでも着て?」
「丁寧に断る理由を用意してきますので、三日待ってください」
「……じゃあ今度、就寝中に着せておくわ」
「それ犯罪ですよね?」
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普段の私なら、苦笑してスルーするところだ。
だが、今朝からの流れはひどかった。
・ガルドに筋トレ用のダンベルを投げつけられる(誤投)
・ミロの実験で頭がカエルになる(10分間)
・ジョーカーの視線を感じて動悸が止まらない(姿は見えない)
・リリス様に「ちょっと黙ってるとインテリアみたいでいいわね」と言われる
……もう、限界だ。
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「よろしい」
私は立ち上がった。
静かに、優雅に、笑みを崩さず――
内なる怒りを解放する。
「──風よ、ささやけ。雷よ、踊れ。火よ、恋に堕ちろ。氷よ、涙を流せ……」
「わー、始まった。あれカインの“本気モード詠唱”じゃない?」
「でもセリフがポエムすぎるんだよな……」
「その辺が逆にこわいッス」
詠唱は続く。部屋が震える。カップが割れる。
リリス様は口にくわえていたお菓子を落とした。
「……あら、ちょっと、え、ほんとに怒ってる?」
私は、静かに杖を掲げた。
「我、愛と怒りを以って、天に問う。バカは燃えてもよいか?」
「問うな!! 燃やす気だコレ完全に!!」
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部屋が真っ白な光に包まれた。
次の瞬間、ガルドとミロリリス様が、服だけ焦がれていた。
※命に別状はありません。ギリギリです。
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その後。
私は、冷たい紅茶をゆっくり飲みながら、一言。
「今後、無断でコスプレを強要しようとした者には、愛の火球をぶつけますのでよろしく」
全員:「はい、すみませんでした」
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だが、リリス様だけは、懲りていないようだった。
「ねえ、でもその詠唱さ、めっちゃカッコよかったから、今度“朗読劇”やって?」
「それはやってもいいかもしれません」
「即答!?」
……私は穏やかな男だ。
ただ、火のつきどころを間違えないでいただきたい。