第8話「うさぎは跳ねる、首を刈る――魔王城 vs もふもふ獣!」
「かわいいからって油断すんなよ!! こいつら、噛みちぎるぞ!!」
俺の名はガルド=フェリオ。魔王軍クラブ担当、役職は『破壊と肉体の象徴』だ。
仕事は主に、ぶっ壊すことと、ついでに直すこと(たまに責任も)。
今日は朝から謎の“うさぎ型魔物”が魔王城の周囲に出没しているということで、対処に駆り出されたわけだが――
「ぴょん♪」
「ぴょん♪」
「ぴょぴょぴょぴょん♪」
お前ら可愛さでカムフラージュしすぎだろうが!!!!!
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ことの発端は、女王――リリス様がぽつりと呟いた一言だった。
「もふもふしたい……」
そして現れたのが、この見た目:白くて丸い、赤い目のフワッフワうさぎ魔物。
一見ためはただの癒し。しかし――
「おやつを持ってった下級悪魔、全滅したわ」
って、おい!!
⸻
「突撃ぃいいいっ!!」
俺は素手で立ち向かう。あえて武器は使わない! なぜなら――
「筋肉に勝る武器なし!! これが魔王軍流!!」
「ガルド様、それ魔王軍の方針じゃないです」
背後で冷静にツッコむのは、ダイヤのカイン。
彼は遠距離魔法でうさぎの行動を予測しつつ、あまりやる気を見せない。
「てか、あいつら何が怖いって、笑いながら噛みついてくるの、やめてほしい……」
「ぴょん♥(ガブ)」
「ぎゃあああ!! くちびる食われた!!」
「落ち着けカイン!! 今、俺の筋肉が!」
「効かないって言ってるでしょおおおお!!」
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そして、登場したのが我らが女王。
「うふふ、もふもふの山、できてるじゃないの。抱き枕にしたいわ~」
「やめてください、主に戦況が混乱します!!」
「え、なんで? かわいくない?」
「めちゃくちゃかわいいですけど殺意マシマシなんですあいつら!!!」
⸻
戦況が膠着する中、ミロが静かに現れた。
「……ふむ。彼ら、精神が“過剰に幸福”で麻痺していますね」
「幸福すぎて噛みつくって何!?」
「つまり、“現実”を思い出させてあげればいいんです」
「現実……?」
ミロが小さな瓶を取り出した。
「これは、“週明けの月曜日”の気配を凝縮した液体です」
「おいやめろそれ人間界最悪の呪いじゃねーか!!」
ミロが瓶を割ると、うさぎたちは一瞬で立ち止まり、顔が曇った。
「……ぴょん……月……会議……」
そのまま、自主的に地下洞窟へ帰っていった。
「……勝った?」
「勝ったな。筋肉以外で。」
「筋肉の敗北じゃあああああ!!!」
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事件は一応、終息。
俺の筋肉はあまり活躍しなかったが、女王がなぜか褒めてくれた。
「ガルド、今日も見てて楽しかったわ。特に、“唇を捧げる”ところとか」
「俺、今日という日を忘れねえ……」
俺の唇は、もふもふの犠牲となった。
だが、それも魔王軍の日常――つまり、最高の朝だ!