第7話「日常という名のカオス、朝礼始めます!」
午前7時。
――魔王城では、**“地獄の始業ベル”**が鳴る。
「おはようございます、皆さん。出席確認を始めます」
私はバルザック=グレイヴ。魔王軍スペード担当、総務・政務・朝礼進行・怒りの管理を一手に担う執務官だ。
今朝も容赦なく始まる“あの時間”に向けて、胃薬と共に机に立つ。
「クラブ、ガルド=フェリオ」
「オウッ! 朝の筋トレ100セット目ッス!」
「……出席。次、ダイヤ、カイン=ルジェ」
「寝癖が直らなかったので遅刻でいいですか?」
「出席と認めます。次、ハート、ミロ=エルフィス」
「皆さま、おはようございます。本日も精神的消耗に気をつけて参りましょう」
「……出席。ジョーカーは……」
一瞬、空気が張り詰めた。
私たちの中で、ジョーカーの存在を“なんとなく感じる”ようになったのは、つい最近だ。
女王様の部屋に誰かが入ろうとすると、音もなく消える。あまりにも自然に。
「……出席扱いにしておきます」
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「では、女王様――」
「まだ眠いわぁああああああああああああ!!!!」
出た。姫の寝起き叫び。
寝巻き姿の魔王・リリス様が、布団の塊のまま床を転がってきた。
“起きてはいるが、目は覚めていない”の典型。
「誰か……今日の朝礼、代わりに出といて?」
「ダメです。というか貴女が主催です」
「ええ~、ならカイン、代理して? 顔は整ってるし、声も聞きやすいし?」
「リリス様、それでサボる気満々でしょう」
「バレた?」
全員:バレバレです。
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「では、本日の日課確認に移ります」
私はホワイトボードを取り出す。書かれているのはこうだ:
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◆本日の日課(内容に悪意なし)
・鍛錬場修復作業(ガルドが昨日また壊した)
・地下書庫の片付け(詩集を燃やした者は誰ですか)
・精神ヒーリング講座(ミロ、今日こそ本気出して)
・女王様のおやつ会議(ケーキは1人3切れまで)
・城周囲の“人間界との裂け目”調査(出現したうさぎ型魔物が暴走中)
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「ケーキ、1人3切れ!? そんなの選べないわよ!! 7種類あるのよ!?」
「まず3以上あるのがおかしいです」
「バルザック、減給」
「喜んで」
我ながら悲しい返答だった。
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「ちなみに本日、外部から“人間界の勇者予備軍”が数名、視察に来るとのことです」
全員:「ええええええええええええええ!?」
ガルド「燃やすぞ!!」
カイン「いや、ちょっと待て、話を聞け」
ミロ「勇者……良い実験材料に」
リリス「うふふ、歓迎の“拷問接待”でも用意しておこうかしら」
バルザック「……この城、いつか訴えられますよ」
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朝礼は終わった。というか、いつものように収拾がつかなくなったので、打ち切った。
でもまあ、これが魔王城の日常だ。
混沌、喧騒、そして絶妙なバランスで成り立つ――絶望的に楽しい日々。
「……はぁ。今日も胃薬が手放せませんね」
それが私の、朝の決まり文句になって久しい。