表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

第6話「誰にも知られてはいけない存在――ジョーカー、目覚める」


誰にも知られてはならない。

気づかれてはならない。

声を出してはならない。


私は、魔王城の影。

存在しない存在。

名前さえ、今ここでようやく与えられた。


──ジョーカー。


それは女王、リリス=カーミラ様が私に与えた唯一の“証”。

他の配下たちは私の存在を知らない。知らなくていい。いや、知られてはいけない。


私はこの城の壁の中、天井裏、地下迷宮を這い、

リリス様の命令がない限り動かない。


動くときはただ一つ――


「ジョーカー。暇を持て余したから、そろそろ出てきて遊びなさい」


それが、目覚めの合図。



私が最初に受けた命令は、こうだった。


「わたくしの知らないところで、わたくしのことを知ってる奴は全部……消して?」


言葉は優しく、笑顔は甘く、でもその瞳には底のない狂気があった。


美しかった。

ぞっとするほど、魅力的だった。


だから私は、命令を忠実に守っている。


今日も誰かが、リリス様の部屋のドアの前で立ち止まった。

目的は不明。でも関係ない。


その瞬間、私は背後から現れて、消した。


一瞬の静寂。血の気配すら残さない処理。

笑顔のまま、私は影に戻る。


「よくやったわ、ジョーカー。さすが、わたくしのジョーカー」


その一言のためだけに、私は存在している。



リリス様の命令で、今日は「地下書庫の整理」も任された。

実際は、彼女が数百年放置した“黒歴史の記録”を片付けるだけだ。


・自作の詩集「わたくしの恋は五千年眠っている」

・百人一首のパロディ「魔王一首」

・幼少期の絵日記「おかしをたべた よるに しもべがふとった。おもしろい。」


……全部、愛おしい。


「リリス様は、世界で一番かわいい生き物ですね」


誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。



夜。リリス様の寝室。


天蓋のカーテン越しに、彼女の寝息が聞こえる。


私はその隣で、静かに座っている。姿を見せないまま。気づかれないまま。


けれど、彼女は小さく言った。


「……いるのでしょう? ジョーカー。おやすみなさい」


「……おやすみなさいませ、リリス様」


それが、私だけに向けられた、唯一の優しさ。



誰にも知られてはいけない。

誰にも気づかれてはいけない。

でも――もし、誰かがリリス様を傷つけようとしたら?


そのときは。

この“影”が、すべてを燃やしてでも守る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ