第19話「城内脱出大作戦! 休暇を求めた悪魔たちの休日(許されるかは別)」
魔王城のとある朝。
バルザック=グレイヴは、重たい書類の束を勢いよく机に叩きつけた。
「これは労働だ! 明確な、際限なき、無限地獄の労働だ!!!」
「……お疲れ様です」
「なあミロ! 俺たち、何日連続で働いてると思う!? もはや時間の感覚がないぞ!!」
「僕は数えるのをやめた。精神衛生上、よくない」
「同じだ!!」
そこに、控えめに声をかけるカイン=ルジェ。
「リリス様が“気分でスケジュール組んでる”のが一番の元凶だと思うんだよね……」
「昨日なんて“真夜中ピクニック”が始まったからな。あれはただの深夜徘徊だ」
「“魔王と星を見ながらエアバトル”……地味に危険だったよね……」
■というわけで、「休暇申請」
悪魔四人衆は一致団結し、
魔王リリスに“休暇願”を提出した。
しかも今回は、文書に正式な押印付き。
これはもう、正当な申請である。
「……なるほど」
リリスは書類を受け取り、ペラペラと目を通す。
「ふーん……カインは“温泉巡り”、バルザックは“森林浴”、
ガルドは“剣の修行(別名:ソロキャン)”、
ミロは“静かな部屋で死んだように寝たい”……と」
「いいよ、許可する♡」
「えっ!? マジで!?」
――その瞬間、全員の目が潤んだ。
「まさか、こんなにあっさりと……!」
「奇跡って、あるんだ……!」
だが、リリスは続けた。
「その代わり、わたしも一緒に行く♡」
「……あ?」
「全員、車(※魔獣馬車)に乗って出発だよ〜♪」
「いや、待って、これは“休暇”では……」
「“視察兼ねて”って言ったでしょ? わたしも、皆と一緒がいいの〜♡」
「ダメだこの女王、全然休ませる気がない!!」
⸻
■地獄の“共同休暇”
午前:リリス様の提案で、断崖絶壁ピクニック。
→ 「ここ、下見たら完全に死ぬぞ!?」「風強い!! 飛ぶ!!」
昼:魔王推薦の“癒やしスポット”→サボテンの谷。
→ 「触ると叫ぶサボテンってなんだよ!?」「俺のスネが針だらけだ!!」
午後:温泉……と思いきや“灼熱溶岩風呂”
→ 「死ぬって! これは煮える湯だって!!」「湯船から魔物出てきたぞ!?」
■唯一の救い:夜の焚き火
夜。ようやく、魔王城から離れた静かなキャンプ場。
そこに、静かに焚き火を囲む五人の姿があった。
「……やっぱ、こういう時間が一番落ち着くな」
「うん……マシュマロ焼こうか?」
「リリス様、焼くなら普通の味にしてください」
「えー、“悪魔のマシュマロ”だよ? 中身、ちょっとトゲが……」
「いやそれ、焼く前に審査すべきだろ!!」
でも。
笑い声がこぼれて、
火のゆらめきが、ほんの少し、心をほどいてくれる。
「……本当はね、みんながわたしと一緒にいるの、当たり前じゃないって知ってるの」
リリスが、ふとぽつりと呟いた。
「こうして一緒にいられるの、奇跡みたいなものだよね。
だから、何でもない日常が、一番愛おしいのかも」
バルザックは、火に薪をくべながら答えた。
「それでも、ついていく。俺たち全員、バカだからな」
「……それ、褒めてないよね?」
「褒めてる。バカなほど忠誠心が強い。貴女にはそれが、似合ってる」
カインとガルドが小さく笑い、
ミロはいつものように無言で、静かに湯気立つカップを差し出した。
「ありがとう、みんな」
その夜、魔王リリス=カーミラは――
初めて、本当に静かな夢を見たという。