第18話「忠誠とは何か――ハート、リリスの弱さに触れる」
「……ミロ、ちょっといい?」
「……」
(また“かわいいって言って”系か?)
「お願いがあるの」
(はい、絶対それ)
そう思いながら、僕はリリス様の私室へ足を運んだ。
部屋はいつになく静かで、
あの破滅的テンションも、いつもの笑顔も、どこか消えていた。
「……座って?」
リリス様が、ぽん、とソファを叩く。
僕は無言で従った。
「文化祭、楽しかった?」
「……まぁ、騒がしかった」
「ふふっ、ミロらしい答え」
静かな空気の中、リリス様が呟く。
「――ミロは、ずっと変わらないね」
「……変わる必要が?」
「ないよ。でも、時々……少しだけ不安になるの」
■リリスの「不安」
「わたしって、ほんとにバカな女王でしょ?
騒いで、騒がせて、やりたいことばっかりやって……」
「……否定は、しない」
「だよねー……ははっ」
そう言いながらも、彼女の目は、どこか寂しげだった。
「でもさ。誰もいない部屋でひとりきりになると、ふと考えるの。
“皆、本当はわたしに呆れてるんじゃないか”って」
……静かだった。
初めて見た、彼女の「弱さ」だった。
強くて、奔放で、何も恐れていないようなリリス様が、
こんなふうに「不安」だなんて。
「わたしは……寂しがり屋なのかなぁ、って思う」
■ミロの答え
「……そんなの、知らない」
僕は立ち上がった。
「だが、“貴女を放っておく”選択肢だけは、俺の中に存在しない」
リリス様が目を見開いた。
「忠誠心でも、義務でもない。
“貴女が、僕にとって意味がある”から、僕はここにいる」
一歩、近づく。
「リリス様がバカなら、僕はそれを正すだけ。
寂しいなら、隣にいればいい。笑っていたいなら、守ればいい」
そして、囁くように言った。
「――それが、僕の忠誠だ」
■リリスの涙
「……ずるいよ、ミロ」
涙を浮かべながら、彼女は微笑んだ。
「そういうこと、さらっと言うんだもん……」
「そうしろって、誰かに言われたわけじゃない。
でも、僕の中でそれが“当然”になっている。……いつの間にか」
「……ミロって、照れながらも口説くタイプだよね?」
「口説いてません」
「いや、口説いてたよ絶対! でも照れてるから否定するの、かわいい~♡」
「台無しだ……!」
■その夜、バルザックが叫んだ
「誰だ!! “ミロ、ちょっとカッコよかった”って言ったやつは!!」
(※録音魔法は常に作動している)
「お前ら感情ぶつけ合いすぎだろ……!」(クラブ、頭を抱える)
「ふふ、でもいい夜だったね♡」(カイン、カップケーキ作成中)
リリスは、窓辺で空を見ながら呟いた。
「ありがとう、ミロ。……今夜は、ちょっとだけ寂しくないや」