第16話「ダイヤ、誘惑に落ちる――禁断の料理“リリス飯”の罠」
「カイン〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
その声が聞こえた瞬間、
私は、今日の負けを悟った。
「なぁに、我らが破壊の魔王リリス様」
「破壊は余計。ねぇ、今からキッチン、貸してくんない?」
「…………それは、料理するという意味で?」
「うん♡」
「絶対やだ!!!!」
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■“リリス飯”とは?
それは、魔王リリス=カーミラ様が“思いつきで生み出す”料理である。
過去の一例を挙げるなら――
・「情熱のスライムカレー」
→ 赤く光るスライムを煮込んだ。カレーは跳ねた。床が溶けた。
・「ハート型の魔力クッキー」
→ 形は確かにハートだが、食べたミロが3日寝込んだ。
・「焼かないたこ焼き」
→ 材料だけ混ぜて、手のひらで“念”を込めた。生焼けの粘土球が完成した。
私? 私はかつて、
「試食してみて♡」と言われたリリス飯で口から火を吹いた男です。
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■今日の料理:「地獄のプリン」
「今日のテーマは“デザートで支配♡”よ!」
「まずそのテーマが狂ってる!」
「でね、プリンに使うのはこれ〜!」
そう言って彼女が取り出したのは――
・魔界カラメル(温度200度で発火)
・闇の卵(殻を割ると笑い声がする)
・ゼラチンの代わりに“魂の粘度”
「ねぇ女王様、固まらないからって、魂を使うのやめよ???」
「だって“とろける”ってそういうことでしょ?」
「違う。全然違う。そうじゃない。」
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■そして完成
不思議な工程(呪文の詠唱あり)を経て、
**“地獄のプリン”**が完成した。
見た目は――まぁ、普通のプリンっぽい。
ほんのり黒光りしてるが、これは魔界風味だろう。たぶん。
「はい、あーん♡」
「え、えっ、自分で食べないの?」
「これは試食係がいるからね♡ カイン、お願い♡」
「お断りだこの野郎!! ……あ、今の“野郎”は敬語です!」
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■だが、私は誘惑に負けた
目の前でぷるぷる震えるプリン。
リリス様が無邪気にスプーンを差し出す。
――ちょっとだけなら、死なないかも。
そう思った私は、
震える手でスプーンを取り――
ぱくっ。
……。
「……………………おいしい」
「でしょ〜〜〜〜〜!?!?!?!?」
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■禁断の一言
その瞬間。私は、魔王リリスに言ってしまった。
「…………リリス様。もう少し真面目に料理すれば、世界取れますよ」
「ねぇそれプロポーズ? それ、プロポーズ???」
「ちが――」
「え、じゃあ“わたしの味が一生忘れられない”って意味???」
「もう黙っててお願いだからッッ!!///」
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■それを聞いていた者たち
「……おい、いま“おいしい”って言ったぞ」
(風呂の順番に命かけるクラブ男・ガルド、険しい目で)
「料理番、寝返ったか……」(バルザック、刀の手入れを加速)
「お前もか、カイン……」(ミロ、静かに紅茶を口に運ぶ)
そしてリリス様は言った。
「うふふ、明日は“恋する闇鍋”作ろっか!」
「絶対にやめろおおおおおおお!!!!!」