第1話「女王業はやめられない!? 魔王城の朝は早い」
わたくしの名前は、リリス=カーミラ。
誰もが恐れ、誰もが跪き、誰もが見惚れる――この魔王城の主にして、淫魔族最強の女王。
今朝も目覚めると、天蓋付きベッドの上に、薔薇の花びらが舞い散っていた。
「……ミロの仕業ね。わたくしの寝起きを演出するために、香り付きの幻影まで飛ばすなんて」
眠たい目をこすりながら上体を起こすと、シルクのナイトドレスがはだけ、谷間がこれでもかと主張する。
ふふ、やっぱりわたくし、美しいわね。
とりあえず、今朝も窓辺でポーズを決めてみる。
腰をひねりつつ片脚をベッドから出して……はい、完璧。
「女王様、いつまでポージングしていらっしゃるのですか」
扉の向こうから聞こえる冷たい声。あら、もうバルザックが来たのね。
「ちょっとくらい女王の優雅な朝の時間を尊重なさいな」
「優雅な朝にしては、昨晩の書類が山積みです。あと、寝巻き姿で窓辺に立たないでください。下の庭から見えます」
あらやだ。見えちゃった? でもいいじゃない、目の保養でしょ?
「お望みなら、もう少しサービスしてあげてもよろしくてよ?」
「結構です。むしろ処罰対象です」
バルザックは冷静な顔でズカズカと入ってきて、わたくしのナイトドレスに外套をかけてきた。
つまらないわねぇ、ほんとに。
彼はスペードの席を預かる、魔王城の軍師。完璧主義で几帳面、しかも妙に潔癖。
わたくしの色香も三割引きになるほど真面目なのよ。
「では、女王様。まずは朝食の献立の承認、次に近隣の村からの苦情報告、さらに魔獣飼育場の爆発事故の件、そして最後に――」
「ねえバルザック、わたくし思うの」
「何でしょう?」
「女王って、もっとこう、優雅で、甘くて、チョコレートフォンデュのような存在じゃない?」
「チョコレートはともかく、女王業には現実というカカオの苦味がございます」
「例えが絶妙すぎるわね、悔しい……」
わたくしは渋々、玉座の間に移動する。フリフリのドレスに着替えて、髪には薔薇のアクセサリー。
これでこそ、魔王リリス。魅惑と支配の象徴。
「おはよう、我が忠実なる者たち」
扉が開かれると、すでに三人の部下たちが並んでいた。
筋肉バカなクラブ、セクシー詐欺師なダイヤ、癒し系毒舌なハート。
そして――
「……ジョーカー、来てないわね。まあ、彼はわたくし専属だから当然だけど」
今日も魔王城は、うるさくて、騒がしくて、けれど――愛おしい。
でも言っておくわ。
この魔王、リリス=カーミラにとって――
一番の敵は、書類の山と、服を着ろとうるさい部下たちよ!