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第15話 老若対峙

烈光が迸る。

通った後には裂け目だけが残り、そのはるか遠くでまた光が走る。

直視すれば目が潰れそうなほどの輝きが乱反射する軌道は、ある一点を必ず通過する。



燕弄斬(スワロウテイル)!!!」

「……!」


大剣の光が輝きを増し、瞬時に鋭角の軌跡を描く。

発生までコンマ数秒。それを最小限の体捌きで躱すと、教主はすれ違いざまに背後へ鞭を打つ。

直撃すれば肉を容易く切りさく音速の切っ先が無防備な背中に直進するが、やはり先ほどのように直撃せず弾かれる。

二射目を弾いた少年は垂直に飛び上がり、見上げるほどの高さから光を纏って教主目掛け飛び込んだ。

炸裂。巻き上がる土埃を少年が大剣の一振りで払うと、その足元は直径5mほどがえぐれて土が露出していた。

少年は剣を構え、遠くを睨む。

その視線の先には、今しがた狙ったはずの教主が埃一つ付いていない姿で悠然と立っていた。



(速い……!光翼のスピードを生身で見切るなんて……)



少年の額に冷や汗がにじむ。

初めてこの力を振るった時の高揚感は反転し、この力を以てしても拮抗まで届かない力量差を身につまされる。

しかし、相対する老爺も余裕があるというわけではなかった。



(やはり私の知らない力……。ただの少年が何故……?)



教主にとって、世界の全ては既知であらねばならない。

でなければ教導の主を名乗ることなどできず、教会という巨大な組織を率いることも不可能である。

故に、彼にとって『未知』とは、その全力を挙げて解明するべき対象である。



(観察し()ろ。紐解()け。全霊を傾け奴を(たお)せ)



真っ直ぐ突っ込む殺意をいなしながら、得られる情報の解析を進める。

光を纏った斬撃は理不尽とも言える攻撃範囲と威力を両立し、発動のタメもほとんど無い。

紙一重で躱しても余波が皮膚を焼き、かき乱された空気が渦となり体制を崩す。

唯一隙らしい隙と言えるのは少年の大振りな動き。

しかしそこを付いたとしても、常時あふれ出す光によって有効打を与えることができない。

鞭の切先が切り落とされ、ローブは裂創や余波の熱で見る影もない。

戦況は明らかに劣勢。だが、老爺の目から輝きは失われてはいなかった。



(……単純な物理攻撃は効き目が薄い。だが、物理的干渉の全てを弾くというわけでもないはず───)


漁皇一閃(キングフィッシャー)!!!」


またも直上から飛び込んでくる光芒を、役に立たなくなった鞭を投げ捨てながら飛び退き躱す。

返す刀で、舞い上がる土埃の幕を裂きながら大剣の切先が迫り───


次の瞬間少年が見たのは、自分の視界の半分を埋め尽くさんとするほどに輝く大輪の月だった。



「…………は?」



大きな見える月が小さくなり、遅れて感じる浮遊感、すなわち重力を感じてようやく、自らが落下していることを少年は察知した。

体を捻り、迫る大地を見据えて体に力を込めると、再び視界に黄金の光が満ちる。

速度を増す視界。瞬間迫る草原に着地し、滑走しながら敵の姿を探す。

何が起こったのか、奴は何処へ行ったのか、彼の焦りと共に光の翼もその輝きを増す。



「どこに───!」



勇者の眼には光も闇も無い。暗闇の彼方を見通し、極光に視界が眩みなどしない。

にも関わらず、刹那の間、彼は教主の姿を完全に見失っていた。

焦る。たった一瞬で理解の範疇を遥か遠く飛び越えられた。

絶対の防御と無二の速度を両立するこの光の翼に追いつくのみならず、攻略するなんて───



「防御は反射的で肉体の感覚とはリンクしない。加えて、明確な攻撃と見なせないものは自動では弾かないのか」

「───っ!?」



声。

それは耳元から響く。

全身が総毛立ち、反射的に振るった剣は空を切った。

振り返れば、着地して首を回すその姿が目に入る。

ローブを脱ぎ捨て、黒いインナーのみを纏う、年齢からは考えられないほど絞りこまれた肉体がそこにはあった。



「───()()()。コツはいるが」

「……なんなんだ。なんなんだ、お前はァアアッ!!!!」

「さて……」



老爺は、緩く構えを取る。



「お前のことを、もっと教えてもらおうか」

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