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プロローグ
悪人と呼ばれる人間が、いつの時代にもいる。
ところがどうも、形態を問わずあらゆる物語において現代の物書きというのは『悪人』を『悪人』らしく書きたがらないエゴに囚われているように思う。
最後に明かされる真相。それは得てして『悪人』への同情を誘うものに終始するのだ。
これは違うだろう。
『悪人』は、ただただ『悪人』なのだ。
例えば、多額の金を騙し取った男がいたとする。事件解決にあたっては『悪人』となるその人物も、実は難病を患った娘がいて、彼女を救うには莫大な金が必要だった。だからこの事件を起こした。犯罪に手を染めた。
別に例え話は何でもいい。誰かを守るために人を殺めたとか、誰かを救うために盗みをしたとか。
だが、こんな悪人はフィクションの中にしか存在しない。
現実に棲まう『悪人』とは、誰かへの優しさなど微塵も持ち合わせていない。唯一己の私欲に固執し、その妄執によってやがて身を滅ぼす。
本当の『悪人』とは、そういった人間のことを指すのだ。
俺は、それを思い知った。