小さな怪物
外に遊びに行こうとする子どもを母親が呼び止めた。
「最近、この近くにも例の怪物が現れたらしいの。見慣れない生き物がいたら気を付けるんですよ」
母親の言葉を聞いている子どもは早く遊びに行きたいのか、焦れたように足を踏み鳴らしながら「でも」と声をあげる。
「その怪物はちっちゃいんだろ? なら踏み潰しちゃえば平気だよ!」
「そうもいきませんよ。怪物たちはたしかに小さいけれど、たくさんいるんです。それに硬い肌を持つものや鋭いトゲを持つもの、毒を持つもの、魔法を使うものまでいるんです」
その言葉に子どもは首を傾げて、でも小さいんでしょ? とさらに言った。母親はそんな子どものまだ柔らかい肌を優しく撫でると、いくら小さくても傷が付けば痛いですよと言う。
そして、真面目な声で言った。
「奴らは小さく、弱いからと油断して私たちの一族は何体も殺されました。私たちがこんな険しい山で暮らすようになったのも、奴らが増えたからです。だから、人間には気を付けるんですよ」
母親の必死さが通じたのか、その言葉に子どもは頷く。そして翼を大きく広げると空へと飛び立った。
母親はその背を見守りながら、子どもが無事に帰ってきますようにと龍の神へと祈った。
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