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私が異世界へ転移したのは十六歳の時だった。私を育ててくれた大好きなおばあちゃんが亡くなって心にポッカリ大きな穴があいていた。学校にも馴染めなかった私を優しく見守ってくれたおばあちゃん。この世界に私を必要としてくれる人はもういないのではないか、消えてしまいたい、なんなら最近読んだ漫画みたいに異世界へ転生してみたい。そんなことを考えてフラフラと踏切に近づいていると急に目の前が光り、目を開いた時にはこの世界へ転移していた。


「貴女が聖女ユーナか。会えて嬉しいよ」


見たことがないくらいキラキラしたイケメンが私の手を恭しく取る。なんとこの国の王子だという。本物だ。本物の王子様だ。頼りない私をいつもフォローしてくれて安心させてくれる彼を好きになるのに時間はかからなかった。そんな中、彼ウィリアムの婚約者を紹介される。金色の波打つ豊かな髪、そして燃えるような赤い瞳。リュシエンヌ様は驚くほどの美人で、笑みを浮かべて私に挨拶をしてくれたが目の奥は笑っていなかった。怖い。純粋にそう思った。


「ウィリアムにあんな美人な婚約者がいるなんてビックリしたよ。…王子様なんだもん、婚約者もいるよね。ねえ、婚約者がいるなら呼び捨てにしたり一緒に出掛けたりするのは駄目だって言われたの。悲しいけど、私たち一緒に居られないんだよね…」

「ユーナ…」


涙をひとつ溢してウィリアムから距離を取った。だけど正直にいうと離れる気なんてなかった。私は聖女でこの世界に必要な人で、きっとヒロインで、私の願いは叶えられるはずだから。案の定ウィリアムは私が頑なになればなるほど私を追いかけてくれた。私が不安にならないようにリュシエンヌ様の前でも私との仲の良さを見せていたし私と結婚できるように動いてくれた。それに何度か一緒に寝た。いけないことだとは分かっていたけれど、私たちの前では背徳感すら媚薬となった。


私はこの世界になかった老人ホームを提案したりした。偉い人たちが褒めてくれたり“高齢者の園”として施設が実現されて私は活躍していた。

でも今なら分かる。確かに提案したのは私だけどこの世界の現実に落とし込んだのは周りの人たちだ。私は今後来るだろう災厄の時に力を発揮してもらわないといけないから機嫌を取って大事にされていただけ。あの頃は何も分かっていなかった。

いよいよウィリアムと私の結婚が承認されることになった時も私の心の中にあったのは優越感だけだった。


「なんだかリュシエンヌ様に悪いな」

「心配しなくてもいい。私が愛しているのはユーナだけだ」

「ウィリアム…嬉しい。でもリュシエンヌ様にも優しくしてあげてね」


この頃にはイケメン王子に言い寄られるヒロインである私に酔いしれていたし、リュシエンヌ様のことは恋のスパイス程度にしか考えていなかった。それどころかいつかリュシエンヌ様とも友人になれるとすら考えていた。ここは異世界という名の現実で、リュシエンヌ様が何を考えているか、ウィリアムと結婚するということはどういうことか、何も分かっていなかったのだ。


「魔王が召喚されました!聖女様、どうぞお力添えを!」

「まさかリュシエンヌ様が災厄を起こすとは!」


リュシエンヌ様が魔王を召喚したと聞いて私は妙な高揚感に包まれていた。


『やっぱり私がヒロインなんだ!リュシエンヌ様は悪役令嬢ね!』


ウィリアムと一緒に魔王と対峙する。ウィリアムは聖剣と呼ばれる大きな剣を携えていて真剣な表情をしていた。私は水晶のようなものを持たされたが何をして良いのかサッパリ分からない。きっとウィリアムが守ってくれるだろう。魔王もとんでもなくイケメンだったが既に苦しそうだったし簡単に倒せそう。そう思っていると魔王が何かを唱えた。次の瞬間、私の首が絞まった。え?苦しい。隣を見るとウィリアムも苦しそうにしている。手で首を絞めているものを取ろうとするが何もない。持っていた水晶が床に転がる。苦しい、苦しい!このままでは死んでしまう!なぜ?私はヒロインなのに!!!そう思った瞬間、私は光に包まれる。死んでしまったのか、そう思った私の目の前に白い光に包まれた何かが現れる。神様だろうか。


“ 哀れな異世界の者よ。お前には一度だけ加護の力を与えている。今こそ我が名を唱えよ、イリスと”


次の瞬間には苦しい現実に戻っていた。神様の名前を唱えたいのに苦しくて声が出せない。このままでは本当に死んでしまう!!そう思った時、私の首を絞めていた何かが無くなった。床に倒れ込み何とか周りを確認するとウィリアムが聖剣で魔王を切りつけるのが見えた。魔王が苦しんでいる。


「この世界は私が守る!!」


そう言ってもう一度魔王に向かっていったウィリアムは魔王から伸びてきた尻尾のようなもので弾かれ壁に激突する。魔王は苦しそうに立ち上がるとウィリアムを見て目を細めた。


「ほう、うっすらだが俺の魔力の欠片を感じる。お前も俺の子孫か。()()()()()()()からも俺の魔力を感じたが、二人も子孫に会えるとはな。まあ、お前よりも先ほどの女の方がよっぽど強く魔力を発現しているようだったが。さて、先ほどは油断してしまったがこんな粗末な剣では俺を倒せない。お前たち、覚悟するが良い」


ぶつぶつと呟いていた魔王の尻尾がウィリアムに巻き付き締め上げる。苦し気なウィリアムを見てハッと我に返った私は叫んだ。


「助けて!!イリス!!」


次の瞬間、目が開けられないほどの光が発生し魔王の叫び声が聞こえる。目を開けるとそこには魔王の姿はなく床に転がっていた水晶がどす黒くなっていた。


「ユーナ!大丈夫か!」


解放されたウィリアムは這いずりながらこちらへ来る。私は腰が抜けたのか動けない。


「ど、どうなったの?」

「ユーナ、君の聖なる力で魔王を封印したのだ。ありがとう。この世界を救ってくれて…」


その後、魔王を封印し世界を救った私たちは英雄と聖女としてみんなに感謝された。魔王を召喚したリュシエンヌ様は古代魔法で力を使い果たし倒れていたところを取り押さえられたらしい。そして処刑が決まった。


「しょ、処刑?何も殺さなくても…ウィリアム、何とかならないの?」

「ユーナ、私もできればリュシエンヌを助けたい。従妹として幼いころから一緒に育ってきた。彼女の魔法は世界一と言われているし政ごとにも明るい。しかし災厄ともたらした罪は重い…。仕方のないことなのだ」

「そんな…」


私が何を言おうとも結局リュシエンヌ様は処刑されてしまった。しかもその様子を遠くからではあるが見届けなければならなかった。その光景は一生忘れる事はできないだろう。目の前で人が殺された。私がこの世界に来なければリュシエンヌ様は災厄など起こさなかったのでは、一歩間違えていたら自分があちら側だったのでは、リュシエンヌ様は絶対に私を恨んでいる…。私は我慢できずに嘔吐した。これは現実だ。ここが現実だ。私はそのまま意識を手放した。


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