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遅くなってすみません!


水晶の中の空間は簡素だが必要な物は揃っており居心地が良さそうだ。


「リュシー?お前、知っているぞ。最近俺を召喚した女だな?」

「最近?もう十五年も前のことよ」

「ハンッ、十五年なんて俺にしたら最近さ。あの時は固い床の上で寝ていたら急に召喚されて身体が痛かったんだ。油断したぜ。それにお前は俺の子孫だからよく覚えている。子には全く発現しなかった俺の力をお前はよく受け継いでいるようだ」

「あら私、貴方の子孫だったの?嫌だわ」

「失礼な奴だな。まあ良い。丁度良かった。俺は魔力を封じられているし暇で自分史を作っていたんだが読んでくれる人がいないとつまらない。お前、読んでみろ」

「フフっ、自分史ですって。やっぱり過去の栄光に縋る駄目な男だわ。この男に未来などない」

「うるさいぞ。俺だって何百年と魔王をやってきて疲れているんだ。全盛期なんぞ神殺しに加担させられたりして大変だった。少しくらい休ませろ。いいから、さあ読め」

「読めと言われてもホログラムですから手に取れませんのよ」

「なんだと。それじゃあ朗読してやる」

「本当に暇ですのね。あいにく私は暇ではありませんので。そうねえ、私と貴方の繋がりだけご教授いただける?」

「お前との繋がりか…じゃあ最近のことだから自分史第十巻あたりだな。ちょっと待っとけよ。ああ、あったこれだ。…いざ読むとなったら恥ずかしいな」

「では読んでいただかなくて結構です。では」

「まてまてまて!読む!読ませてくれ!」

「さっさとしていただけます?」

「えー。ごほん。俺には好きな女がいました。亜麻色の美しい髪と翡翠のような瞳の女です。魔王であることを隠し一人の人間として近づきました。彼女は紅茶が好きだったので魔国でしか採れない植物で作った紅茶を贈り、仲を深めました。しかし彼女は時の王妃に選ばれました」

「これは初等学院の子どもによる作文ですの?聞くに堪えませんわ」

「おいまだ三行しか読んでいないぞ」

「要約してくださいな」

「気の短い女だな。まあ良い。要約するとだな、俺は好きな女とは結ばれなかった。しかし時の王は世継ぎが生まれないことを彼女の責として女豹を側妃に迎えた。寵愛を得られぬ王妃として虐げられる彼女を迎えに行ったが責務があると追い返されてな。それを知った側妃が俺を誘ったんだ。私の方が魅力的だと。バカバカしいと思ったが俺は誘われたら断らない性分なんでね。それで出来た子どもは双子で一人が次の国王に、一人は公爵となった。魔族と人間の子は多くが人間に近くなる。しかも俺ほど高い魔力だと耐えきれないのか、子どもたちはほとんど魔力を持たず容姿も俺には全く似なかったようだ。その国王となった子の息子、つまり俺の孫が俺を封印した英雄だろう。なかなか勇敢に立ち向かってきたぞ。そして公爵の子がお前か?なぜかお前には俺の力が強く発現したようだ。よくその人間の身体で耐えられたものだ。普通は精神的にも肉体的にもおかしくなっても不思議じゃない」

「つまり貴方は私の実の祖父であると?」

「まあそういうことになるな」

「では、おじい様、一つ伺いたいのだけれど、その好きだった女性はどうなりましたの?」

「おじい様だと?俺のことか?」

「そうに決まっているでしょう。()()()と呼んだ方が良くて?」

「なんて可愛げのない孫だ。やめろ、俺は人間のように簡単に老けない」

「ごちゃごちゃとうるさいですわ、じじい。それで?女性は?」

「この小娘が。…彼女は死んだ。世継ぎを成した側妃に煽られて双子に手を出そうとしたらしいが実際のところは分からない」

「その女性の名は?」

「マザリーヌ。もう一度会えるなら会いたい」

「…その女性に心当たりがあります。その願い、レンタル悪役令嬢(ラスボス級)の私が叶えて差し上げましょうか」

「なんだと。そんなことができるのか」

「ですがお布施をいただかなくては。平たく言うと対価です。そうねえ、魔王の座を譲るとか」

「魔王の座をお前に?ハハッ笑わせるな。譲ったとて幹部が許さない。それにお前は人間。寿命が短すぎる」

「あら、幹部ってヴィロのこと?ヴィロ、聞こえている?見たでしょう。過去に縋るこの男に未来などないわ。貴方が許せば私に魔王の座を譲ってくれるそうよ。どうする?」

「ヴィロだと?どこにいる」

「ヴィロが今回の依頼人なのよ。“ホログラム”」


魔王のホログラムの対面にヴィロのホログラムが現れる。


「魔王様、お話は聞かせていただきました。私たち幹部が貴方様の復活を願い人間界で努力していた間に自分史を十冊も…」

「ヴィロ、いや違うんだ。これを機に少しくらい休ませてもらおうかと…」

「休む?ここ五十年ほどは好きな女性との交流が忙しいと執務を全て私に任せ、鍛錬もせず堕落した生活を送っておいて何が忙しかったのですか」

「いや、ほら、恋はするものじゃなくて墜ちるものって言うし…」

「リュシー様、私が間違っておりました。我が名はディアヴォロス。貴女に忠誠を誓います」

「ヴィロ!お前!裏切るのか!」

「うるさいですわ、じじい。貴方の求めるマザリーヌの今世はマザーと言う名です。今でも彼女は紅茶が好きですわ。魔王の座を譲り彼女と過ごしてはいかが?そのために私の寿命を何とかしてくださいね。魔王といえば相手から寿命を奪ったりできるのでしょう?それを応用して貴方の寿命を私に授ければ良いのではなくて?マザーと同じ速度で老いて死を迎える。貴方が望むことでしょう」

「無茶苦茶言うな。無理だ」

「頭の固いじじいですわね。“幻術”」

「なんだ?俺に幻術など効くものか」

「あら残念。貴方が思い描くマザーとの未来を見せてあげようと思いましたのに。ではこちらで。“投影”」


魔王のホログラムの前にマザーの映像が映る。


「おお!俺の愛しのマザリーヌ!」

「私の寿命、なんとかなりますわよね?」

「…できないこともない」

「フフッ、では先払いで。私の寿命と貴方の力の抑制を以てして貴方の依頼を遂行して差し上げますわ、おじい様」

「…分かった」


リュシーは笑顔で魔王とヴィロのホログラムを解除する。


「マザーが貴方に靡くかは分かりませんけれど。せいぜい頑張ってくださいな、おじい様」


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