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王立学園の特待生

「ルリー。この髪色は目立つから魔力で染めておこうね?」


「目の色も魔法の眼鏡で隠して、この可愛さも認識阻害のネックレスでわからないようにしておかないと」


「かわいいかわいいルリー。誘拐されないように、大切に育てないと」



 念願の女児として末の娘に生まれた少女は、4人の兄と両親にそれはそれは溺愛して育てられました。









***


 ついに学園へ入学する日。


「僕のルリー! スカート短すぎる!」


「私のルリー、認識を阻害するネックレスをつけているのに、この美しさ……拐われてしまわないか、心配でたまらないよ」


「やっぱり、馬車で送ろうか?」


「もう! お兄たち。学園までは徒歩3分! 一緒に登校すると目立つから別々に登校するし、一人で歩いて通います! 学園内でも他人として過ごすこと!」


「「ルリー」」


 学園の先輩でもある兄二人は、残念そうに先に学園に向かいました。



 今日から始まる学園生活。もしかしたら、初めてのお友達ができるかも!














***


「先輩方、先生方。わたくしたち152名は、今日という日に、この映えある王立学園の一生徒となれること、大変嬉しく思います。これから、わたくしたち……。新入生代表、ルリアンヌ」





「今年の新入生挨拶は、平民の特待生か」

「この貴族しか通えない王立学園に、成績上位なら平民も通えるのっておかしいよな」

「まぁ、平民は家名がないからわかりやすくていいよな」

「上の代の平民の特待生はめちゃくちゃ美人らしいぞ」

「今年の特待生は地味だよな、損した気分」












***


 期待に胸膨らませながら、ドキドキとうるさい心音を落ち着かせて、教室の扉を開きます。わたくしのお友達第一号はこの教室にいるのかしら? いや、もしかしたら、お友達第三十号くらいまでこの教室に……。


 緊張しながら扉を開けると、一斉に視線がこちらに向きました。思わず緊張してしまいますが、胸を張り、席を探します。



「わたくし、ルリアンヌと申します。お隣の方? よろしくお願いします」


 そう挨拶すると、隣の席の少年は、ぶっきらぼうに名乗ってくださいました。


「……マーシャ・タンダルト。よろしく」


 そうして、手にしていた本に目線を戻してしまいます。


「もう! マーシャ。そんなんじゃ友達できないよ?」


 さらに隣の少女が、マーシャと名乗った少年の肩を叩きながら、声をかけてきました。


「あたし、ハイリア・キシャー。一応貴族だけど、辺境にある子爵家なの」


「わたくし、ルリアンヌと申します。キシャー子爵領と言えば、名産の魚の干物。わたくし、大好きですわ。タンダルト辺境伯領はお隣ですものね。お二人は幼馴染ですの? 羨ましいです」


「そうなの! ハイリアって呼んで! あたしもルリアンヌって呼んでもいい?」


「わたくしの家族はわたくしのことをルリーと呼びますわ。是非、ルリーとお呼びください」


「わぁ! ありがとう、よろしく、ルリー」


「……ルリー、は、知り合いいないの?」


 ハイリアと手を握り合っていると、本から顔を上げたマーシャが問いかけてきました。


「えぇ。……わたくしもマーシャと呼んでよろしくて?」


 こくり、と頷き、許可がとれたのでマーシャと呼ぶことにします。


「わたくし、家族が過保護で……今までほとんど家から出たことがなく、同世代だと兄弟としか関わったことがありませんの」


「兄弟? ルリーには、兄弟がいるの?」


「えぇ。兄が4人いますわ」


「それは可愛がられてそう!」


「兄たちに聞いて、学園生活をとても楽しみにしていたのです」


「お兄様たちもこの学園に入学できたの?」


「えぇ」


「兄弟全員、成績優秀なんだね」


「そうなんです。お兄たち……兄たちが優秀すぎて妹も必死ですわ」


 わたくしの言葉にハイリアは笑います。


「ルリーなんて首席で挨拶まで任されてるじゃん! すごいよ!」


「ありがとうございます」



 出だしは好調に友達二人を手に入れたわたくしの学園生活が、あんなにも大変なものになるなんてわたくしも予想していませんでした。












***


「おい、平民」

「おい、呼んでるのに、無視するなよ!」


 一人で廊下を歩いていると、別クラスの生徒に声をかけられ、強引に肩を掴まれました。成績順にクラスが分かれているため、別のクラスの生徒とはあまり関わりがありません。


「わたくしを呼んでいらしたのですか? わたくしには、ルリアンヌという名前があります。それに」


「ごちゃごちゃうっせーな! 平民なら平民らしく貴族を敬えよ」

「そうだ! 平民のくせに、首席なんて生意気だぞ」


「……この国には身分制度はありますが、民は等しく大切なものだと学びませんでしたか? それに、貴族ならば、貴族としての責務を果たしてから、身分を用いるべきではないのですか? そもそも、今はあくまで子供の身であるので、貴族も平民も身分は平等になるはずですが……」


「うっせーな!」


 一人の男子生徒がイラついた様子で、手をふりあげました。学生同士のトラブルといえども手を出したら退学処分になる可能性も否定できません。仕方ありません、殴られておきますか。

 来たるべき衝撃に備えていると、後ろから突然引っ張られ、男子生徒の拳を受け止められました。



「……今年の新入生はやんちゃな子が多いのかな? か弱い女子生徒になんてことをしているの?」


「……り、リチャード殿下!」


 優しく抱き止められ、バシンと言う音が響きます。わたくしはそっと立たせられます。

 そんな殿下の姿に周囲から叫び声が上がります。


「大丈夫? 怪我はない? すぐに医務室に連れて行ってあげるからね」


 受け止めた拳を振り払う殿下に、真っ青な顔をした男子生徒たち。


「いえ、殿下。怪我はございませんし、問題ありません。殿下もお怪我はございませんか?」


「心配してくれて、ありがとう。鍛えているからね。大丈夫だよ。君の名前は?」


「ルリアンヌと申します。では、次の授業の開始時間があるので、教室に戻ります。庇ってくださり、ありがとうございます」


 静かに頭を下げると、リチャード殿下は男子生徒の名前を聞き出し、教師に報告するように従者に伝えていました。心配そうなリチャード殿下の視線を横目に教室へと急ぎます。授業に遅れると、減点されてしまうのです。成績首位をキープしたいわたくしにとって、それは大問題です。












***


「あぁ、君が噂の今年の首席だね。リチャードに聞いたけど、さっきは大変だったんだって?」


 次の時間の休み時間に、スチュワート殿下が教室にやってきました。叫び声をあげている女子生徒たち、それ、逆に不敬になりかねませんよね?


「スチュワート殿下。心配してくださり、ありがとうございます。怪我もありませんし、問題ありません」


「怪我がないならよかった。そうそう、暴力沙汰を起こした生徒たちは、退学処分になるから」


「……厳しすぎませんか? せめて、謹慎では?」


リチャード(王族)が殴られているからね……これでも優しい処分の方だよ」


「まぁそうですね……」


 貴族の子女が王立学園を卒業できないという意味は、平民に下るという意味になります。逆に平民が王立学園を卒業すると、王宮で働くことができます。宰相だって目指せるのです。貴族制度はあるものの、平民ものし上がる機会のある我が国なのです。わたくしも、身分的には難しいと思いますが、史上初の女性宰相を目指せるように成績首位をキープしようと頑張っているのです。


「じゃあまたね」


 そう言ってスチュワート殿下は去っていきました。




 その次のお昼休みの時間も、リチャード殿下を連れてスチュワート殿下はやってきましたが。



「ねぇ、ルリー。教室の入り口から殿下たちが見てるけど、ルリーに用事があるんじゃない?」


「そんなことないと思います。わたくしも一緒にランチに行ってもいいですか?」


「あたしはいいけど……」


「マーシャはいかがですか?」


「僕もいい……」


 ハイリアはちらちらと入り口を見つめながら、挙動不審にしています。その横でわたくしはさっさと荷物を片付けます。お忙しい殿下たちが、わたくしに用事なんてあるはずありません。さぁ、食堂に参りましょう。


 ワクワクしながら、教室を出ようとすると殿下たちに声をかけられました。


「ねぇ、ルリアンヌ嬢。僕と一緒にランチに行かない?」


「おい、ずるいぞ。リチャード。いやいや、私と行くよね?」


「……友人と約束しておりますので」


「る、ルリー。あたしたちは別に、」


 先に歩くマーシャのカバンに掴まって逃げ出そうとするハイリアの腕をしっかりと掴んで、わたくしは殿下たちのお誘いをお断りします。


「……新入生の友達作りを邪魔せず、お二人で食べたらいかがですか? では」


 わたくしに言われて見つめ合う二人は、諦めて二人で食べに行くことにしたようで、後ろからトボトボとついてきました。確かに食堂に行くにはこの道を通るしかありません。



「る、ルリー。いいの?」


「何がですか? あ、何ランチにするか悩んでいるんですか? わたくし、Bランチにしましょうか……」


「……僕、Aランチ」


「あ、マーシャはAランチですか?」


 わたくしがマーシャと呼んだ瞬間、後ろからついてきていた殿下たちの空気がなぜか変わり、ハイリアがひぃっと情けない叫び声を上げました。


「ハイリア、決めた?」


「な、なんであなたたち平気なの? 何も感じないの? もういいわ、私もBランチで!」


 わたくしたちが注文し終わったあと、殿下たちはBランチを選び、わたくしたちをチラチラと見ながら王族専用エリアへと入っていきました。


「うーん。兄たちに聞いて、楽しみにしていたんです。Aランチも食べたかったのですが……」


「……一口、いる?」


「まぁ、マーシャ。いいんですか? ありがとうございます!」


「ひいい、マーシャ。殺されるよ? 存在を抹消されるよ? いいの?」


 震え上がるハイリアを横目にわたくしは、マーシャのAランチを一口もらい、お礼にわたくしのBランチをマーシャに差し出しました。


「もふ、まーひゃも、たべまふ?」


「……もらう。Bも気になってた」


「もうー! 知らないよ? あたしは関係ないからね? マーシャ、人の恋を邪魔したら殺されるよ……」


 王族専用エリアの窓に張り付いて、こちらを見つめている殿下たちを見て、ハイリアは怯えきっていました。











***


「あの子よ、あの子」

「……どこがいいのかしら?」

「完璧な殿下たちも、女性の趣味は少し変わっているのね」

「素敵なのは、名前だけよね」

「平民のくせに王女殿下にあやかって名前をつけるなんて……本当失礼だわ」



 それから、廊下を歩くたびに指を指されるようになりました。


 その時期に殿下たちがわたくしのことを“ルリー”と呼び始めたから、それも原因の一つでしょう。


「ねぇ、見て。あの子よ」


「くすくす。平民でもほとんどが使う、乗合の馬車すら使わないなんて……そんなにも貧しいのね」


 わたくしの家は、学園の門から徒歩3分の距離にあるので、馬車を使っていないだけですのに……。まぁ、害はないから放っておきましょう。わたくしがこんな目に遭っていると知ったら両親とお兄たちが大騒ぎをするから、周囲への口止めだけはしっかりしておかないと……。










***


「ちょっとそこのあなた。殿下たちにも失礼だと思わない? まとわりつくのをやめなさいよ」

「それに、平民のくせに王女殿下にあやかっている名前っていうことも失礼だわ」

「地味なのに名前だけでも、お美しい王女殿下を真似るなんて……」




「……どちらかというと、わたくしは付き纏われているのではないでしょうか? それに、名前は自由につけて許されます。あなたたちにとやかく言われる筋合いもありませんし、あなたこそ、あやかって名前をつけて失礼ではありませんか? というか、王女殿下にお会いしたことがあるのですか?」



「な、なによ! 無礼な! 王女殿下にお会いしたことある方は限られた一部の家の当主のみよ! でも、あんなにもお美しい皆様のご家族なのですもの。あなたと違って、お美しいに決まっているじゃない」




 王女は一般へのお披露目はまだである。姿を見たことあるものもいるが、王族特有の銀髪にこれまた特有の翡翠色の瞳が美しいと噂される。それでも、愛される王女の名前にあやかる国民は多く、それも不敬とはされず敬意の表れだと認識されている。そのため、“ルリアンヌ”という名前は平民・貴族問わずに多いのだ。



「失礼ね!」

「そうよ! 身分を弁えなさい!」


 そう言って軽く押されそうになりました。その腕を止めるように抑える人が。


「……学園は平等、だろ?」


「まぁ! 誰かと思えばタンダルト辺境伯令息じゃない。田舎くさいわ」


 マーシャは気にしていませんが、くすくすと笑う姿に、思わず怒りが込み上げます。


「お黙りなさい! タンダルト辺境伯が我が国の国防の要と知っての発言ですか? タンダルト辺境伯の尽力がなければ、今頃我が国は隣国に蹂躙されていたのですよ!」


 タンダルト辺境伯の手腕や重要性、それを理解もしない小娘たちが、なんという発言をするのでしょう。許せません。


「な、なによ突然」

「き、貴族に向かって失礼だわ!」

「それに田舎者に向かって田舎者って言って何が悪いの?」


 尚も反省しない者たちの態度に、怒りで魔力の風が吹き荒れます。……落ち着かないと、いえ、この者たちに罰を与えることが先でしょうか……。わたくしの大切なお友達マーシャに対して、タンダルト辺境伯に対して、失礼な……。


「ルリー!」


「……リチャード殿下……」


 後ろから誰かに抱きしめられたと思ったら、リチャード殿下でした。温かい体温に少し落ち着きを取り戻せそうです。


「ルリー、落ち着け。法で裁かれていない民を傷つけては、ダメだ」


「……でも、この方達はマーシャを、タンダルト辺境伯を愚弄したのですよ?」


「……気にしてない。それよりも、ルリー。魔法具壊れてるし、魔法も外れてる」


「え?」


 そう言われて、慌てて髪を触るとよくいる金髪が光り輝く銀髪へと変わっていきました。


「あ……」


 思わずお兄……殿下たちを見ると、静かに首を振られました。仕方ありません。壊れた眼鏡とネックレスを胸元のポケットにしまいます。さぁ、身分を笠に着る時間です。



「はじめまして、皆様。わたくし、我が国の第一王女のルリアンヌと申します。以後、お見知り置きを」


 お兄たちから一歩離れ、軽くカーテシーをしながら周りを見渡すと、ぽかーんという空気が漂っています。



「ルリー、手を貸してごらん? 教室まで案内しよう」


「ダメだよ。リチャードとなんか行かないで。スチュワートお兄様と一緒に行こうね?」


「いえ、お兄たち。結構です。わたくし、マーシャと一緒に教室に戻ります。マーシャ、いきましょう? ……あぁ、お兄たち。王族への無礼な態度、指導しておいてくださる?」


「もちろん!」

「僕らの可愛いルリーに暴言を吐くなんて、許せないよ! 任せておいて!」


 生き生きと女生徒たちに詰め寄るお兄を尻目に、教室へと向かいます。



「……いいの?」


「なにがですか? あぁ、あとで怒られるかもしれませんが、バレてしまったものは仕方ありませんし、あの女生徒たちには元々お兄たちへの付き纏い(ストーカー行為)で罰を受けてもらう予定でしたから」


「……そうなんだ」


 そう話しながら、教室のドアを開けると、一斉にこちらを向いた視線がそのまま固まります。



「る、ルリー……え、その髪色……え?」


 混乱しながら問いかけてくるハイリアにわたくしは答えます。



「あぁ、自己紹介がまだでしたね。今年の特待生のわたくし、ルリアンヌと申します。この国の第一王女ですわ」


「「ええええ!?」」


 慌てて臣下の礼をとる、話したこともないクラスメイトの皆様。


「え、ルリーって呼ぶの、失礼じゃ、え、不敬罪?」


 混乱の極みにいるハイリア。


「ふふふ」


 思わず笑ってしまいましたが、平民だけでなく王族にも苗字がないのに、本名を名乗っても意外とバレないものなんですね?

帰宅したら、学園で陰口を言われていたことを隠していたことや魔力暴走で身バレしたことで、両親たちに怒られましたわ。わたくしが口止めしていた影たちは怒られないようにおねだりしておきましたわ。

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