7 レイムVSカリウ
カリウ「本当にやるのか?」
「震えてるぜ?」
カリウはトゥーパで一番強いが、レイムとの差は大きくない。
しかし、カリウの戦闘は相手に恐怖を植え付ける。
故にレイムは一度戦意喪失しており、カームの一件がなければキーパーを辞退していただろう。
とは言え、カリウへの恐怖を払拭できずに挑んでもレイムに勝ち目はないのだが。
トゥーパのキーパー決定戦は、30分の時間制限付きだ。
そして、お互いにセコンドが1人付き、お互いに1度だけ任意のタイミングでタイムアウトを取ることが出来る。
レイム「アタシのセコンドはカームで良いや。」
「あんたはリンガーさんの完璧なセコンドで挑んできたら良いわ。」
カリウ「安い挑発だな。でも良いぜ乗ってやる。」
「ボクのセコンドもバサリンで良い。」
レイム(よし。これで何とか勝機が見えてきた。)
カームはトゥーパ出禁だが、キーパー決定戦は全てのルールより優先される。
キーパー決定戦のセコンドに指名されたカームは、決定戦が終わるまで出禁解除となる。
レイムはカームを呼び、一緒に新しい剣と試合用の回復薬を買って試合会場に向かう。
カーム「レンロラでは、そんなルール無かったから良いセコンド出来る自信ないんだけどな。」
レイム「良いの。戦闘経験はあるでしょ。アタシがヤバそうなときにタイムアウト取れば良いから。」
「多分、いきなりでもバサリンよりは良いセコンドしてくれるって信じてるから。」
因みにバサリンはカリウの取り巻きの一人。
魔法使い系だが、回復魔法は苦手。
決してセコンドとして有能ではない。
お互いの戦闘準備が整い、二人は睨み合う。
リンガー「カリウがセコンド拒否してきたから審判やるぜ。」
「戦うのが息子だからって、贔屓はしないから安心してくれよな。」
「それでは、試合開始!」
先制はカリウ。
最高速度でレイムの背後に回り込み、尻を触りに行く。
しかし、それを予期していたレイムはカリウに火炎放射を喰らわす。
カリウ「てめえ、やりやがったな!」
レイム「バサリンがセコンドの時点で読めてんのよ。」
「アタシのことバカにして楽しもうって魂胆が見え見え。」
「こういうので相手を動揺させて流れを掴むのも、あんたの常套手段だもんね。」
レイムは冷静だった。
憧れのカーム、でも年下のカーム。
このカームの前で恥ずかしい試合は出来ない。
この気持ちで、カリウへの恐怖を克服できるという計算。
レイムにとって、カームにガッカリされるより怖いことはないのだ。
カリウは人が恐怖を感じるように怒号を浴びせるのが得意だ。
そして、溜めからの防御不可の攻撃。
高速移動からの予測不能攻撃。
これらを効果的に活用し、相手の体力よりも心を削るカリウ。
しかし、今のレイムの心は削れない。
火炎放射の直撃で僅かに動きのキレが落ちており、故にレイムと完全に五分。
五分だと解れば、恐怖する理由はない。
レイムは、カリウと互角に戦えていることが嬉しくて表情が緩む。
しかし、カリウは格下と思っているレイムを出し抜けなくてイライラしている。
この表情で、カリウのピンチと判断したバサリンが、試合開始から15分後にタイムアウトを取る。
カリウ「おいコラてめえ、別にボクは劣勢でも何でもないんだけど、どういうつもり?」
バサリン「ひっ、解ってます。解ってますけど、カリウさんがレイムと互角って悪い流れっすよね。」
「だから、流れを変えた方が良いかと思ったんです。」
カリウ「フン!」
カーム「どうやら風神剣を抜けば、俺にも回復魔法が使えるみたいなんだ。」
「回復してやるから横になって。」
レイム「それはありがたいねー。」
カーム「セコンドとして他に何して良いか解んないからな。」
レイム「良いの良いの。あなたのお陰でリンガーがセコンドじゃなくて審判なのよ。」
「リンガーがセコンドだったら、アタシ100%勝てないからね。」
レイムにとって良い流れは切れたが、レイムだけ回復魔法で回復しているので、依然互角。
結局、カームがタイムアウトを取ることもなく、決着がつかないまま試合終了のゴングが鳴った。
カリウ「父さん、キーパー戦で引き分けってどうなるんだ?」
リンガー「決着が付かなかった場合は、精霊具に選んでもらう。」
リンガーは、二人の間に業火双爪を置いた。
すると、レイムの右手とカリウの左手に業火爪が一つずつ装備された。
リンガー「前代未聞だが、これは二人とも選ばれたってことだな。」
「お前ら、一緒に旅したくはないんだろ?」
カリウ「ボクは別に嫌ではないですけど。」
レイム「アタシとは嫌じゃなくても、カームとは嫌なんでしょ?」
「だったらお断りです。」
リンガー「まぁ良いさ、選ばれた君たちの判断が精霊の判断だ。」
「レイムはカームと、カリウはバサリンと旅をする感じで良いのか?」
レイム「アタシはそれで良いです。」
カリウ「ボクもそれで良い。そのつもりだ。」
それぞれが家族に挨拶し、旅の準備をしてトゥーパを出る。
二人は反目し、別々の方向に向かった。
しかし、結局この島を出るには港町イブランドに行くしかなく、程なくして再会することになるのだが。